DJシャドウ、新たな方向性を模索し続けるヒップホップ・イノベイターの軌跡と現在地

Photo by Koury Angelo

 
ベイエリア出身のベテランプロデューサー、DJシャドウ(DJ Shadow)が新たなアルバム『Action Adventure』をリリースした。近年はラン・ザ・ジュエルズやデ・ラ・ソウルなど客演を迎えて作品を作ってきたシャドウだが、今作はゲストを入れず自身のプロダクションのみで聴かせる作品だ。歌声をサンプリングした「You Played Me」を除く全曲がインストで、ヒップホップを軸にしつつエレクトロニカやジュークなどとも隣接するシャドウの越境的なセンスが光るものとなっている。

本人のInstagramによると、この方向性の変化は「パーソナルになり、再び自分自身のために音楽を作る必要があった」「作曲全体を『自分のもの』にしたかった」ことから生まれたという。先行シングル「Ozone Scraper」のリリース時に発表したステートメントでは、「これは私と音楽との関係について。コレクター、キュレーターとしての私の人生。他の誰のものでもない、私のレコードとテープのすべてだ」と語っている。実際に今作ではサンプリングを多用した制作スタイルを取っており、そのコレクターとしての側面が強く出ている。




『Endtroducing.....』の衝撃

シャドウは、この「コレクター、キュレーター」としてのイメージが強い人物だ。それは1996年にリリースしたソロとしての1stアルバム『Endtroducing.....』のレコードショップでの様子を切り取ったアートワークと、サンプリングベースで制作されたプロダクションによるところが大きいだろう。「Organ Donor」など多くの名曲を収めた同作は、新作と同じく客演を入れない自身のビートで聴かせる作品だ。ビョークやニルヴァーナなど多彩な音楽をコラージュしたその越境的なサウンドは各種メディアで高い評価を獲得。インストヒップホップの可能性を開拓した重要作であり、同作がなければ近年のローファイ・ヒップホップの隆盛もなかったかもしれない。

『Endtroducing.....』は、UKのレーベルMo' Waxからリリースされた作品だ。アルバムのリリース前にも、「In/Flux」と「Lost and Found (S.F.L.)」の2枚のシングルを同レーベルから発表している。また、1997年にはMo' Wax主宰のジェイムス・ラヴェルによる流動的プロジェクトのUNKLEに参加。1998年にはUNKLEのアルバム『Psyence Fiction』で、クール・G・ラップからトム・ヨークまで多彩な面々を『Endtroducing.....』の延長線上にあるようなサンプルベースのサウンドに迎えた。UNKLEの例のようにシャドウは早くからアメリカ以外のアーティストとの交流があり、マッシヴ・アタックやDJ KRUSHなどの作品にも参加。その先鋭的な作風を世界中に広げていった。





「ベイエリアの一員」にして「未来的すぎるDJ」

しかし、シャドウは世界的なアーティストであるだけではなく、地元のヒップホップシーンとも繋がっている人物でもある。キャリア初期にはリリックス・ボーンやラップデュオのブラッカリシャスなど、地元ラッパーたちと共にレーベルのソールサイズで活動。2002年の2ndアルバム『The Private Press』でも、ソールサイズ仲間のラティーフ・ザ・トゥルース・スピーカーを迎えていた。


ラティーフ・ザ・トゥルース・スピーカーが参加した「Mashin' On The Motorway」



「地元シーンの一員としてのシャドウ」という側面が最も色濃く出たのが、2006年にリリースした3rdアルバム『The Outsider』だ。この時期のベイエリアのシーンでは、ミニマルなシンセを鳴らすハイテンションなスタイル「ハイフィ」が盛り上がっていた。同作では先行シングル「3 Freaks」を筆頭に、「Turf Dancing」や「Dats My Part」などシャドウ流の一癖あるハイフィ路線を多く収録。客演にもQ・ティップやリトル・ブラザーのフォンテのような従来のスタイルと親和性のあるラッパーだけではなく、キーク・ダ・スニークやターフ・トーク、フェデレーションなどハイフィを代表する面々も迎えていた。




『The Outsider』はハイフィだけではなく、ロック路線や南部ヒップホップ的なクランクなども収録した混沌とした作品だった。その大胆な作りは賛否両論を招き、以降シャドウはハイフィ路線を封印。『The Outsider』の次にリリースした2011年のEP『I Gotta Rokk』と4thアルバム『The Less You Know, the Better』はロック風味の部分だけ引き継ぎ、再び越境的な方向性を模索するような作品となっていた。

しかし、この2枚も決して「回帰」に終わる作品ではなく、エッジーでダンサブルな「Def Surrounds Us」のように新たな試みにも挑んでいた。その挑戦的な姿勢は作品だけではなくDJにも出ていたようで、2012年にはマイアミのイベントで「未来的すぎる」としてプレイを止められるトラブルが発生。その時にプレイしていたのはオランダのプロデューサーのクランプシャフトによるジュークの「Spit Thunder」で、シャドウの新たな音楽への関心が窺える。

以降もシャドウは2014年のEP『The Liquid Thunder』で「Def Surrounds Us」系の先鋭的なダンスミュージックを制作。2015年にはプロデューサーのG・ジョーンズとのユニット、ナイト・スクール・クリックでのセルフタイトルEPでトラップやグライムの影響下にあるスタイルを披露していた。


 
 
 
 

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