ジェフ・ミルズ「THE TRIP」総括 戸川純やCOSMIC LABと探究する前代未聞のサウンドトリップ

終盤に待ち受けていた「凄まじい展開」

繰り返すが、ここで表現されるのは実体験の再現ではなくジェフのイマジネーションの産物にほかならない。未来的でありながらどこか「過去から見た未来」的な懐かしさを感じさせたのは、ジェフ個人の体験や記憶がそこに投影されているからだろう。明確なストーリーも説明的な映像もないから、理屈や感情ではなく聴いて、見て、(床を伝う重低音の振動を)感じるしかない。必然的に観客はジェフの作り出す仮想宇宙から、自らの内面に向き合う。それは終わりのない、目標も目的もない、時間も空間も超越したインナースペースへの旅だ。地鳴りのような重低音が時に不安を、時に孤独や悲哀を、時に圧倒的な高揚感と刺激を与える。音響の素晴らしさはこの会場ではいつも感じることだが、今回もまた耳の奥の奥まで、脳みそのしわのひとつひとつまでマッサージされたような快感だった。


Photo by Yukitaka Amemiya


Photo by Yukitaka Amemiya

旅の終わりのラスト30分は、それまでの精密に組み立てられたクールでインテレクチュアルなコンセプチュアル・アートを自ら引き裂いていくかのような凄まじい展開が待っていた。TR-909を駆使したおそらくはその場の即興に近い荒々しくエネルギッシュなプレイで、一気に会場は灼熱のダンスフロアと化して、そのままショウは終了した。彼がテクノ史上最強のDJのひとりであることを改めて、骨の髄まで知らしめるすさまじいラスト30分だった。

ジェフの宇宙指向はアフロフューチャリズムとの関連性で語られるが、そうした理屈や思想はあとからついてきたものであって、彼自身は単に空想好きで、豊かな感性と想像力を持ち、自己のイマジネーションを的確に具現化する並外れた才能を持った音楽家、というだけなのかもしれない、という印象を持った。実は今回の来日のタイミングでジェフに対面取材したのだが、残念ながらショウの前。終わった今、もう一度改めて話を聞きたい衝動に駆られている。

【写真ギャラリー】ジェフ・ミルズ「THE TRIP」ライブ写真(全34点)






ジェフ・ミルズ
『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
詳細:https://www.umaa.net/what/thetrip.html

◎配信・ダウンロード(全12曲収録)
https://lnk.to/JeffMills_TheTripEnterTheBlackHole

◎CD(全13曲収録)
2024年4月24日リリース
※CDのみボーナストラック収録

◎アナログレコード(全8曲収録)
2024年5月下旬リリース
LP2枚組、帯・ライナー付き、内側から外側へ再生する特別仕様、数量限定




COSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』
オフィシャルサイト:https://www.thetrip.jp

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE