セックス、ドラッグ、ケンカ…退廃的バンドマンの「素」を捉えた20年前の映画が復活

『DIG XX』より、コートニー・テイラー・テイラーとアントン・ニューコム(COURTESY OF THE SUNDANCE INSTITUTE)

ダンディ・ウォーホールズとブライアン・ジョーンズタウン・マサカーを追いかけたドキュメンタリー『DIG!』の公開20周年を記念し、オンディ&デヴィッド・ティモナー監督が度肝を抜く未公開シーンを交えた作品をサンダンス映画祭で初上映した。

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昔むかし、西海岸で2つのバンドが革命を起こそうと企んでいた。

正確に言うと、1人のミュージシャンが壮大な計画を温めていた。レコード業界を転覆し、1960年代サイケデリックロックを大々的にリバイバルさせ、世界征服するという壮大な計画を。そのミュージシャンの名はアントン・ニューコム。複数の楽器を操るシンガーは、1990年代のバンドでも最高にイカしたネーミングのグループで、フロントマンを務めていた。グループの名前はブライアン・ジョーンズタウン・マサカー。バンド名以上に最高だったのが音楽だ。古き良きヘイト・ストリートのアシッドにまみれた懐かしいサウンドをとことんまで再現した。だがニューコムの神がかりなプレイと精力的な作曲活動のおかげで、通称BJMは単なる懐メロバンドやパロディバンドに終わらなかった。かつてのLSD狂騒曲に独自のスタイルを盛り込んで、ポスト・グランジ/ポスト・グリーンデイ時代の「次にくるバンド」と目されていた。

そのころ北のオレゴン州ポートランドでは、コートニー・テイラー率いるバンド――同じく最高にイカしたネーミングのダンディ・ウォーホールズ――が、往年のサイケデリアに鋭いオルタナロックのテイストを融合させていた。彼らはサンフランシスコ巡業でBJMと出会い、たちまち音楽やドラッグ、ボヘミアンなライフスタイルで同じスピリットを感じ取った。なかでもニューコムとタイラーの絆は強かった。ニューコムにとってテイラーとダンディは、かつてシタール1本で業界を叩き直そうと挑んだ戦いの共謀者だった。ダンディがキャピトルレコーズと契約すると、テイラーはことあるごとにレーベル幹部やA&R担当者にニューコムと彼のバンドを紹介した。革命はTV中継されることはなくとも、レトロなメロディを絶えず世に送り込む頬骨の高い(そしてハイになった)2人のアーティストが先導していくはずだった。

2つのバンドが自分たちのサウンドを大衆に発信しようとする、まさにその時期を描いたオンディ・ティモナー監督の2004年のドキュメンタリー『DIG!』をご覧になった方なら、その後の顛末はご存じの通りだ。気まぐれ。慢心。ステージ上での殴り合いの喧嘩。ツアーはさんざん、曲の中で互いにののしり合い、当の本人たちはもちろん周りも手が付けられなくなった。その中核にあったのは、友情から転じた対抗意識。ライバル関係はますますヒートアップし、かたや順風満帆、かたやどん底一直線となる。

サンダンス映画祭でプレミア上映され、最優秀ドキュメンタリー審査員賞を獲得した瞬間から、『DIG!』はたちまち名作の仲間入りを果たした。サブカル・ロックバンドがまだ音楽業界の「買い注目株」と呼ばれ、レコード業界も完全に食傷していなかった時期を描いた秀作だ。音楽ドキュメンタリー歴代ベストには必ずランクインし、TVドラマ『ギルモア・ガールズ』でもパロディ化され、ツアーバスではこの20年鉄板の鑑賞ビデオだ。「デイヴ・グロールから一度電話をもらったことがあってね」とティモナー監督。「開口一番、『本当にあんたか?! 今日あんたと話をするんだって言ったら、みんなウソだろ!!!って顔してたよ』と言われたわ。『ミュージシャンは全員あの映画を見てる。みんな、映画に出てくるバンドメンバーみたいなやつを知ってる。あれは俺たちの物語だ。俺たちみんな、ああいうことを経験してきたんだ』って」。

Akiko Kato

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