DJシャドウ、新たな方向性を模索し続けるヒップホップ・イノベイターの軌跡と現在地

 
今のシャドウにしか作り得ない最新作

2016年にはMass Appealからの5thアルバム『The Mountain Will Fall』をリリース。初期に取り組んでいたようなサンプルベースのスタイルと、2010年代前半のシンセを用いたエッジーなスタイルを織り交ぜた作品に仕上げていた。2019年のMass Appealからの2作目『Our Pathetic Age』はインストのディスク1、とラッパーを迎えたディスク2の二枚組。ベースミュージックにも隣接する刺激的なものや初期作品にも通じるものなど、それまでのシャドウの集大成のような作品だった。




しかし、新作アルバム『Action Adventure』は『Our Pathetic Age』とはまた違った意味で集大成のようなムードが漂う作品だ。先述したシャドウのInstagramでの投稿でも「やっていることや感触は『Endtroducing.....』や『The Private Press』に近いと言えるが、スロウバックではない」「プロデューサー、ソングライターとしての私の進化を象徴するような曲ばかり」と語られている通り、初期作品に近い質感を備えつつもこれまでの試みを通過したスタイルを提示している。シンセを使ってもここ数年での刺激的なアプローチよりも、成熟を感じさせる落ち着いたものが目立つ。



さらに、「Time and Space」の跳ねるようなドラムパターンはデム・フッドスターズによるハイフィ名曲「Get Ya Grown Man On」を想起させるものだし、「All My」はかつて「未来的すぎる」と止められたジュークの要素を取り入れている。長いキャリアの中で好意的ではない評価も受け取ってきた試みに、近年培ってきたテクニックで再び挑んだような作品でもあるのだ。

また、「You Played Me」での分厚いシンセベースはトゥー・ショート作品などに通じるものだし、8ボール & MJGがE-40やマック・モールと共に制作した名曲と同タイトルの「Friend or Foe」ではGファンクのような高音シンセも使用。これらの曲からは、近年はあまり強調してこなかった「ベイエリアのシーンの一員」としてのシャドウも感じられる。

金字塔『Endtroducing.....』を生み出しつつも、同じことを続けるのではなく多くのコラボレーターと共に新しい方向性を模索し続けたシャドウ。そんなシャドウが再び一人で自分自身のために音楽を作ったことで生まれた最新作『Action Adventure』は、回帰でありつつも回帰ではない作品となっている。この成熟した魅力は新進アーティストには出せないし、過去のシャドウにも出せないものだろう。今のシャドウにしか作り得ない、ベテランのヒップホップ作品として見事な一枚だ。






DJシャドウ
『Action Adventure』
発売中
配信・購入:https://djshadow.lnk.to/actionadventure

 
 
 
 

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