エイフェックス・ツインがついに帰還 時代を変えたテクノ伝説とデビュー32年目の現在地

エイフェックス・ツイン

 
エイフェックス・ツイン(Aphex Twin)の5年ぶりとなる最新作『Blackbox Life Recorder 21f / In a Room7 F760』が7月28日に世界同時リリースされる。エレクトロニック・ミュージック史上最大の鬼才はどこへ向かおうとしているのか? 音楽ライターの小野島大にこれまでの歩みと最新モードを解説してもらった。

エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスと言えば、90年代以降のエレクトロニック・ミュージックの潮流を決定づけ、テクノというジャンルの確立に多大な貢献を果たした音楽家である。

去る6月21日、5年ぶりの新曲「Blackbox Life Recorder 21f」を発表。同時に同曲を含む4曲入りEP『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』を7月28日に全世界同時発売するという一報が流れた。その途端、日本盤発売元のBeatinkの公式サイトには予約が殺到し、一時的にサーバーがダウンするという事態になったのである(私も殺到したひとりだった)。言ってみればテクノという決してメジャーとは言えない音楽ジャンルの、それも50歳を超えるベテランが久々に4曲入りのEPを出すという、ただそれだけのことでこんな騒ぎになるのである。今年デビュー以来32年目を迎えたが、そのカリスマと影響力は依然衰えていない。


エイフェックス・ツイン、2000年頃の写真(Photo by Andy Willsher/Redferns/Getty Images)

1971年に生まれたジェイムスは地元英コーンウォールでDJとして頭角を現し、1991年のEP『Analogue Bubblebath』でデビュー。翌年のシングル「Digeridoo」がハードコア・テクノ全盛のダンス・フロアで大評判となり、同年末にリリースした1stアルバム『Selected Ambient Works 85–92』がNMEを始め各メディアで絶賛されて、一躍テクノの枠を超えるプロップスを得ることになる。90年代のジェイムスはエイフェックス・ツイン、AFX、ポリゴン・ウィンドウなどさまざまな名義を使い分けながら膨大な量の作品を発表し続け、そのつどシーンにセンセーションを巻き起こし時代の寵児として生き急ぐように疾走していた。



その過程で、初期の無垢で無邪気で内向的で夢見がちで謎めいてもいた天才少年のイメージは消え、いつのまにか冷笑的でシニカルで悪意に満ちた露悪的なトリックスターのイメージに変わっていった。3作目『...I Care Because You Do』(1995年)のジャケットに描かれた奇怪な自画像に始まり、「Come to Daddy」や「Windowlicker」での醜悪なまでに誇張されカリカチュアされたパブリック・イメージの増幅の果て、『Drukqs』(2001年)を最後にジェイムスは活動休止期間に入る。そして13年ぶりのアルバム『Syro』(2014年)でカムバック。2017年には20年ぶりにフジロックのステージに立ち、ロンドンのヴィジュアル・アーティスト、ウイアードコアによるスカムでジャンクな映像コラージュと絨毯爆撃のような激烈なテクノ・ノイズを合体し、常軌を逸して高揚したグロテスクなポップ・アート空間を圧倒的な強度で見せた。かつてのテクノの革命児は未だゴリゴリに尖った最先鋭であったし、その壮絶な現場はさながら、テクノがいつまで挑戦的で攻撃的で規格外の音楽でいられるかという闘いのようでもあった。



『Syro』収録曲「T69 Collapse」

 
 
 
 

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