ビリー・ジョエル来日記念 「永遠のロック少年」によるライブの魅力を徹底解剖

ビリー・ジョエル、2006年撮影(Photo by Tomohiro Akutsu)

 
今のところ最後のスタジオ録音アルバム『リヴァー・オブ・ドリームス』が世に出てから早30年。「もう新しいアルバムは出さない」という決意がどうにも固く、それを現在まで守り通しているビリー・ジョエル(Billy Joel)だが、ライブ活動は現役で精力的に続けており、2024年1月24日には東京ドームで16年ぶりの来日公演も決定した(すでにソールドアウト)。

「ピアノ・マン」に代表されるシンガー・ソングライター然とした面しか知らない方には想像がつきにくいかもしれないが、ビリー・ジョエルというアーティストは表現の振れ幅が非常に広い。自身のルーツであるR&Bやオールディーズへの憧憬を露わにしたコンセプト・アルバム『イノセント・マン』(1983年)がある一方で、ビートルズ『アビイ・ロード』のB面メドレー的な展開を1曲に凝縮した「イタリアン・レストランで」(Scenes From An Italian Restaurant)、SF的でプログレッシブな難曲「マイアミ2017」、クルト・ワイルの劇中歌を思わせる「ウィーン」や、ジャズに急接近した「ザンジバル」まである。この人間ジューク・ボックス的な多チャンネルぶりこそがビリーならではの持ち味だと思うのだが、特に近年のライブでは、このようにスタイルが異なる楽曲を一夜のライブで取り混ぜて演り切ってしまう。それにつき合えるバック・バンドの技量も超人級だ。



ビリーはまだティーンエイジャーだった60年代からずっとステージに立ち続けてきた生粋のライブ・アクトなので、観客を楽しませることへのこだわりが人一倍強い。若い頃はピアノの上に立ち上がって飛び降りるぐらいは朝飯前、身体能力の高さを活かしたパフォーマンスを繰り広げてきた。曲によってはピアノから離れてギターをかき鳴らしたり、マイクスタンドを振り回して吠えたり。「場内を沸騰させるまで絶対に帰らない」という基本姿勢は、映像作品でも味わうことができる。旧ソ連時代の1987年、ロシア・ツアーの模様を記録した『マター・オブ・トラスト:ブリッジ・トゥ・ロシア』のデラックス・エディションに収録されている映像は、全ファン必見と言い切りたい内容。言葉の壁を文字通り体当たりで崩し、あの手この手でオーディエンスを熱狂させていく様子は感動的だ。




その『マター・オブ・トラスト~』と張るぐらい重要な映像作品『ライブ・アット・シェイ・スタジアム』が、来日に先駆けて今月12月25日(月)・28日(木)の2夜限定で劇場公開される。このライブはニューヨークの歴史あるスタジアムが閉鎖される前に企画された2008年の特別公演で、トニー・ベネットやガース・ブルックス、ジョン・メイヤー、そしてここでビートルズとして伝説的なライブを行ったポール・マッカートニーまで、続々と大物ゲストが登場。常人ならバタつきそうなステージ上をビリーはスムーズにコントロールしながら、自身はオールタイムベストかつスタイル的に多様なセットリストをスイスイとこなしていく。キャリア豊富なビリーにしかできない芸当は、お見事としか言い様がない。


『ライブ・アット・シェイ・スタジアム』予告編


ビリー・ジョエルとポール・マッカートニー(『ライブ・アット・シェイ・スタジアム』より)(C)2011 Sony Music Entertainment

こういうメモリアルな場で、わざわざアメリカの暗部に目を向けたシリアスな曲……地方都市の深刻な不況を歌った「アレンタウン」や、ベトナム戦争を兵士の視点で歌った「グッドナイト・サイゴン」を選ぶ感覚もビリーらしい。「夏、ハイランドフォールズにて」を歌う前にMCでこの曲を「躁うつ病に悩む人たちに捧げる」と紹介しているのは、ビリー自身もメンタルを病んで苦しんだ時期があるから。そうやって社会的なテーマを取り上げ、悩める人々と寄り添ってきた面は、ビリーと同い年(74歳)のブルース・スプリングスティーンとも共通するところだ。

 
 
 
 

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