『セックス・ピストルズ』ダニー・ボイル監督のドラマシリーズを事実検証

左からシドニー・チャンドラー(クリッシー・ハインド役)、タルラ・ライリー(ヴィヴィアン・ウエストウッド役)、トーマス・ブロディ=サングスター(マルコム・マクラーレン役)、トビー・ウォレス(スティーヴ・ジョーンズ役) Photo by Miya Mizuno © 2022 FX Productions. All rights reserved.

セックス・ピストルズの物語を描くドラマシリーズ『セックス・ピストルズ』が、7月13日(水)よりDisney+で独占配信スタート。本作はモトリー・クルー、クイーン、エルトン・ジョンをテーマにした最近の伝記ドラマよりも、史実に忠実に描かれている。しかし、それでも事実と異なる点もあるようだ。

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セックス・ピストルズの物語をドラマ化する初めての試みは、バンドが崩壊してからわずか2年後の1980年に公開された映画『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』(ジュリアン・テンプル監督)だった。マネージャーのマルコム・マクラーレンの視点で描かれたコミカルな同作品の内容はカートゥーン的で、実際に部分的にアニメが使われている。

『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』は、セックス・ピストルズをあらゆる角度から描いた回顧録シリーズの皮切りとなる作品だった。ゲイリー・オールドマンとクロエ・ウェッブの映画『シド・アンド・ナンシー』、ジュリアン・テンプル監督が『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』とは全く異なるアプローチでバンド自身にストーリーを語らせたドキュメンタリー『The Filth and the Fury』、そしてオリジナル・ベーシストだったグレン・マトロック、ギタリストのスティーヴ・ジョーンズ、フロントマンのジョン・ライドンが出版したそれぞれの自叙伝(ドラマーのポール・クックが自叙伝を出版すれば、回顧録シリーズは完結する)が、ピストルズの回顧録シリーズに連なる(客観的な視点を求めるなら、ジョン・サヴェージによる1991年の著書『イングランズ・ドリーミング』をお勧めしたい。)。

ダニー・ボイル監督による全6話の新シリーズ『セックス・ピストルズ』は、70年代半ばのロンドンにオープンした刺激的な衣料品店のオーナーが、社会からはみ出した10代のグループを、マンネリ化したロックシーンへ解き放つところから物語が始まる。その後、若者たちはすったもんだしながらも後世に残る傑作アルバムをリリースした。ところがバンドは、初の米国ツアーを開始してからわずか2週間後、見事に崩壊する。

本シリーズは、ギターのスティーヴ・ジョーンズによる自伝『ロンリー・ボーイ』を原作とし、彼を中心に展開する。しかしグレン・マトロックとポール・クック、そしてシド・ヴィシャスの遺族もさまざまな形で協力している。一方でジョン・ライドンは、予期せぬ行動ではなかったが、協力しないどころか元バンド仲間を法に訴えて、プロジェクトを止めようとすらした。「バンドの存在自体を破壊しかねない。極端にネガティブなプロジェクトになるのではないかと危惧している」とジョンは述べた。「本人に断りもなく俺の私生活やエピソードを取り上げるなど、どういうつもりだ。世界中へプロジェクトを予告する前に、俺にはまともな連絡もなかった。誠実さのかけらもない対応に、あきれて言葉もない。」

ジョン自身がドラマ『セックス・ピストルズ』の製作に口出しできず、ましてや主役でもないことに腹を立てているのだろう。しかし、クイーンやエルトン・ジョン、モトリー・クルーをテーマにした最近の伝記ドラマと比べて、『セックス・ピストルズ』の方がより史実に忠実だという事実を知れば、ジョンも少しは安堵するかもしれない。ただしこの手のプロジェクトによくあるように、真実が多少歪曲されるのは止むを得ないだろう。以下に8つの点に注目して、ファクトチェックをしてみよう。



1. グレン・マトロックの登場が早すぎる。

セックス・ピストルズが結成される数年前、幼馴染だったスティーヴ・ジョーンズとポール・クックはザ・ストランド(後のザ・スワンカーズ)というロックバンドを組んでいた。バンドにはは他に、ウォーリー・ナイチンゲール(Gt)、ジム・マッキン(オルガン)、スティーヴン・ヘイズ(Ba)が在籍した。ベーシストは後にデル・ノーワンズに交代している。ドラマ『セックス・ピストルズ』では、スティーヴがバンド名を「ザ・スワンカーズ」へ改名しようというところから始まる。ドラマではスティーヴン・ヘイズ、ジム・マッキン、デル・ノーワンズの存在は抹殺され、既にグレン・マトロックがメンバーになっている。実際は、スティーヴとポールがマネージャーのマルコム・マクラーレンと知り合うまでは、グレンの出番はない。自分のショップ「SEX」で毎週土曜日に働いていたグレンを、マルコムがバンドへ推薦したのが事実だ。


2. ホークウィンドのコンサート会場で、スティーヴが機材を盗んで逮捕されたという事実はない。

本人の話によると、スティーヴ・ジョーンズは少年時代に盗みを繰り返していたという。最も有名な話は、1973年7月にロンドンのハマースミス・オデオンで行われていたデヴィッド・ボウイによる『ジギー・スターダスト』ツアーのファイナルコンサートの会場から、多くの機材を盗み出した事件だ(同エピソードは、ドラマのオープニングシーンになっている)。しかしシリーズの第1話では、ホークウィンド(レミー・キルミスターがモーターヘッド以前に在籍していたバンド)の機材を盗んだスティーヴが、警察に叩きのめされた挙句に逮捕されたことになっている。実際にスティーヴは1974年夏に逮捕されてアシュフォードの拘置所へ送られたが、本人は理由を覚えていない。「人生に行き詰まると記憶が閉じてしまうという一例だ」と、彼は自伝『ロンリー・ボーイ』に書いている。

マルコムが判事に対して彼は善良な市民だと主張したおかげで、スティーヴは長期の実刑を免れた。ところがドラマの中では、判決が下される寸前にマルコム役が法定へ飛び込んできて、スティーヴは病気の母親の面倒を見ているとか、最愛のディッキーおじさんの死に直面して悲しんでいるとかの嘘を並べ立てている。

Translated by Smokva Tokyo

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