BTSのVが語る、ソロアルバム『Layover』発表までの道のりとメンバーたちの支え、ジャズからの影響

アーティストとしての成長の証

ソロデビューアルバム『Layover』は、2019年の「Scenery」や「Winter Bear」をはじめとするVの過去のソロ曲の延長線上にあるような作品だ。そこには、2020年にリリースされたBTSのメランコリックなバラード「Blue & Grey」で悲しみと孤独を表現するのに用いられた、花々に彩られた街路や雪のイメージにも通じる世界観がある。また『Layover』には、ロマンチックな気持ちで過去を振り返って感傷にひたる、一種のノスタルジーのような複雑な感情も込められている。Vは、韓国ドラマ『梨泰院クラス』(2020年)の劇中歌「Sweet Night」や『その年、私たちは』(2021年)の劇中歌「Christmas Tree」を通じて、こうしたコンセプトを温めてきたのだった。それは、15歳でビッグ・ヒット・エンターテインメント(現HYBE)の門をくぐった彼自身のアーティストとしての成長の証でもある。VはBTSのメンバーとして、ラッパーのDMXばりのヒップホップ満載のボーカルやエネルギッシュなEDMダンス、遊び心あふれるパーティラップを披露し、アーティストとしての多彩な才能とカリスマでオーディエンスを魅了してきた。そんな彼はいま、自分が決めた道を歩みはじめようとしている。「キム・テヒョンという絵を描きはじめたばかりなんです」とVは言った。





『Layover』の楽曲はV自身が手がけたものだが、エグゼクティブ・プロデューサーを務めたのはミン・ヒジン氏である。HYBE傘下レーベルのADORの社長を務めるヒジン氏は、90年代の世界観にインスパイアされたガールズグループ、NewJeansのプロデューサーとしても知られる。だが『Layover』では、90年代よりもさらに過去の時代が掘り下げられる。アルバムは、Vが愛してやまないジャズとクラシック音楽の世界を想起させる、ジャジーなピアノや温かみのあるベース、軽やかなフルートの音色に彩られているのだ。



『Layover』はVの豊かなバリトンボイスを披露すると同時に、チェット・ベイカーやフランク・シナトラ、サミー・デイヴィス・ジュニアといったジャズミュージシャンたちへの愛情と敬意を表現した作品でもある。トランペットやバイオリンをかじったことのあるサックス奏者のVの歌声は、抑揚とリズムを少し変えただけで無数の感情を語る。その歌声は温かいが、少しばかりブルーな悲しみをたたえている。哀愁と明るさの両方を感じさせる、不思議な歌声だ。

そんなVだが、HYBEの会議室で行われたインタビューでは終始明るかった。通訳者がVの言葉を訳している隙に会議室のホワイトボードにおどけた顔の絵を描き、ツッコミが入ってもとぼけたりと、いたずらをするのだ。そのいっぽうで、ソングライティングのプロセスやBTSのほかのメンバーのソロ活動、風景へのこだわり、「ロマンチック」の個人的な定義などについて真摯に語ってくれた。

Translated by Shoko Natori

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