恋人と愛犬をナイフで惨殺した女性、大麻乱用と精神錯乱の相関関係 米

オメリアさん殺害当夜を振り返ってみると、発端はいたって普通だった。2人は数週間前にドッグランで知り合って交際を始めた。その日2人はオメリアさんのアパートで過ごし、スペイシャー被告はオメリアさんの吸引パイプで2回大麻を吸った。被告によると、2回目の吸引後に気分が悪くなり、オメリアさんの言いなり状態だったそうだ。今まで大麻でこんなことになったことはないと本人は主張したが、検察は「被告は酩酊状態にふけっていた」と断定した(ローリングストーン誌はスペイシャー被告にコメントを求めたが、断られた)。

被告本人の証言によると、2回目の吸引直後は時間が何度も繰り返しているような感覚に襲われ、やがて自分は死んでいると思い込んだ。それから意識が自分の身体から離れ、2本のナイフを手にして犬とオメリアさんを刺しているのを俯瞰で眺めているようだったという。そこから先は記憶がなくなった。その間、スペイシャー被告は刃渡りの長い波刃のブレッドナイフで自分の首を刺し始めた。

警察にはオメリアさんのルームメイトのヴィニー・オリヴィエラさんが通報した。警察のボディカムには事件終盤のもようが収められている。警察は被告にスタンガンを4度発射し――おそらく被告に反応が見られなかったのだろう――警棒で9回叩いて、ようやくナイフを手放させた。被告は腕を5か所骨折した。被告は病院に搬送され、酸素吸入をされた状態で当局の尋問に筆談で応じた。弁護士いわく、事の次第を尋ねられた被告は「もういらないと言ったのに、彼に2回目を吸引させられた」と書いた。

この発言をめぐり、弁護団と検察との間で意見が衝突した――裁判でこの発言が取りざたされると、陪審は彼女が「自らの意思に反して酩酊状態だった」、つまり2回目の吸引は彼女の選択ではなかったという考えを退けた。「彼は椅子から立ち上がり、私の顔にパイプを向けると、それを押し付けて『早く、急いで、すぐに吸わないと』とせかしました」とスペイシャー被告は証言した。「あっという間でした。いやだと言えない気がして、パイプから吸引しました」。ナフジガー検事は裁判でこれに反論し、スペイシャー被告が自らの意思で吸引したと主張した。検事はローリングストーン誌の取材でも、事件直後の供述書には被告が意図して2回目を吸引したと記載されていたと付け加えた。検事いわく、当初供述書は検察に公開されなかったそうだ。

「事件当夜、スペイシャー被告はチャドさんに連絡し、夜10時30分ごろ車でチャドさん宅へ向かい、大麻を少しやりたいと相談した。その事実が動かぬ証拠です。被告はハイになりたかったんです」とナフジガー検事はローリングストーン誌に語った。「裁判関係者の中には、これだけの証拠や陪審の判断を前にしても、あれは故意の吸引ではなかった、と言い続ける人がいます。私に言わせれば、それは残酷かつ間違っています」。

とはいえ、あの夜スペイシャー被告は自らの意思で吸引に同意することができない状況だった、というのが弁護団の主張だ。また被告が常習者ではなく、大麻の効力がそこまで強いとは予想していなかったとも主張した。第1に、事件前夜にオメリアさんのルームメイトのオリヴェイラさんが同じ吸引パイプを使い、酩酊して死後の世界の幻覚を見たことを被告は知らなかった。スペイシャー被告は同じ大麻を吸ったと弁護団は推測している。第2に、事件当夜に吸った大麻は違法の宅配サービスで取り寄せたものと見られ、常習者限定との注意書きが記載されていた。第3に、オメリアさんは3フィート長のパイプに数回分の大麻を詰めスペイシャー被告に渡した。そのため余計に効き目が強くなったと弁護団は主張した。

弁護団いわく、警察当局は事件後にパイプの薬物検査を行ったが、THCが検出されただけで効力やその他の成分の有無は判定できなかった。弁護側が雇った医療専門家のダニエル・バッフィングトン博士はローリングストーン誌の取材に応じ、薬物検査は100%確実とは言い切れないと語った。また問題の大麻は違法ルートで購入されたため、検査では検出されないような物質が混入していた可能性もあると述べた。

「全米屈指の科学捜査ラボも認めると思いますが、化学構造が頻繁に出現するまでは検査対象範囲には含めないのです」と博士。「ですから今回の場合も、効力の高さに加え、何らかの物質が混入していた可能性は否めません」。

Akiko Kato

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