クミコと学ぶシャンソン、一番ドラマチックでおもしろい大人の音楽



田家:僕らはあまり馴染みのない音楽でもあったので、クミコさんにお好きなシャンソンを3曲挙げていただくという乱暴で無謀なお願いをして。そのうちの1曲「小さな3つの音符」。コラ・ヴォケールさん。

クミコ:もしかしたらこれが1番好きなシャンソンかもしれないですね。コラ・ヴォケールが日本にやってきたことは何回もあるんですけれども、私は最後の1回だけを拝見して。渋谷のコクーンだったと思うんですけど、衝撃を受けるほど泣きました。最初から最後までずっと涙が止まらない。フランス語なので何を言っているか分からないんですけど、金子由香利さんと似たところがあって、言葉の間に空気が入っていて、そこに自分の想いが入っていくというか、想像力が入っていく。全然豪華な服でもなくて、普通のドレスを一部でも二部でも同じものを着られて、びっくりしました。そんなこと関係なくチェロとピアノだけで歌っていくんですけれども、歌ってすごいなと思って。特にこの「小さな3つの音符」って『かくも長き不在』という有名な映画がありますけど、その中のラストシーンで2人で記憶をなくした男と、それを知っていて踊りを踊る妻。その2人が踊りを踊るシーンでこれが流れるんですけど、素晴らしいんですよね。生きていてよかったみたいなシーンで、なんて素敵なんだろう、なんて悲しいんだろうと。この歌大好きですね。

田家:これぞシャンソン。

クミコ:なのに自分で歌ってないという(笑)。歌えないですね、でも。コラ・ヴォケールさんで十分です。

田家:これから歌うというような課題が。

クミコ:いやーもうないですね。この頃はいいものは自分じゃなくて、人のを聴こうってなってきました(笑)。

バラはあこがれ / ジルベール・ベコー

クミコ:シャンソンにしてはものすごくリズミカル。この歌もたしか日生劇場だったかと思うんですけど、一番後ろの席しか空いていなくて、ようやくとったチケットで聴いていたのですが、涙が止まらないコンサートになっちゃって。というか、もうワクワクして。「バラはあこがれ」って有名な歌なんですけど、ポジティブじゃないですか。自分の希望こそバラだという。重要なのはバラを心に持つことだよって、その意味合いも含めて生きているってなんてすごいことだろうというか、そのポジティブさを衒うことなくぶつけてくるジルベール・ベコーという人を本当に尊敬しますし、素敵だなと思いました。普通どこか斜に構えたりしますよね、普通。そうじゃなくて、重要なのはバラだみたいな。なんて素敵なんだろうと、これこそ音楽みたいな。

田家:今回あらためてこの人はどういう人だったんだろうということを簡単に調べたりしていたら、ジルベール・ベコーは第一次世界大戦のときにレジスタンスに参加していたんだと。シャンソンの方はそういう人が結構。

クミコ:多いですね。とにかく政治的にちゃんと立場を持って、何か権威に向かっていく、平和のためにみたいな人はもともとフランスには多いだろうけども。やっぱりそういう心根を持ってらっしゃいますよね。

田家:シャンソンは愛の歌がもちろん多いんですけれども、みんなそういう背景があるんだという、そのストーリーの多様さ奥深さみたいなもののちょっと匂いだけ嗅いだ感じがありました。3曲目は世界的に有名な1曲、シャルル・アズナブールで「帰り来ぬ青春」。1964年にアメリカで発表されて、アメリカで最もカバーされている曲だそうですね。



クミコ:アズナブールの歌はものすごくたくさんありますから他にもあるんですけど、日本語詞で吉原幸子さんが素晴らしいものを書かれていて。吉原さんってたしか松本さんも尊敬している歌人としてよく挙げてらっしゃるんですけども、現代詩人として。彼女が2通りの「帰り来ぬ青春」を書いているんですけど、どちらもちょっと似ているんですけどそれぞれ少し違うという。なぜかこれが詩人の胸にも響く歌だったんだろうなと思いますね。

田家:なかにし礼さんの詞もありますもんね。

クミコ:メロディも素晴らしいし、みんな掻き立てられるんでしょうかね。

田家:アズナブールさんとはご縁があるんでしょう?

クミコ:そうなんですよ。私は2007年までパリに行ったことのないシャンソン歌手だったんです。それがちょっとインタビューをしてこいという仕事がありまして、2日間だけパリに滞在したことがあるのですが、そのときにアズナブールさんにインタビューをしに伺って。「コメディアン」という歌を彼が歌っているんですけど、それをピアノで伴奏させてしまうという無謀なことまでしていただきまして、それで歌うという(笑)。なんなんだこれはみたいな。そのときの2ショットとか宝物ですよね。本当にうれしかったです。

田家:アズナブールもエディット・ピアフに歌うように勧められたというのを今回見ましたね。

クミコ:エディット・ピアフという人は人を発掘する、大体男性ですけど、本当に天才で。アズナブールもそうですし、ムスタキもそうですし、モンタンもそうですし、本当にいろいろな人の素晴らしい才能を掬い上げる名手でしたよね。それも天才ですよね。

田家:クミコさんはピアフの曲を集めたアルバムをお作りになっています。その中からお聴きいただきます。「愛の讃歌」。

Rolling Stone Japan 編集部

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE