yeuleが語るアウトサイダーとしての闘い、Tohjiや沢尻エリカ、日本カルチャーへの深い愛

 
日本カルチャーへの深い愛

—MVやファッションも含めて、あなたの作品には日本のカルチャーからの影響が反映されているように感じます。音楽やゲーム、アニメなど、日本のカルチャーに興味を持つきっかけとなった作品や出来事があれば教えてください。

ユール:そもそも”ユール”という名前は、日本のスクウェア・エニックスが開発した『ファイナルファンタジー』のキャラクターから拝借したの。子どもの頃、プレイステーションでよくプレイしていて、この世でいちばんクールな存在だと信じていた。自分も魔法を操りたいと思っていたし、あんなコスチュームを着たいと本気で思っていた。なぜ自分の世界に住む人たちはああいう格好をしてないんだろうってね(笑)。かっこいい甲冑が欲しくて欲しくて。思えば、あれがファッションに興味を持ったきっかけだったのかも。9歳の時のことだけど。それで、インターネットで今着ているようなファションを色々リサーチするようになった。そこからファストファッションなんかも採り入れるようになったかな。リサーチを重ねるうちに、自分がクールだと思うものの多くが日本のものだということに気づいたんだよね。

自分が最初の頃に影響を受けたものはファッションだったけど、そこから日本のアーティストや写真家に辿り着いて、そういうものに夢中になっていった。アジアの写真家の作品は、とてもダークなものが多いと思う。森山大道とか、癌を患う前の荒木経惟とか、その時代の日本の写真家の作品がとても好きで。寺山修司も好きだし、岩井俊二の映画も本当に好き。現代の日本のアーティストにもインスピレーションを得ることが多い。実は子どもの頃は沢尻エリカが大好きだった(笑)。『ヘルタースケルター』知ってるよね? (岡崎京子による)漫画の原作を蜷川実花が映像化した作品。沢尻エリカは、あの映画の主人公の人生を地でいく生き方をしているところがクレイジーだと思うし、魅力的だと思う。J-POPやアイドルのカルチャーはメチャクチャなところがあって完全に行き詰まった感じだったけど、エリカのような存在が、そういう既存のカルチャーの限界や幅を拡げてくれたんじゃないかと思う。

私はアイドル文化にも興味があって、あの虚構の世界観というのはとても興味深いと思うんだけどね。それで、そういうものをテーマにした『Ether』という短編映画を監督したの。このタイトルは、岩井俊二の映画(『リリイ・シュシュのすべて』)からインスピレーションを得たもの。



ユールが監督した短編映画『Ether』

—メイクアップについても聞かせてください。『softscars』のジャケット写真もそうですが、日本人の私からすると、あなたのメイクには日本のギャル文化と近いものを感じます。

ユール:自分のメイクは、実は深海の生物にインスピレーションを得ているの。とてもキュートじゃない? 名前が思い出せないけどスケルトンのような生物とか……クラゲやイカも好きだし、タコも大好き。だから、たこ焼きは美味しくて大好きな食べ物だけど、食べる時に罪悪感を感じてしまう(笑)。タコのテクスチャーや、大きな目やフォルムがとても好き。すごく可愛い! 爬虫類も大好きで、トカゲ類にもインスピレーションを受けている。スティングレイ(アカエイ)もすごくクールだと思う。ペットにしている人の動画をいくつか観たことがあるけど、スティングレイをペットにするのは可能かな? 環境保護的に間違ったことかな? そうでなければぜひ飼ってみたい。具体的なメイクについてもよく訊かれるけど、戸川純とか、90〜2000年代のオールドスクールなヴィジュアル系にも影響を受けているんだよね。


Photo by Neil Krug

—前作にはTohjiが参加していましたし、彼の楽曲「shell」で再びコラボレーションしたときには日本語での歌唱も披露していましたよね。今後共演してみたい日本人アーティストはいますか?

