SIRUP×CODY JONが語り合うコラボの裏側、音楽とファンに誠実であること

 
「2MANYTIMES」コラボの裏側

ーでは、次に「2MANYTIMES」の制作過程について伺えますか?

コーディ:どこから話そうかな……(竹田)ダニエルが僕のTikTokの動画をツイートしてくれたのがきっかけだったよね。そしたら、「めちゃくちゃバズってるよ!」ってDMがきて。「まさか!」って思いました。僕はTwitter(X)をやってなくて、連絡を受けてからチェックしたんだけど、たくさんの日本語のコメントがその投稿に付いていて。翻訳して読んだら、ありがたいことに曲をすごく気に入ってくれている内容だった。それから、ダニエルはSIRUPのことも紹介してくれて、彼の曲をいくつか聴いただけで、すぐにファンになったんです! 僕は、今回一緒に音楽を作っていなかったとしても、SIRUPの音楽と出会えたこと、それだけでもすでに幸せでした。

SIRUP:ありがとう!


コーディ:そこからSIRUPと連絡を取りはじめて、一緒に曲を作ろうっていうことになったんだけど、遠く離れた場所でどうやって進めればいいか、詳細は決まっていなかったんです。僕はちょうどそのとき、「Becky's Plan」や「DEATH WOBBLES」のプロデュースをしてくれている友人のタカ・ペリーと新曲を制作していたところで、翌日も一緒にセッションする予定だったんです。それで、彼にその一連の話をしたら、タカは「実は来週日本に行くんだ」って言ってきて、「嘘だろ!? 何しに?」って聞いたら、「プロダクション制作とセッションをしに行く」って。それで、タカをSIRUPに紹介することにしたんです、何か話が進むかもと思ってね。その翌週、タカとSIRUPは一緒に曲を作ることになって、タカが帰国してから、僕のヴァースをレコーディングしてブリッジを付け加えた。プロダクションはよりファンキーになって、最終的にはまったく違うテイストになったよね。曲もすごいスピードで完成していった。SIRUPを知ってから、たった数週間でこれだけのことが起こるなんて!

SIRUP:たしかにね。

@sirup_official

ー最初に曲の大枠となるデモを作ったのはタカくんとSIRUPだったよね、その曲作りの過程を教えてください。

SIRUP:もしかすると、自分にとって一番リアルな曲かもしれない。ツアー(5月末〜6月末に開催した「BLUE BLUR TOUR 2023」)が終わった直後にタカくんとセッションをやって……。僕はツアーを終えた直後だったので、エネルギーが枯渇している状態でした。その時はFLOにすごくハマってて、ずっと聴いていたんだよね。

コーディ:僕もFLOは大好き!

SIRUP:ツアーが終わってから、テンションを取り戻すために「Cardboard Box」をめちゃくちゃ聴いてた。

コーディ:”I'ma put your shit in a cardboard box…”、あの曲ね!

SIRUP:ああいうノリノリな雰囲気の曲が作りたいっていう反面、精神的には、燃え尽きたような喪失感があって。その相反する2つのムードを掛け合わせたらきっと面白いし、今の自分が反映されていると思ったんです。だから、その時の自分の状況から自然と生まれた曲でしたね。



コーディ:今の話を聞いてすごく面白いと思ったのは、僕が自分のヴァースを書いていた時、SIRUPが今言ったのとは別の意味で喪失感を感じていました。音楽をやりたい気持ちはすごくあるのに、思い通りにうまくできないっていう意味でね。辛抱強く耐える時期だとは分かりつつ、周囲に信じてもらえなかったり、うまくアウトプットができなくて消化不良を起こしているような感覚。たぶん、かなり精神的に追い込まれていたんだと思います。SIRUPと僕は違う場所にいて、まったく正反対の理由で生まれた喪失感が、面白いことに曲のなかで完璧にフィットした。そのヴァースを書いている時、まさか東京でライブをすることになるなんて想像もしていなかったし……すべての偶然に驚くばかり!

