リアル・エステートが語る「郊外の日常」を歌う理由、ギターポップと共に年齢を重ねる喜び

「郊外の日常」にポエトリーを見出す

―『Daniel』はパンデミックの時期からの再生というテーマがゆるやかに全体にあるとのことですが、パンデミック期間中もっともつらかったことは何ですか?

MC:一番大変だったのは、ミュージシャンとしての活動が停止したこと。ツアーもライヴもすべてなくなり、収入を得ることも困難だった。すべてを考え直さなければならなかったし、ミュージシャンとしてのアイデンティティも考え直すことになった。「音楽ができないとしたら、自分はいったい何者?」ってね。子持ちの大人の男として、これまで音楽一筋で生きてきたけど……じつは音楽以外に何もないということに気づいて……(苦笑)。 いろんな意味で怖い時期だった。いまはツアーできる状況になったけど、今度はうちの子どもたちの成長に伴い、ツアーをするのが難しくなってきた。

パンデミック中は、バンド・メンバーたちと集まることもできなかったし、ツアーもできず大変だったよ。やめる選択もあった。でも、「もう1枚アルバムを作ってみよう」という話になり、新作『Daniel』の制作を決断したんだ。実際、着手してよかったよ。パンデミック中は非常に奇妙な期間だったけど、僕にとってはその奇妙な時代がいまも続いている気がする。

―『Daniel』の多くの曲で日常や生活の風景が描かれているのは、パンデミックがあって、当たり前に日常を過ごせることの喜びをあらためて感じたから、というのもありますか?

MC:うん。でも、日常生活を歌詞に取り入れたのは前作から。自分の「人生のスナップショット」は、僕にとって興味深い題材。日々の生活で起きたことが音楽というパワーを得て昇華したとき、作品が出来上がるのはいつも神秘的。自分の人生における日常的な題材を音楽に乗せて歌うのは、僕にとって楽しいことだよ。同時に、それは、自分自身を探求することでもある。父親である僕は、子どもたちをサッカー練習に連れていく。そういったことは、楽曲として昇華できるほどにエキサイティングかつ重要なことなんだ。日常生活に「詩(ポエトリー)」を見出すって、いい考えだよね。

―1990年代のシットコム番組「The Adventures of Pete & Pete」(ピートとピートの冒険)を引用した「Water Underground」のミュージック・ビデオは少しビターでスウィートな楽曲と合っていると感じますが、これはどのように出てきたアイデアだったのでしょうか?

MC:じつはずっと前から「The Adventures of Pete & Pete」を引用したミュージック・ビデオを製作したかったんだ。日本ではそこまで人気ない番組かもしれないけど、僕が育ったニュージャージーの郊外から比較的近い場所で撮影されていたこともあり、共感できる箇所が多かった。子ども時代の僕にとっては重要な番組で、大好きだった。番組に出演していた俳優ダニー・タンベレーリにも会ったことがあって、ミュージック・ビデオを製作する度にメンバーたちと「“Pete & Pete”を引用した映像を製作したいね」って話していたんだ。 ある日、ダニーに「Water Underground」のミュージック・ビデオ出演の話を持ちかけたところ、快諾してくれた上に共演していた他の俳優たちにも声をかけてくれて、夢のようだった! とても素晴らしいビデオに仕上がったし、あの映像は楽曲にピッタリだと思う。すごくいい感じで、僕らが音楽にこめた温かみがある。とてもいい経験だったよ!




―そのビデオにもサバービアのイメージが出てきます。リアル・エステートは郊外を描いてきたとよく言われますが、いまは子どもを育てる場所という意味もあり、サバービアに対して抱くイメージや感情も変化したのでしょうか?

MC:うん、変化したね。このバンドを始めたばかりの頃は、ノスタルジックな気持ちで郊外を描き、自分の青春時代を振り返るような切ない楽曲を書いていた。そしていま、僕は再び郊外に住み、子供たちを育てている。 現在住んでいる郊外の街は僕がかつて育った場所とは違うけど、イメージや感情は変わったね。薔薇色の青春時代を振り返るのではなく、日常的な歌詞をより多く書くようになった。郊外育ちのひとたちって郊外を「退屈な場所」と捉え、そこから抜け出そうとしている感じがするよね。都会に住んでいるほうが面白いし、クールなこともたくさん経験できるから。でも僕は、あえて格好悪い題材を歌うほうが面白いと思った。郊外の日常生活を描くのが好きだから。

―アルバムは真ん中に収録されている「Freeze Brain」で少し雰囲気が変わりますよね。とくにリズム感にグルーヴがある楽曲ですが、この曲はどのようにできたのでしょうか?

MC:この「Freeze Brain」の演奏法は偶然生まれたんだ。もともとこの曲のデモを自宅で録音したときは、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン的なヘヴィで速いナンバーだった。同じ感じでレコーディングしようと当初は考えていたけど、スタジオ入りしたときにドラマーのサミーがドラム・セットを慣らすためにファンキーなドラム・ビートを叩き始め、僕らもその後を追うようにジャムった。その結果、「すごくいい感じだから、このままレコーディングしよう」って盛り上がってね。このテイク後に本来は速いヴァージョンも録音する予定だった。でも、スタジオ・レコーディングの進行が早くて、次の曲に移ることになり、結局速いヴァージョンは録らなかった。その場で思いついたこのヴァージョンのほうがアルバムの雰囲気に合っている気がするから、結果としてはこれで本当に良かったよ。


一番左がサミー・ニス(Photo by Sinna Nasseri)

―サミー・ニスさんが新たにドラムに加入したことで、バンドとしての変化を感じましたか?

MC:うん。彼女は素晴らしいミュージシャンで、自由自在に何でもできるドラマー。僕は自分の楽曲に関してドラマーにはこういうサウンドにしてほしいという具体案があって、サミーがドラムを叩くと、たいていは当初僕が想像していた以上の素晴らしいものに仕上がるんだ。「Freeze Brain」でクールなビートをその場で思いついたように、サミーはいいアイデアを思いつく素晴らしい音楽性の持ち主。彼女のようなミュージシャンが新たに参加したことは、リアル・エステートにとって嬉しいことだった。性格面でもみんなとうまくやれるから、彼女のようなひとがバンド内にいることはいいね。僕らはみんな仲良しだけど、クリエイティヴ面では意見の相違もある。サミーはいいヴァイブスをいつも放っているから、最高だよ。

Translated by Keiko Yuyama

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