yeuleが語るアウトサイダーとしての闘い、Tohjiや沢尻エリカ、日本カルチャーへの深い愛

 
キン・レオンとの絆、デジタルな人間関係

—今作には以前からコラボレーションしている、先ほどお話に出てきたキン・レオンやムラ・マサがプロデューサーとして参加していて、多くの楽曲が2人とユール自身の共同プロデュースとなっています。これまでほとんどの楽曲をセルフプロデュースしてきたあなたの作風から大きな変化を感じますが、彼らの参加が今作のサウンドにどのような影響や変化をもたらしているか教えてください。

ユール:ムラ・マサとは『Glitch Princess』で初めて一緒に仕事をしたんだけど、彼は曲の要素を削ぎ落として最終形にしていくスタイルのプロデューサーなの。究極のミニマリストで、ほんの僅かなものからたくさんのものを創造するタイプ。自分はその真逆で、ありとあらゆる要素を全部ぶち込んで、シンプルなものを創造している。彼と自分の方向性はまったく違ったものなんだ。彼は、ソフトウェアを自分のやり方にとって機能するように使うけど、自分はソフトウェアに逆らうように作業する。だから、全然違う考え方の人と一緒にやってみたくて、彼に何曲かお願いしたの。「aphex twin flame」と「software update」と……他の曲にも、ちょっとしたアイデアを散りばめてくれた。そう、“フリカケ”みたいにね(笑)。

キンは、素晴らしいミキシングエンジニアで、彼も自分もクラシック音楽のバックグラウンドを持っているわけじゃないけど、お互いピアノを弾いていたから、ピアノの話をよくしていて。彼のすごいところは、楽曲をあらゆる角度から解析して、それをミキシングやマスタリングに落とし込むところかな。それこそ、ありとあらゆるアートの形態を網羅している感じ。自分もミキシングの作業はとても好きで、音楽のキャリアの中でずっと続けていきたいことのひとつだけど、彼は“耳”を持っていると思う。自分の好きなサウンドや、美しいと思うサウンドを体現してくれる耳。ディストーションでもノイズでも、彼の手にかかればとても美しい響きになるの。だから、彼と一緒に音作りをするのはとても楽しい。キンはアンビエントのミュージシャンでもあるから、映画音楽なんかも手掛けているの。アンソニー・チェン(シンガポールの映画監督)の新作『《燃冬》The Breaking Ice』の音楽も担当していて、本当に美しいサントラなの。

大切なことは、自分の感情にどれくらいフィットするかということ。どれくらい自分の心を揺り動かして、自分自身を解放させてくれるかということじゃないかな。自分に挑戦してくれる人が好きなの。この2人は、音楽制作において自分に最も挑戦を仕掛けてくれる人たちだと思う。



ユールとキン・レオンが2020年のクリスマスに配信した「better day」(haruka nakamuraのカバー)


キン・レオンは2ndアルバム『mirror in the gleam』を10月27日にリリース予定

—特にキンには音像を創造するうえで、特別なケミストリーを感じていたんですね。

ユール:自分たちの間にはとても強力なケミストリーがあったと思う。曲そのものは1日で創り上げたとしても、完璧な形になるまでその後6カ月くらいずっとその曲に取り組んだりした。例えば1週間で曲を書いて、基盤となるものを作っておくでしょ。そこからじっくりと時間を掛けて取り組んだの。もしかしたら、アジア人特有の完璧主義のなせる技なのかもね(笑)。中には、本当に短時間で仕上げたものもあるけど。例えば「Pretty Bones」は曲作りからミックスまで3日くらいしかかからなかったし。初期の曲は割と1日で書いて1週間で仕上げるというようなものが多かったかな。でも、曲を創り上げる過程や旅路を共にすることが、その曲をより自分のものにしてくれると思う。『softscars』の多くの曲はそうやって出来上がったの。

—キンとあなたはシンガポール出身で、現在はロンドンを拠点に活動しているという共通点がありますよね。

ユール:自分たちがロンドンに住んでいた時は、同じような感情をシェアしていたと思う。自分たちが育った家から遠く離れている、寂しい気持ちやメランコリックな感情を共有していたはず。そういう同じような想いを長い間共有できる友人を持つことはとても稀なことだと思うし、キンとはパンデミックの間も一緒にいたから、家に帰れない辛さのようなものも共有していたんだよね。それで、一緒に曲を書いて。彼はロンドンでアートを学んでいて、シンガポールではほとんど一緒に過ごしたことはないんだけどね。彼と一緒に過ごしていた時間のほとんどはロンドンだったから。


Photo by Vasso Vu

—キンと一緒に過ごしていた頃の、ロンドンの音楽シーンはどういうものだったんですか?

ユール:どうだろう、わからないな。ロンドンでは“ヒキコモリ”だったから(笑)。外に出るのは大学に通う時だけだったから。時々、友だちのギグに足を運ぶくらいで、それもほとんどなかったし、音楽シーンとの関わりはそれほどなかった。友だちの多くはオンラインで知り合ったの。ダニー・L・ハールとは……新宿のゴールデン街って知ってる? そこにナイチンゲールっていうバーがあるんだけど。オーナーはマサルっていう“トモダチ”。マサルが私の写真を撮ってインスタに上げたら、やっぱりマサルの友だちだったダニーがそれを見て私にコンタクトを取ってきて、それで知り合ったの。

友だち、特にミュージシャンとはオンライン上で知り合うことがほとんどだから、自分の楽曲の多くはデジタル・リレーションシップについて書かれているんだよね。必要に迫られない限り、ほとんど家から出ないから。家から出るのは自分にとって本当に大変なことで……。とにかく、ロンドンには本当に色々なジャンルの音楽シーンがあるけど、自分が本当に好きなもの、自分にとって特別なものにしか興味がないし。例えばチャーリーXCXの音楽は、自分にとって本当にスペシャルなもの。彼女がロンドンを拠点に活動していた時には自分はいなかったけど、彼女の音楽は特別な存在ね。自分が好きな音楽を見つけて、そこに耽溺することで、生きる意味が甦ってくるんじゃないかと思う。平行線だった2つのラインがひとつになるというか。宇宙はそうやって機能しているんじゃないかと思っている。自分はニッチなサブカルチャーが好きだから、そこにいる人たちと関わりを持てれば充分という気がしているの。

Translated by Tomomi Hasegawa

 
 
 
 

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