The Acesが日本で語る 影響を受けた5枚のアルバム、クィアとしての使命に目覚めた瞬間

Photo by Julian Burgueno

 
ニューアルバム『I’ve Loved You For So Long』を携え、11月に渋谷duo MUSIC EXCHANGEで初来日公演を行なったジ・エイシズ(The Aces)。畳み掛けるかのごとく全17曲を披露し、パンキッシュかつダンサブルな演奏で大いに盛り上げた。それにしても驚かされたのがオーディエンスの熱量、割れんばかりの大声援だ。「ずっとあなたを愛してきた」という最新アルバムのタイトルは、ユタ州出身の4人組をずっと待ち焦がれてきた日本のファンの総意でもあったのだろう。

あるファンが「Japan Needs HOT Queer Band!」というメッセージを掲げ、またあるファンがステージ上にプライドフラッグを手渡していたのも印象深い。ジ・エイシズは当事者として、クィアに寄り添うメッセージを発信してきたバンドである。クリスタル・ラミレス(Vo, Gt)は前回のインタビューで「ジ・エイシズは、人々が自分らしさを探求し、なりたい自分になれる安全な場所を作れていると思う。(中略)そのエネルギーはファンにも伝わると思うんだ」と語っていた。バンドの多様性を祝福するようなパフォーマンスに、フロアを埋め尽くした観客たちも全力で応えるーーその光景はとびきり美しいものだった。

今回の取材はライブ翌日の昼過ぎ、都内某所にて実施。ジ・エイシズの音楽性を掘り下げるべく、影響を受けてきたアルバム5作をセレクトしていただいたほか、人生の転機やプレイヤーとしての心構え、「バンド」の魅力についても尋ねている。リラックスした様子で寿司をつまむ4人、クリスタルとアリサ(Dr)のラミレス姉妹、マッケンナ・ペティー(Ba)、ケイティ・ヘンダーソン(Gt, Vo)に訊いた。


2023年11月15日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて(Photo by Tae Fukushima

―寿司といえば、TikTokにアップしている格闘ゲームのキャラクターセレクト風の動画で、ケイティさんのキャプションに「Discovered what sushi was last year」と書いてありましたが、いったい何があったのでしょう(画面を見せる)。

一同:(笑)。

ケイティ:私は寿司嫌いで有名だったんだ(笑)。

クリスタル:好き嫌いが多いもんね(笑)。

ケイティ:そんなことない! 14歳の頃、友人のお母さんが手作りの寿司を作ってくれて、その時に初めて寿司を食べたんだけどまったく口に合わなかったんだよね(苦笑)。でも、今は大好き!
@theacesofficial

―ものすごい数のTikTok動画を投稿していますよね。コミュニケーションツールとしてどのように活用されているんでしょうか?

アリサ:アーティストとして、時代の流れに乗ってそういったツールを使いこなすことが求められている気がする。 TikTokは投稿を強要させるようなツールでもあるから、正直、投稿をすること自体はあまり好きじゃないけど、使い方によってはファンとつながったりもできるし、新しいファンとの出会いの場でもある。TikTokの素晴らしい点は、私たちの音楽を知らない人の目に触れて、わずか数秒のうちに新しいファンが生まれることがあること。できるだけTikTokを投稿するようにしてるのは、それが理由なんだ。音楽を投稿したり、おかしなことをやってふざけたり、ありのままの自分たちを見せてるよ。

クリスタル:TikTokは諸刃の剣で、人とすぐに交流できたり音楽をシェアできるチャネルでもある一方で、消費に加担することにもなりうる。そういったツールとアーティストは、いつも愛憎関係にあるんじゃないかな。


Photo by Tae Fukushima

―「ファンとのつながり」でいうと、昨夜のライブは初来日と思えないほどオーディエンスとの強い絆を感じるものでした。

クリスタル:素晴らしかった! 私たちバンドへのパッションをすごく感じて、遠く離れた場所でこんな経験ができて、本当に光栄だよ。

マッケンナ:ライブは最高だったよ! すごく楽しかったし、日本のファンのみんなと一緒に歌って、時間を過ごせたのは夢のようだった!

―最後に披露された「Daydream」「Stuck」は特に盛り上がってましたね。この2曲はどのような歌詞やサウンドにしようと考えながら作られたのでしょうか?

アリサ:アップビートなダンスミュージックのサウンドと、「悲しみ」のエモーションを両立させたかった。「Stuck」は、答えのないもつれた関係性において、どうにもできない状況を歌った曲。「Daydream」は、大切な人と離れている時に、一緒に過ごした時を愛しく思う……そんな歌。「Daydream」で歌っていることは、ツアーに出ている期間が長い私たちがよく抱く感情なんだ。そのテーマに反して、サウンド自体はハッピーで踊ったり騒いだりできるような音楽ーーそれがジ・エイシズらしさになってると思う。




―この4人で中学生くらいの年齢から一緒にバンドを続けているそうですね。そもそも、どういう音楽をやろうと思って結成したんですか?

ケイティ:私がマッケンナに会ったのは13〜14歳の頃だった。

クリスタル:ケイティは後から参加したんだよね。

マッケンナ:最初はガレージっぽいバンドだった。楽器も限られてたし、かなりミニマルで、ガレージロック、ブルージーな感じって言えばいいかな。それに、私たちはポップソングを聴いて育ってきたから、サウンド面にポップソングのエレメントは必ず入ってた。今は、洗練されたポップとインディーロックがミックスしたようなサウンドになってきたと思う。

―2014年、当時18歳のロードがグラミー賞を受賞するのを見て、プロとして音楽活動に取り組むことを決心したそうですね。

アリサ:私たちはちょうど分岐点にいた。私は高校2年生で、みんなは高校を卒業してこれから大学に進学するかどうか、そんなタイミングだった。このままバンドを続けるべきか、それとも、大学に進んだり、それぞれが自分の道を進むべきか……今後の道をはっきりと決めるわけでもなく、そのことはしばらく宙吊りの状態になっていた。

それでグラミー賞発表の夜、約束をしたわけでもないのに、各々が授賞式の中継を観ていたんだ。そして、私たちと同年代のロードがグラミー賞を獲得した事実が、私たちを目覚めさせた。「ニュージーランドからやってきた彼女が大きな成功を手にした。彼女がやったなら、私たちにもできるんじゃないか?」って。彼女のグラミー賞獲得は、私たちの背中を押してくれた。ただのローカルバンドから、アーティストとしてのキャリアを築くために、バンドにすべてを捧げるって決心できたんだ。

マッケンナ:そして、東京でライブができるまでになったなんて!

一同:ありがとう、ロード‼︎

クリスタル:その後、ブダペストで同じフェスに出演したときに彼女を観たんだ。キャリアをスタートさせてまだ半年くらいだった私たちにとっては、まるで映画のシーンみたいだった。さっきまでテレビの中にいた存在が、次の瞬間には同じステージにいるなんて!

アリサ:あのときグラミー賞を観たあと、私たちはゴールに向かって必死にやってきた。レコーディングをやって、その頃の状況から抜け出そうとしたんだ。それから半年が経たないうちに、ロードのマネージャーだったティムと出会って、今では、なんと彼が私たちのマネージャーだなんて、信じられない偶然だよね!

Translated by Miho Haraguchi, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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