クミコと学ぶシャンソン、一番ドラマチックでおもしろい大人の音楽



田家:アレンジが瀬尾一三さん。

クミコ:うれしかったです。瀬尾さんテイストで。転調が最初からバーンって出る感じとか、本当にもう瀬尾テイスト満載ですね。

田家:「愛の讃歌」はクミコさんにとってどんな曲ですか?

クミコ:やっぱり越路さんの歌というイメージが強くて、もちろんエディット・ピアフの名曲ですけど、越路さんのリサイタルを聴きに行くと、この歌を聴きに来たんだよとかってみんな待ってますもんね。はいきた!みたいなね。

田家:先週銀巴里の中で、銀巴里はあまり越路さんは馴染みがない、お客さんがあまり越路さんを求めていなかったという話がありましたが。

クミコ:お客さんが求めていなかったというより、シャンソン歌手の人たちがなるべく触れないようにしていたのかもしれないですね。

田家:これは有名な話ですけども「愛の讃歌」には美輪さんの訳詞と岩谷時子さんの訳詞と2曲あって、全然違う世界ですもんね。

クミコ:美輪さんが原詞に近くしてますよね。

田家:岩谷さんは越路さんのための「愛の讃歌」だった。

クミコ:突然時間ない中で書かれたって聴いていますから、すごいですよね。

田家:岩谷時子さんについてはどんなことを思われますか?

クミコ:岩谷さんは完璧な最高な詩人だといつも思っていますね。越路さんのもの以外でも、よくこんなに女の人の強いところ、悲しいところ、かわいいところ、柔らかいところ、愚かしいところまで女の人が書けるなと思うほど魅力的な人ばかり出てくるんですよね、この歌詞の中に。こんなふうに女の人を書ける人って岩谷さんしかいないと思います。歌っていてもうれしいですもんね。言葉を口にするのがうれしいです。

田家:「愛の讃歌」は、親しみやすさという意味では越路さんバージョンの比率が高いかもしれませんね。

クミコ:やはり原詞の素晴らしさはあるけど、あなたのために祖国を裏切るとか、人を殺めてもいいとかはなかなかスタンダードにはなりにくい。それはフランス人的なものの考え方で、やっぱりある種のベッドソングみたいな甘さとか。でも、私この歌って何十回も何百回もこの歌詞しか歌ってないんですけれども、歌っていても飽きないんですよね。毎回違うことが見えてきたりするので、簡単な言葉だけど奥深いといつも思いますね。

田家:クミコさんのアルバム「ピアフを歌う」の中にこの曲が入っておりまして、「群衆」。これはなかにしさん、岩谷さんもお2人訳されているんですね。

クミコ:こっちはなかにし礼さんですね。南米の音楽なんですが、ピアフという人は「人」を発掘するだけではなくて、歌も見つけてくるのが天才的な人で、これを見つけてきてシャンソンとして歌い出したという、すごいですよね。

田家:その曲をお聴きいただきます。クミコさんで「群衆」。詞はなかにし礼さんです。



田家:なかにし礼さんは銀巴里によくいらしていたんでしょう?

クミコ:ボーイさんをしていらしたんです、働いていて。苦学生だったようで、そこで働いておられるときに歌手の1人の方があなたは立教のフランス文学なんだったらシャンソンに詞をつけてみたらどう?ということを勧められたらしくて、そこからいろいろな人が次々にお願いをして。ということで、たくさんのシャンソン歌詞ができたということらしいですね。

田家:来週のゲストの加藤登紀子さんは今、日本訳詞家協会の会長で、やっぱり訳詞というものに対してのクミコさんなりの受け止め方はおありになりますか?

クミコ:シャンソンって日本語詞がない限り、こんなに日本で広まることはなかったと思うんですね。

田家:間違いなく。

クミコ:それがものすごく重要で、考えたら海外から来たものに日本語をこんなにつけた音楽ってないし、しかもそれがすごく日本人の気持ちにマッチするものが多い。日本人がつけてるということもあるので、だからこそ情緒ですとか、湿り気ですとかというものがなんだか日本人の温度と合ったのかなというふうに思いますよね。

田家:こんなに言葉と歌ということだけで広まってきている洋楽はシャンソンだけなのかもしれないですね。

クミコ:そうですね。今、絶滅危惧種化しているのがもったいないなとやっぱり思いますね。

田家:シャンソンのような日本語の歌はいっぱいありますもんね。中島みゆきさんもそうでしょうし。

クミコ:そうなんです。だから宝庫なんですよね。これが日本で生まれていたら、大ヒットしちゃったかもしれないようなものもたくさんあったりとかすごいですよね。

田家:シャンソンには第二次世界大戦という背景があったり、その前の激動の歴史が背景になっていたり。愛と死のリアリズムみたいなことで言うと、世界中の音楽の中でも一番リアルな。

クミコ:そうですね。フランスの人たちの独特のものの考え方とかレジスタンス性を持っている人たちとか、個人主義であるとか、何よりも愛が大切とかワインと愛があればいいみたいなところ、国民性というところがなんか日本人に惹かれるところがあるのかもしれないですよね。逆に日本人がそういうところがない国民だったりするじゃないですか。愛のためには死ねないよみたいな。

田家:男はそんな話するなみたいな(笑)。

クミコ:そうそうそう、だからこそ例えば日本のシャンソンを習っている方は女性が多かったりするのも、愛ということを口にしたいよ、こういうことを歌いたいよ、恋愛歌いたいという気持ちを満たしてくれるものもある種シャンソンの役割だったのかなとも思いますね。

田家:という話の続きは加藤登紀子さんにお願いしましょうかね(笑)。

クミコ:はははは! そうですね(笑)。

田家:そういう2週間の締めくくり、作詞作曲・美輪明宏さん、「ヨイトマケの唄」のクミコさんバージョン。



田家:先週の話で銀巴里のオーディションを受けたときは「サン・トワ・マミー」しか知らなかったという方とは思えませんね(笑)。

クミコ:ははは! 大してレパートリーは増えてはおりませんが(笑)。

田家:でもご自分で極めようとしてこないと、こういう歌は歌えないでしょうからね。

クミコ:うーん、まあなんだかこんなふうになってしまいました(笑)。

田家:10月と11月クミコ コンサート2023「わが麗しき歌物語 Vol.6~銀巴里生まれた歌たち…時は過ぎてゆく~、10月22日札幌道新ホール、11月18日名古屋ウィンクあいち、11月24、25日東京有楽町I’M A SHOW(アイマショウ)というところでコンサートがあります。「ヨイトマケの唄」は歌われるんでしょう?

クミコ:歌います。精魂込めて歌います。

田家:「幽霊」と「ヨイトマケの唄」を聴きに行くということで(笑)。

クミコ:はい、ぜひぜひ(笑)。肉体派みたいな感じですね。

田家:ありがとうございました。

クミコ:ありがとうございます。



Rolling Stone Japan 編集部

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