「性的暴行の被害は他の人種の2倍」アメリカ先住民女性の変わらぬ現実

ブラックエルクさんも自由への戦いをあきらめなかった。不十分な弁護と検視報告書の結果をふまえ、新たに任命した2人の弁護人と「グレートノース・イノセント・プロジェクト」の手を借りて有罪確定後の救済請求を申し立てた。判事は再審開始までブラックエルクさんを釈放するよう命じた。

2023年1月30日、ボーゲン判事はブラックエルクさんの司法取引取り下げ請求を認めた。そして10カ月後の10月9日、州は公訴無効の手続きを行い、彼女の有罪記録を抹消。翌日ブラックエルクさんは釈放された(ビスマルク警察署はローリングストーン誌に宛てたメールの中で、自分たちの仕事は容疑者を事情聴取するだけで、事情聴取での情報がどう扱われたかを判断するのは刑事司法の役割だと指摘した。「最終的には刑事司法の判断次第です。今回の場合、結果的として公訴無効となりました」(ブラックエルクさんの元弁護人にもコメントを求めたが、返答はなかった)。

キュイザンス姉妹は晴れて釈放されたが、裁判はまだ終わっていない。拘束から30年近く経過した2023年3月、姉妹は条件付きで釈放された。判事は判決文の中で、寄宿学校で2人が過ごした時間やグラデュー公判[訳注:カナダ刑法で、先住民に対する刑事訴訟のこと]の要因(人種差別、身体的虐待、文化および家族との隔絶、麻薬およびアルコール依存症など、先住民が直面する問題)を釈放判決の理由に挙げた。

姉妹は今も裁判無効の審理の結果待ちだ。

こうした事件により、制度的人種差別で先住民が被った損失や悲劇が明るみになる中、変化を求める動きも見られている。アメリカのデブ・ハーランド内務長官は2021年にネイティブアメリカン初の入閣を果たし、歴史に新たな1ページを刻んだ。同じ年、長官はただちに行動を起こし、すべての連邦政府の所有地から先住民女性に対する蔑称「squaw」という名称を削除した。また「インディアン寄宿舎学校連邦対策部」を設置し、旧ネイティブアメリカン寄宿舎学校で行われていた虐待の捜査を開始した。

先住民女性初の連邦下院選挙で当選した議員の1人、シャリース・デイヴィッズ議員も法改正を強く呼びかけた。2020年にはデイヴィッズ議員、ハーランド長官、トム・コール議員、マークウェイン・ムーリン議員が(いずれも連邦政府公認の先住民族)「Not Invisible Act」を提出。未解決のまま放置されがちな先住民女性の失踪・殺害事件への注意喚起を促すこの法案は、4人の尽力で可決された。

ハーランド長官はメリック・ガーランド司法長官の協力のもと専門委員会を立ち上げ、事件被害者や被害者家族向けのリソースの拡大や、ネイティブアメリカンやアラスカ先住民の間に蔓延する失踪、殺人、人身売買の撲滅に当たっている。

支援者や政治家により少しずつ前進が見られたことで、カサンドラ・ブラックエルクさんやキュイザンス姉妹のような事件に希望の光が差し込んでいる。彼女たちをはじめ無数の女性たちの経験は、痛みや不正義まみれだとしても、決して無駄には終わらないだろう。彼女たちの経験により、制度改革が喫緊の課題であることが明るみになった。

政策転換であれ、法改正であれ、冤罪証明であれ、ひとつひとつの前進が未来への1歩となる。将来的には、こうした悲劇も目の前の現実ではなく、歴史的注釈となるだろう。我々に課された義務はこうした事件に関心を払い、先住民に不正義をもたらす制度上の障壁や文化的偏見の排除に奔走する政治家や活動家を支援すること。そうすることで、社会全体が力を合わせ、同じ悲劇を繰り返さないだけでなく、全ての人々、とりわけもっとも虐げられた人々の正義と平等を維持する社会を構築することができるのだ。

Akiko Kato

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