過酷な訓練と肉体強化のリスク 米海軍・特殊部隊、ステロイド蔓延の実態

Photo by PETTY OFFICER 1ST CLASS ABE MCNATT/NAVAL SPECIAL WARFARE COMMAND

志願兵カイリー・マレンさんが昨年死亡したのを受け、米海軍は特殊部隊「SEAL」の訓練に関与した上級士官3人に懲戒処分を科すという異例の措置を下した。マレンさんの死の真相に長文ルポで迫る。

【写真を見る】訓練中、痛みを耐え抜くマレンさん

2022年2月2日、アメリカ海軍特殊戦司令部の前で車列が停車する中、疲れ切った訓練兵が頭上にボートを担いで道路を渡った。カリフォルニア州サンディエゴ沖に浮かぶコロナド島の、シンダーブロック作りのビル群こそ、2011年の急襲でオサマ・ビン・ラディン氏の殺害を指揮した秘密部隊、海軍特殊部隊「SEAL」の本部だ。

訓練兵は泥だらけの迷彩服を着て、号令をかけ合いながら道路を行進した。「艇の下に身を隠せ!」という叫び声が上がる中、重さ110ポンドのゴムボートを頭上でバランスを取りながら、足並みをそろえて駆け足で移動する。もう63時間も休みなしで訓練していた。訓練を続けるために、みな残された力を振り絞っていた。彼らに残っていたのは、戦場の兵士だけが知っている、骨がばらばらになるような疲労感だった。

「ヘルウィーク」と呼ばれる5日間の過酷な身体訓練は折り返し地点を迎えていた。訓練中の合計睡眠時間は5時間という中で、SEAL候補生は心身ともに限界まで削られる。世界最難関の入隊試験ともいわれる地獄の1週間で、訓練兵はこの先世界各地で与えられる任務の「最悪な面」を垣間見る。最後までやり遂げることができた者は、心身の限界がこれまで想像していたよりも高いことを知る。ヘルウィークこそがSEALをSEALたらしめる要とも言われている。

1月に基礎水中爆破訓練(通称BUD/S)の第1段階が始まった時、第352期生は200人以上いたことが分かっている。3週間後、3班に分かれてシルバーストランド大通りを渡る訓練兵はわずか24人だった。

訓練兵はヘルウィーク期間中に推定125マイル以上の距離を走る。それ以外に重い丸太を持ち上げたり、砂地から這い上がったり仲間を引きずり出したりした後、冬の大西洋の水中で低体温症すれすれまで身を震わせる。訓練兵はこれを「波攻め」と呼んでいる。濡れた衣服で数マイル走ると、脚や腕は凍傷してまるで生肉のような様相になる。足は血まみれだ。海軍の調査によると、訓練兵には地元の病院に行かないよう忠告した1枚の用紙が配られていた。SEALの訓練を知らない人間が見たら、お前たちはほぼ間違いなく入院させられるだろう、と用紙には記載されていた。元訓練兵がローリングストーン誌に語った言葉を借りれば、彼らはまるで戦争捕虜のようななりだった。

ローリングストーンが独占入手した携帯動画には、20数人の訓練兵がシルバーストランド大通りを渡る中、最後尾からついていく1人の訓練兵が映っている。一等水兵カイル・マレンさんは頭にボートを担ぎきれず、痛々しい脚でゆっくり歩いていた。以前は成績優秀だったが、ここ最近はついていくのがやっとだった。班の仲間は彼の分までボートを担ぐようになった。

週の初めに撮影された別の動画には、訓練兵のアメフトの試合が映っている。マレンさんは風船のように腫れあがった2本の足をよろめかせながら、竹馬に乗っているかのような動きをしていた。夜風に彼の喘ぎ声が響く。後に海軍の捜査でも判明するが、今後の展開を予兆させるかのように、この時彼は血を吐いていた。

Translated by Akiko Kato

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