安田レイが新作で描いた「愛の形」、10周年を経て刻んだ新たなスタート

─「Not the End - With ensemble」と「Circles - With ensemble」はWith ensembleのYouTubeチャンネルに上がっている動画と同じ音源ですよね。あれはどこで撮影されたんですか。

横浜のコンサートホール(神奈川県立音楽堂)のロビーです。ホールの中の客席でも写真撮影をしました。すごくきれいですよね。ほぼファーストテイクなんですよ。一回リハーサルでサウンドチェックして、本番、終了!って感じだったので、けっこう緊張感がありました。しかもふだんの環境とあまりに違いすぎて、聞こえてくる音も当然違うし、ロビーの空間もそうですし、カメラも回っているし。だからすごく緊張しましたけど、みんな「この一発に魂込めよう」みたいにすごく集中してやったので、いいテイクが録れたと思います。



─何がいちばんいつもと違いましたか?

ドラムの音がなかったことですね。テンポをキープするのがイヤモニから聞こえてくるクリックの音のみなので、そのカチカチを聞きながらいろんな楽器の音に包まれて歌うのは本当に難しかったです。クリックがなかったら絶対すぐに見失っちゃうかもしれない。アレンジ的にも例えばサビのきっかけみたいなものがないんですよね。流れるようにサビが始まって、ちょっと進んでからまた音がぶわーっと盛り上がるみたいな感じだから、たまに「あれ? わたしサビちょっと早く入りすぎちゃったかな?」とか思ったりして。楽器の音が全部消えて、クリックだけでサビを歌うシーンなんかもあったので、かなりドキドキしました。

─とてもそんなふうには聞こえなかったですよ。

本当ですか? オーケストラと一緒は本当に初めてだったので、リハーサルのときはけっこう怖気づきました。「ちゃんと歌える気がしない……大丈夫かな?」と思ってたんですけど、家で何回も何回もリハの音源を聴いてタイミングを自分の中に徹底的に入れて、きっかけがないからこそちゃんとカウントをして、なんとか歌えました。いつもよりも歌がていねいだった気がしますね。

─演奏家も大活躍されている達人ばかりですものね。

そうなんですよね。わたしがいちばんテンション上がったのがハープでした。実物を初めて見たので。ハープって神秘的……繊細な音もそうなんですけど、弾いてる姿もきれいだな~と思って、うっとりしてました。

─メンバーは少し違いますが、7月に公演もされていますよね。

そのライブも、いまお話しした緊張感にプラスしてお客さんもいるので、「これはやばい!」と思って何回か心臓がふわっとしました。加藤ミリヤさんも出演されていたので、ライブが終わった後にお話ししたんですよ。「わたし本当に緊張して、歌詞が何回も飛びそうになりました」って話をしたら、ミリヤさんも「わたしも何回も間違えそうになった。この中で歌うの本当に難しいよね。よく頑張ったよ」みたいに言ってくれて、あんなに場数の多い方でも同じように緊張されるんだな、それだけ難しい環境なんだな、とあらためて思いました。

─はぁ〜、想像を絶する緊張と集中ですね。

事後に映像を見たり音源を聴くとまったく何の違和感も抱かないんですけど、歌ってる最中は……なんて言うんですかね。みんなクリックを聴きながら演奏してるんですけど、リズムってクリックがすべてじゃないじゃないですか。その場のわずかなリズムのズレも含めて気持ちのいいグルーヴが出るものですよね。なのにわたしはクリックに気持ちが行きすぎて、楽器で作ってくれたグルーヴに乗り切れてないな、「あ、むずかしい…」って歌いながら感じるポイントが何か所かありました。あれはなんだったんだろう、っていまだに思います(笑)。

─やったことがない僕が偉そうなことは言えませんが、アスリートと同じで、やっている最中はものすごく集中しているから、感覚が極限まで鋭くなって、出来上がったものを見たり聴いたりするのとは桁違いの解像度で……。

そうですね。その瞬間、音の中にいるときには、細かくいろんなものが聞こえていたからそう感じたのかな、とは思うんですけど。そういうグルーヴというか、うねりみたいなものにもっと乗りたかったなっていうのはありますね。

─とても貴重な経験をされたんですね。

はい。オーケストラの中に入って歌いたい、というのは本当に夢だったので、すごくうれしかったです。

─収録曲は5曲だけですが、曲調にもそれぞれが促す鑑賞法にもすごく幅があって、歌手・安田レイをきっちりパッケージしたEPなんじゃないかなと思いました。

ありがとうございます。デビュー10周年を迎えてTurn the Page(ページをめくる)をして、レーベルも移籍して、真っ白なページにこの『Ray of Light』を入れることができて、ここからがまた新たなスタートだと思っています。そのスタートにいろんなジャンル、いろんな世界観の自分を表現できた曲を収録できたのはすごくうれしいです。

Rolling Stone Japan 編集部

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE