リアル・エステートが語る「郊外の日常」を歌う理由、ギターポップと共に年齢を重ねる喜び

ギター・ポップは10代だけのものではない

―アルバムにひとの名前をつけるという発想は、親が子どもの名前を決めるような感じがするとわたしは思いました。もし『Daniel』が子どもだとすると、どんな特徴を持った子どもだと思いますか?

MC:アハハハ(笑)。そうだなぁ……『Daniel』は気さくで付き合いやすいけど、気分屋で……「実はこの水面下には何かあるのかも」というふうに深く熟考できる子どもかな。フレンドリーだけど、内面はミステリアスで。希望的観測だけどね。

―わたしはいま39歳なのでみなさんと近い年齢で、自分は子どもがいないのですが、同世代の多くの友人が子育てをしている世代です。で、わたしはいまもギター・ポップを聴くのですが、「究極的にギター・ポップはティーンエイジャーのための音楽だ」という意見を聞くと、考えこんでしまいます。あなたは、そうした意見に賛成ですか? 反対ですか?

MC:いや、ギター・ポップはティーンエイジャーだけのものではないと思う。すべての音楽はみんなのものだから。僕は10代の頃はギター・ミュージックばかり聴いていたけど、いまはいろんな音楽を聴いている。子どもがいると、普段聴かないような音楽……たとえばサントラ『モアナと伝説の海』のようなディズニー音楽を聴かざるをえない。ギター・ポップはみんなのものだよ。そもそも、みんなが大好きなビートルズだってもともとはギター・ポップ系として見られていた。どんな音楽もみんなのもの。このトピックはさらに深掘りできるから、非常に興味深いね。

―インディ・バンドを長く続けるというのは簡単なことではありません。メンバーそれぞれの人生があったり、もっと単純に、モチベーションが続かなったりという話をよく聞きますよね。リアル・エステートが長く続けてこられた一番の秘訣は何でしょうか?

MC:秘訣は……ずっと継続してきたことかな。ときには曲作りのインスピレーションが湧かないこともあるよ。この新作録音後はしばらく曲を書いていないけど、またそのうちインスピレーションが湧いてきたら、新曲を書く予定。10代の頃から、僕はずっと曲を書き続けてきたんだ。それから、バンド・メンバーの大半は幼馴染みだから、いつもいっしょにいるし、いっしょに音楽を作り続けたい。つねにバンド活動している必要はないけど、昔からの仲間だから、一休みしたあとにまた集まることができる。そして長く続けていると、自分たちが何年もかけて積み上げてきた作品の数々を目にして嬉しい気持ちになる。このバンドが自分の人生すべてだとしたら大変だけど、メンバー各自にプライヴェートな生活や人生における他のプロジェクトがあるから、リアル・エステートとしての活動はパズルの1ピースのようなものなんだ。



―本作のあとインストゥルメンタルのアルバムを予定しているそうですが、ずっと作りたかったというのはなぜなのでしょうか?

MC:次のアルバムがインストものになるかは正直わからないけど、いずれはそうしたいと思っている。長い間、インスト・アルバムを作りたいと思っていたからね。もともと、僕らのアルバムにはインスト曲が1、2曲はあった。リアル・エステートの音楽は歌ものが多いけど、インストゥルメンタルの要素はとても重要。ヴォーカル曲でも、長めのインスト・パートを入れたりするから。当初考えていたのは、ヴォーカル入りポップ・ソングのアルバムを制作し、その後にサイケデリックでジャミーなアルバムを手がける案だった。リアル・エステートにある、ポップな面とインストゥルメンタルという面を表現できたらエキサイティングだね。次のアルバムになるかどうかはわからないけど、いつかインスト・アルバムの制作が実現できるといいな。

―インストゥルメンタルの音楽ではどういったものが好きなんですか?

MC:クラシック音楽も聴くし、ジャズも大好き。それから、卓越したミュージシャンであるジョン・キャロル・カービーの作品からもインスピレーションを受けているね。彼のような音楽を作るのは難しいだろうけど、その音楽を聴くと、インスト作品を作りたい気持ちに駆られる。とてもエモーショナルで、歌詞がなくても、楽曲が多くを語っているから。それから、フェルト(FELT)のようなバンドも好き。ヴォーカルが入っているけど、リアル・エステート同様に、長いインスト・パートで表現した文脈がじつに豊か。好きなインストものはたくさんあるよ。


Photo by Sinna Nasseri

―『Daniel』は、リアル・エステートをはじめて聴くという若い世代のはじめの1枚としても薦めたいアルバムだとわたしは感じました。実際、若い世代のリスナーが増えている実感はありますか?

MC:増えているといいなぁ(笑)。どうなるかわからないけど、このアルバムは本当にいい作品だと自負している。誰でも聴きやすい楽曲揃いで、気取った感じも一切ないと。アルバム制作にあたり僕らが目指したことは達成した。はじめてリアル・エステートを聴く若い世代にとってこのアルバムが僕らはじめの1枚として良いものであればいいなぁ。 前作『The Main Thing』は、若干風変わりかつダークで、僕らのスナップショットという感じでもないし、「はじめて聴くリアル・エステートのアルバム」という感じでもないから。 このアルバムをはじめて聴いたひとたちが「このバンドの作品をもっと聴きたい」と感じ、リアル・エステートの他の作品も聴いてくれたら嬉しい。これからツアーに出るけど、若いひとたちも観に来てくれるいいなぁ……僕らみたいな30代後半のオーディエンスだけじゃなくて(笑)。

―本当にそうですね。ぜひ日本でもライヴを観られることを楽しみにしております。

MC:うん。日本公演をきっと実現させたい。それから、僕の家族を日本に連れていきたいね。初来日公演には僕の妻もいっしょに来たんだ。日本公演終了後は2週間かけてふたりで日本中を旅行した。日本は大好きな国だから、また行きたい。次回は 子どもたちに日本を見せたいなぁ。楽しみにしているよ!




リアル・エステート
『Daniel』
2024年2月23日リリース
国内盤:ボーナストラック追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13814

Translated by Keiko Yuyama

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