ユール:絶対に難しいだろうから言うのが憚られるけど、BABYMETALと一緒にやってみたい。すごく好きで若い頃よく聴いていたし、彼女たちの持つゴスのイメージがとても好きだから。きゃりーぱみゅぱみゅのようなメインストリームの人ともいつか一緒にやってみたいと思ってる。Tohjiのような、他の日本人のラッパーともやってみたいな。Tohjiは親しい友人のひとりで長い付き合いなの。彼のラップはハードなものが中心というイメージかもしれないけど、彼の真価は実はとてもデリケートで繊細な部分にあると思う。そうした柔らかくて淡くて繊細な部分がとても好きで、自分の世界観とも親和性があると思うから、そうした彼のもうひとつの顔のようなところと自分の音楽とを引き出せ合えるのが理想的だなって。私が親しくしている日本のアーティストは、Tohjiを通じて知り合った人がほとんど。彼は日本にいるとき、いつもドライブに連れて行ってくれる。




—以前、フランク・オーシャンやビッグ・シーフ、グライムスなどのカバーを発表していたり、今作では岩井俊二監督の映画『花とアリス』から「fish in the pool」をカバーしていますよね。カバーする楽曲はどのように選んでいるのでしょうか? また、今後カバーしてみたいアーティストや楽曲があれば教えてください。

ユール:カバーする曲は、その時の自分の気分やどんな音楽を聴いているかに左右される感じ。今後は、マイ・ケミカル・ロマンスやSum 41のようなエモをカバーしてみたいと思っている。そうした音楽をカバーするのは恥ずかしい気がしていたけど、自分が聴いて育った曲だし、いつかはカバーすべきだという思いもあって。最近は特にマイ・ケミカル・ロマンスの魅力に目覚めて、それまではダサいと思っていたのにすっかり夢中になっちゃってるの(笑)。それと、次回は90年代の曲をカバーしたレコードを作ってみたいとも考えている。

—「fish in the pool」でピアノを演奏しているのが非常に印象的でした。子供の頃にクラシックピアノを習っていたとお聞きしましたが、その頃の経験がご自身の音楽にどのような影響をもたらしているとお考えですか?

ユール:ピアノの楽曲には、“メロディとはこうあるべき”という構成のすべてが詰まっていると思う。子どもの頃は「カノン」に執着していて、この曲をとにかく完璧に弾きたいと思ってピアノの練習を重ねていた。ピアノを弾いていたことが、自分の曲作りのスタイル……曲をメソッドに則って作るタイプであることに少なからず影響していると思う。キンと出会ったのもピアノを通じてだったし。2017年のクリスマスパーティーで自分がピアノを弾いていた時、隣にいたキンが演奏に入ってきたの。2人で連弾をしたのがきっかけなんて、まるで映画のような出会いだった。でも、キンはそこでピアノバトルを仕掛けてきたんだよ。自分は負けず嫌いな性格だから、「やめて!」って諍いになって。そこから親友になるなんて(笑)。

—今後、ピアノを軸に音楽を作りたいという思いもありますか?

ユール:そうね。いつかはピアノの曲を集めたレコードも作ってみたいな。ハードなエレクトロを柔らかいピアノの布団の上に横たえたようなアルバムを作ってみたい。




—「aphex twin flame」はエイフェックス・ツインと自分自身を重ねて回想するようなユニークな楽曲ですが、彼に共感するポイントはどのようなところでしょうか?

ユール:エイフェックス・ツインを初めて聴いた時は衝撃的で、ティーンエイジャーの頃にずっと聴いていた。彼は頭ではなく、ハートで音楽を創る人だと思っているし、自分もそうだと思う。そうありたいと思っているの。

—自分も含め日本でのライブを心待ちにしているファンがたくさんいると思います。2018年以来となる来日公演が今後開催される可能性はありそうでしょうか?

ユール:今のところ予定はないけど、早く日本でライブをしたいと思っているよ!




ユール
『softscars』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13594

Translated by Tomomi Hasegawa

 
 
 
 

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