恋人と愛犬をナイフで惨殺した女性、大麻乱用と精神錯乱の相関関係 米

とはいえ、大麻は世間が思うほど安全だとは限らないというのが博士の意見だ――検察だけでなく、犯罪精神科医のジヴ・コーエン博士も同意見だ。「大麻は広く受け入れられ、常用する人も多く、無害だと考える人も多いため、今回のようなことが実際に起こりうるとは世間になかなか受け入れられません」と博士はローリングストーン誌に語った。「データや研究からも、大麻が精神錯乱や重度の疾患発症と関係していることは明らかです。ですがあまりにも大勢の人が大麻を使用する一方、ごくごくまれに大麻使用で精神錯乱を起こす人がいるのも事実です」。

しばしば引き合いに出されるのが2019年に学術誌『ランセット・サイカイアトリー』で発表された研究だ。そこには大麻常習と精神錯乱に相関関係があると記されている。だが全米で大麻法改正を推し進める団体NORMLのポール・アルメンタノ副主任はかつてローリングストーン誌の取材で、こうした研究は話半分にとらえるべきだと語っている。精神錯乱に陥った原因が大麻なのか、それとも他の薬を摂取していたからなのか、必ずしもはっきりしないからだ。また研究が行われたヨーロッパの都市では当時ほとんど大麻は違法だった。闇マーケットで売られていたケースが多いため、大麻の成分も疑わしい。

スペイシャー被告の刑に関しては、コーエン博士も「私が知る限り、殺人罪に対して社会奉仕が命じられた例は聞いたことがない」と口をそろえた。大麻がらみの事件に長年携わる弁護士のメイタル・マンズーリ氏も、今回のようなケースはお目にかかったことがないと言う。「ここまでドラマティックな事件は聞いたことがありません」と同氏はローリングストーン誌に語った。「精神錯乱は極めて珍しいわけでもありません。珍しいのは暴力的な反応ですね。具体的にどんな状況だったのか誰にもわからない。ですが前例という点で言えば、おそらく頭の切れる被告弁護士が自分の担当裁判で、今回の事件を前例として持ち出せるのではと考えるかもしれません」。ローリングストーン誌が取材した限り、こうした犯罪が過去にあったと断言できる人は誰もいなかった。

だが最終的には2つの家族が引き裂かれた。当然ながら、まずはオメリアさん一家だ。チャドさんの母親は息子の死から約1年後に他界した。糖尿病を患っていた母親は、悲嘆にくれるあまり自分の身体を顧みなくなったとチャドさんの父親は語った。またある意味ではスペイシャー家も、娘が人生を奪われたことを嘆いている。

「今回の事件で彼女は心的外傷後ストレス障害を患い、この5年間は治療のためにセラピーに通いづめでした」。スペイシャー被告の弁護団の1人、マイケル・ゴールドスタイン氏はローリングストーン誌にこう語った。「オメリアさん一家が息子を失った事実は、彼女も決して忘れていません。一生記憶に残り、彼女はふつうの生活を送ることもできないでしょう。今回の事件は悲劇でした。そして残念なことに、結果として2つの家族を壊すことになってしまった」。

Akiko Kato

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