クミコと学ぶシャンソン、一番ドラマチックでおもしろい大人の音楽



田家:やっぱりずっと歌ってくる中で、多少空気が変わったりしている?

クミコ:毎回違いますね。このピアノを弾いている方とまた違う方が弾くと、またちょっと違ったり、あるいはテンポが変わるとまた全然変わってくるとかありますので正解はおそらくないんだろうと思いますけどね。何の音楽でもね、その場その場と違うんですけど比較的シャンソンの方がどちらかと言うと毎回変わりにくいのかもしれませんよね。ジャズとかに比べたら。

田家:歌がありますもんね。

クミコ:制約があるので。そういう意味で言ったらその中でも気持ちが変わっていくものをどうやって一期一会の歌にしていけるかということはいつも考えますね。



田家:この歌を聴いたことないという方はいらっしゃらないでしょうね。

クミコ:そうですね。スタンダード曲としても有名ですから、シャンソンじゃないと思っている方もいらっしゃるかもしれないですけども、本当によくできた曲だなあと思いますね。

田家:1945年に発表されて、イヴ・モンタンが歌っている。新人だった。

クミコ:たしか映画の『夜の門』の中で、初めて「これが枯葉!」だっていう映画を観たんですけど、なかなかしびれましたね。こんなチンピラみたいな人が歌を歌い始めたみたいな。まだ若くて、役柄もちょっとチンピラっぽかったんですけども。これがイヴ・モンタンの若き日かみたいなね。彼のステージというのは完璧主義者だったので、ここでこける振りをするとか、ここで何をするということはものすごく細かく決めてらした方で、永六輔さんがイヴ・モンタンの舞台監督をやられたことがあったそうで、そのことを本当に聞かされているんです。というのは私が自分の気持ちのままにやりたいなんて言うと、イヴ・モンタンはここでステージに出るときにちょっとつまずくので、そのときにさもわからないよう、あ! びっくりしたというように照明を当ててくれということを言われたと。それはその場でしか起きなかったようにやるからって、そういうことの上にものは成り立つんだということを延々と説教されたことを今思い出しました(笑)。

田家:歌もエンターテイメントであり、ショービジネスでありということの1つの例でしょうね。クミコさんはシャンソンのアルバムを何枚もお出しになっていて、「枯葉」は2013年の『シャンソン・ベスト』の中に入っていました。2002年のアルバム『愛の讃歌』もありました。2013年『クミコ シャンソン・ベスト』、2018年『私の好きなシャンソン~ニューベスト~』。2004年に『イカロスの星―越路吹雪を歌う』。シングルでは『わが麗しき恋物語』、そして「幽霊」。シャンソンをそうやってレコーディングして作品にすることで何か特別なものがありましたか。

クミコ:特別なものは全然ないんですけど、よくもこんなに出させていただいたなという感じのものがありますね。

田家:銀巴里出身ということもありますからね。

クミコ:いやでもね、やるんだったらもうちょっとちゃんとやっておけばよかったと一覧を見て、今頃後悔をしていますけど、何度やってもきっと同じことになると思います(笑)。

田家:クミコさんで「枯葉」をお聴きいただきます。

枯葉 / クミコ

クミコ:これもともとは2002年の『愛の讃歌』というアルバムの中で歌ったものなんですけど、歌詞が覚和歌子さん、先程の「わが麗しき恋物語」を書いてくれた詩人の彼女が書いているので、全部今までの感じのものと違うんですけれど、新たな物語が始まっているんです。そんなふうに新たな物語を作らせてしまうメロディの強さというんですかね。シャンソンにはあると思うんですよね。

田家:世界中の全てを敵に回してもみたいな歌詞、あれはもともと?

クミコ:ないです。全部創作なので、2002年のアルバムは聴き馴染みのあるものを「愛の讃歌」も含めて、全部新しい歌詞にするという試みで始めたものなので、詩人の才能によるところがものすごく大きいと思いますね。

田家:それだけ解釈の幅が大きい音楽という。

クミコ:許されたというか、とりあえず許してもらったという。

田家:やっぱり許可がいるんですね。

クミコ:本当はどうなのかと思うんですけど、時代もよかったのか、まだ許されてそういうことができたのかもしれないですね。

田家:今回あらためて思ったことの1つにシャンソンの歌詞すごいなと。今頃何を言っているんだお前はって言われそうですけど。

クミコ:やっぱりすごい人が関わってくれるということだと思いますよね。

田家:次にお聴きいただこうと思っている曲が「幽霊」という曲なのですが、その曲の詩を書いている方がいらっしゃって高野圭吾さんという。

クミコ:高野圭吾さんは銀巴里のシャンソン歌手でもあって、大先輩なんですけどもそれと同じように絵も描くし、詩も書くしというアーティストですね。

サンフランシスコの六枚の枯葉 / 高野圭吾

クミコ:銀巴里に入って初めて大好きになった歌ですね。同時に高野圭吾さんをなんて素晴らしい詩人なんだと思って、それから彼の歌を自分のレパートリーに入れるようになりました。

田家:あまりメジャーなところでCDとかお出しになっていない方なんでしょう?

クミコ:そうなんです。そういう方がたくさんいらして、なかなか音源を探すのさえ大変な方なんですけれども、詞はいろいろな方が歌ってらっしゃいますので残っています。彼自身があまりにユニークなのでもったいなくてしょうがないですね。

田家:高野圭吾さんは2006年に亡くなって、このときに高野圭吾展というのがあったんですってね。展覧会というか。

クミコ:画家でもありましたので。美大を出られているので、いつも絵を描いてばかりいましたね。亡くなるまで。

田家:まさにパリの人という感じがありますね。

クミコ:全くそうですね。そういう意味ではずっとエトランゼという感じなのかもしれません、どこへ行っても。

田家:7月にお出しになった両A面シングル「時は過ぎてゆく」と「ヨイトマケの唄」の中に先程の「わが麗しき恋物語」と次の曲「幽霊」のライブレコーディングが入っておりました。「幽霊」をお聴きいただきます。詞は高野圭吾さんです。



田家:歌詞の古いカフェの片隅 大病院の白い部屋 裸電球の輝く埃っぽい楽屋の隅の絵。

クミコ:大きなだけで陳腐な絵とかおもしろいですよね。

田家:ルーブルが出てきたり、エッフェル塔に登る夢が出てきたり。

クミコ:そのあたりが大好きなんです。

田家:高野圭吾さんはそんな方なんでしょうね。

クミコ:ルーブル級でも全部を名作としないで、それを陳腐な絵と言ってしまうところもすごいなと思って。

田家:裸電球の輝く埃っぽい楽屋というのは銀巴里だったのかなと(笑)。

クミコ:そうかもしれないです、たくさんあると思います(笑)。

田家:「幽霊」は何度もレコーディングされていますね。

クミコ:この歌を好きなファンの方が結構いらして、一番最後に歌う歌としてずっと歌ってきているということもありますので。幽霊ってなんだか分からないけどしおれたキャベツのように垢のように積もっていく自分の弱いものとか、それこそ戦わなければならない相手だみたいな。自分をリセットするのにちょうどいい歌なんですね。明日からも頑張るという意味では。

田家:10月と11月のコンサートでもこれは歌われる?

クミコ:必ず歌います(笑)。大好きなので。

田家:それを聴きに行くことということが1つのテーマになるかもしれません。

Rolling Stone Japan 編集部

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