セックス、ドラッグ、ケンカ…退廃的バンドマンの「素」を捉えた20年前の映画が復活

実際、『DIG XX』には追加映像や延長されたシーンが満載だ。数々の重要な場面についてあらためて考えさせられ、バンド対バンドという図式もさらにクリアに浮かび上がる。テイラー・テイラーは今も「いびきをかきながらヒット曲を書ける」と豪語するが、ドキュメンタリーではそうした自信がキャピトルの反感を買い、ダンディがすぐに儲けを出せないと、バンドが決めたことをレーベルから袖にされ、蔑ろにされたようすが伺える。パーティ三昧のアントン――今回もドキュメンタリーの主役だ――の相棒役、ジョエル・ギオンのカルト的存在感も健在だ。だが彼のナレーション、危機的状況をのらりくらりとかわそうとする追加映像から、彼がBJMに欠かせない存在だったこと、友人の自滅的傾向に苛立ちを覚えていたことがさらに浮き彫りになっている。



そしてアントン。ブライアン・ジョーンズタウン・マサカーの生みの親で、ドキュメンタリーの黒魔術師ニューコムは今回もまた、音楽業界で有望視されたキャリアがいとも簡単に砕けることを示す実例として描かれている。幻覚状態のアーティストにヒット曲を書かせた才能が、アーティストを狂気へと駆り立てた見本だ。だが今回のリメイク版で描かれるアントンは、支離滅裂というより悲劇的に描かれる。浮き沈みの連鎖がより詳しく、より際立っているようだ。アントンの両親が登場するシーンでは、彼らも少なからず害をおよぼしていたことが分かる。バックには「The Devil May Care (Mom and Dad Don’t)」が流れ、その歌詞は本人の心情がこれでもかと表現する。痛々しい。

「『Hype!』のダグ・プレイ監督に最初の編集を見せたの」とオンディは言う。「彼の意見は、『素晴らしい素材が揃っているが、主役をどうも好きになれない。ダメ男じゃないか』。それで気が付いたの、観客が彼を好きになれないのは、私が彼を好きじゃないのが伝わってるからだって。実際私はアントンが大好きだったし、彼の才能を信じてた。でもたくさんあったチャンスをだめにしたアントンに怒りも感じていた。そういう怒りが映画にも反映されていたのね。駆け出しの映画人にはすごくためになる教訓だった。主題に対して、観客に興味を持ってもらわなくちゃいけない。そしてその興味は私から始まるんだってね。そのことを十分考えながら『DIG XX』を編集した」。

そうした配慮がありつつも、悪行や身を亡ぼす過剰なエゴ、依存症への転落など多くのシーンは割愛されていない。オリジナルから20年、製作陣が当時目の当たりにした出来事に対する教訓、理解、赦しが、『DIG XX』で1ランクアップされていることがよくわかる。オリジナル版がプレミア上映された後、映画に登場するアーティストのその後についても補足されている。ダンディ・ウォーホールズは現在もツアーで演奏中。アントンは『ボードウォーク・エンパイア』のテーマソングを作曲し、アンソニー・ボーデンの番組『Parts Unknown』にもゲスト出演した。ジョエルはソロアルバムを数枚リリースし、短編小説を執筆中だ。『DIG XX』の結びには、昨年オースティンでダンディ・ウォーホールズとブラック・エンジェルス、BJMが1曲共演した時の映像が流れる。その直後、メルボルン公演でニューコムが再びバンドメンバーに癇癪をぶちまけるシーンも登場する。

Akiko Kato

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