SIRUP:俺とコーディはキャリアの段階が全然違うから「このテーマでいいのか?」っていう心配は確かにありました。でも、コーディ自身のリアルな経験が反映されたすごく良いリリックが送られてきた時は感動した。コーディに一番伝えたいのは、TikTokの活動からも分かるように、コーディはやる気にみなぎっていて、一緒に制作する中で、ポジティブで前向きなエネルギーを貰えたことにすごく感謝しているということです。

コーディ:ありがとう! 僕もすごく嬉しいよ。時々自分でも「何をやってるんだろう?」って思う時があって、すごく時間をかけて作った動画の閲覧数が一桁だったり、一方で、一瞬で作った動画が数百万の閲覧数になることもあったり。僕はSNSの発信からキャリアをスタートして、オープンで自由なツールの恩恵を受けてきた。でも、SNSなんてバカげてるって思っていた時もありました。そのせいで精神的にも参っていたし、離れようかと思ったこともあったけど、今この場に至るまでのコネクションを作ってくれたのもSNSのおかげで、そういった面では素晴らしいツールだと思っています。


Photo by Haruki Horikawa


Photo by Haruki Horikawa

ーコーディは音楽を始めたての頃から、いろんな数字が丸見えで意識せざるを得なかった世代ということですよね。そこは多くの若いアーティストが悩んでる部分でもあると思うけど、SIRUPは数字との向き合い方についてどんなことを意識していますか?

SIRUP:自分は数字があまり見えない時代から活動してきたから、数字が見えるようになったことへの喜びはありました。KYOtaro名義で活動している時に、初めて俺のことを呟いてくれたファンの子とは今でも親友だし、体感としてはメリットの方が大きい。「数字を追いかけることはよくないよね」と「数字を追いかけないといけないよね」っていう意見が同等に存在しています。「この人とコラボしたい」とか、「こういうステージに立ちたい」っていう目標を叶えるためにも、自分のファンを増やしていくことを目標にしています。数字はその副産物っていう感覚ですかね。それに、波があるのは当たり前だと思っているから、数字の変化に対してヘコむことはあまりないかも。

コーディ:すごく良い捉え方ですね。素敵なアドバイスをありがとう! たしかに、到達したい数字を追うことは、それだけに囚われて結果的に何もなさない。SIRUPの言うように、多くの人に届けたいという目標があって、それに数字が付随してくるっていうのは、すごく良い考え方だと思う。

SIRUP:そもそも、自分はモノを作ることが好きで、自分のクリエイションのクオリティや規模を上げるためには、数字を見る必要があると思っていて。「こういうことをやりたい、こういうMVを撮りたい」っていう理想を形にするためには、やっぱり数字の話がついてくるから。でも、結局何よりも大事なのは、今回のように一緒に制作をして、お互いが満足できるような素晴らしい曲を作って、絆を深めて……そういったことだと思っている。

コーディ:僕は本当に感謝しているんです。今回のコラボをきっかけに、SIRUPのファンも僕を知ってくれたこともね。TikTokがはじまりだったけど、ここ数カ月でオーディエンスは(これまでと)桁違いのレベルに増えている。SIRUPと一緒に曲を作ることができて本当に光栄だし、おかげでこうやって東京でライブをすることもできたしね!

ー日本でのライブの感想もぜひ聞かせてください!

コーディ:今までの人生で最も最高な時間だった! シドニーでライブをやったり、大きなアーティスト(タイ・ヴェルデス等)のサポートライブをしたことはあるけど、今回は僕にとって初めての「海外ライブ」だった。開演の何時間も前から会場に並んでくれているファンがいて、みんなが僕の曲の歌詞を知っていて……全部が信じがたい光景でしたね。部屋に1人きりでPCで淡々と楽曲の制作をしていたのが、数百人のファンを目の前に、しかも海外でライブをしているなんてね。うまく状況が飲み込めなかったけど今はすごく達成感に満ちていて、これからも音楽をやっていくモチベーションになりました。数字ばかりが目について、フィジカルなコネクションがないストリーミングに比べて、たとえ数十人でも数百人でも、ファンを前に演奏するのとは大違いだなって。すごく幸せな経験になりましたね。


Photo by Haruki Horikawa


Photo by Haruki Horikawa

SIRUP:コロナのロックダウン以降、多くのアーティストが来日しているけれど、一方で会場を埋めることの難しさに多くのアーティストが直面している。コーディが積んできたキャリアで、あれだけの集客があるっていうのはすごくレアだと思う。それは、コーディの努力の賜物だと思う。

コーディ:ありがとう! 日本には家族も一緒に来てくれていて、父は写真を撮ってくれたり、姉は会場のファンに「どうやって僕の音楽を知ったか」「どの曲がお気に入りか」といったことをインタビューをしてくれて、ちょっとしたファミリーイベントにもなったんです! 父の写真を見返しても、やっぱり今でも信じられない。ライブ中、ファンのみんなに「東京以外から来てくれた人はいる?」って聞いたら、なんと3分の1くらいは、僕のライブのためにはるばる遠くから来てくれていたんだ。それに、プレゼントや愛情のこもった手紙を受け取れるなんて……本当に特別な瞬間だった。またぜひ日本に戻ってきたい!

Hair by TAKAI, Translated by Natsumi Ueda

Tag:
 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE