『Secrets of Prince Andrew』でもっとも心を揺さぶられるのは、リサ・フィリップスさんが登場する場面だ。元モデルのフィリップスさんもエプスタインの犠牲に遭った1人だった。2000年、彼女はトルトラ島でモデルの仕事を予定していた。撮影で一緒になった別のモデルが、隣の島を所有する面白い友人がいるから一緒に行こうと誘った。向かった先は、今では「小児性愛島」と呼ばれるリトル・セントジョーンズ島。ふと気づけば、フィリップスさんは「20代前半か10代後半」ぐらいの大勢のモデルと一緒にエプスタイン主催のディナーに出席していた。アンドリュー王子はちょうど島を出るところで、ディナー客に別れを告げているようだった。フィリップスさんはやがてエプスタインにほだされ、「かどかわされて」「マッサージという口実のもと」「性的虐待を受けた」そうだ。
「私の話はアンドリュー王子で始まり、アンドリュー王子で終わるような気がします」とフィリップスさんはドキュメンタリーで語った。
2020年7月1日、ロンドンのショーディッチ地区に描かれたアンドリュー王子の壁画(GUY SMALLMAN/GETTY IMAGES)『Secrets of Prince Andrew』の終盤、フィリップスさんはアッパーイーストサイドにあるアプスタインの邸宅を久しぶりに訪れ、「身の毛もよだつ」経験だったと語った。
「彼を悪く言いたがらない友人を大勢知っています」とフィリップスさん。「気持ちは理解できます。私もずっと、15年以上も抱え込んできましたから。いざ口にしてみたら、あまりにも激しいトラウマでした。他の人のように黙ったままでいればよかったと思ったほどです……時々、声をあげなければよかったとも思います。気づくといたたまれない気持ちに襲われるんです」。
フィリップスさんは、親しい友人に起きた事件が理由でドキュメンタリーに応じることにしたと説明した。友人の名前は明かさなかった。
「声をあげることにした一番の理由は、私の親友――彼女を悲劇が襲ったからです」と、ドキュメンタリーでフィリップスさんは打ち明けた。「ある夜彼女の家に立ち寄ると、いきなり泣き崩れました。『どうしたの?』と訊くと、ジェフリー(・エプスタイン)の家にいたときにアンドリュー王子と部屋に行くよう言われたそうです。それで部屋の中に入り、王子とセックスした。それがすむと部屋を飛び出したそうです」。
フィリップスさんはさらに続けた。「ジェフリーがやれと命じたんです。同意の上だったかもしれません。性的暴行ではなかったかもしれない。彼女も立派な大人でしたしね。多分当時は19か20、おそらく19歳だったと思います。ああいう状況では、同意の上かどうかわかりかねます。どう判断すればいいかわかりません。ただ、心に傷は残りました。あれ以来、彼女はまったく別人になってしまった。彼女の人生は完全に狂ってしまいました」。
この一件の後、フィリップスさんはエプスタインと口を利かなくなった。最後に、自分が聞いた話を本人に直接問いただした。
フィリップスさんによると、エプスタインはこう言ったそうだ。「人の弱みを握っておくのはいいことだよ」。
「彼は大勢の実力者の秘密を握っていました」とフィリップスさん。「王子には自分の行いの償いをしてもらたい――関わった他の大勢の男たちにもです」。
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