ソウルへの愛情、ティナ・ターナーへの想い—ジェイコブとアリはLA、ライアンはUKの出身ですよね。今日のライブではティナ・ターナー「Private Dancer」のカバーも印象的でしたが、6月のグラストンベリーではソウル・II・ソウルの「Back to Life (However Do You Want Me)」を取り上げていました。同じソウルでもアメリカとイギリスでまた違った文脈があるように思いますし、そこを行き来できるのがゲイブリエルズの魅力かなと思ったのですが、その辺りはどのように考えていますか?ジェイコブ:全般的に、ヨーロッパではアメリカ人のソウル・シンガー、たとえばティナ・ターナーのような人が好まれていると思う。彼女はイギリス進出がきっかけで新たなキャリアを築いていったよね。当時、イギリスの音楽シーンには、アメリカほど強い差別意識がなかったから。ソウルミュージックは世界共通の音楽だと思うよ。ただ、ソウルミュージックを愛してるかどうかだと思う。
ライアン:ああ、そうだね。「ソウルが感じられれば、それはソウルミュージックだ」っていう、まったくその通りなことを言おうと思っていたところだ。どこで生まれたかは関係ない。当たり前だけど、音楽のジャンル名がそれを示している。
アリ:僕らの音楽にはソウルのコアの部分があって、制作のプロセスやサウンド面では、イギリスのプロデューサーたちの影響が大きいと思う。ビートルズやローリング・ストーンズもそうだし、デヴィッド・ボウイが出てきてから、アメリカとイギリスのブレンドは各所で起こっていたと思うよ。ルーサー・ヴァンドロスがデヴィッド・ボウイとアルバム制作をして、バック・ボーカルから新しいキャリアを築いていったようにね。そういった面でのブレンドは興味深い。ただ、根底にあるのは、やっぱりアメリカのソウルだ。ブリティッシュソウルは、確実にアメリカのソウルミュージックの影響下にあると思う。
ライアン:エイミー・ワインハウスがエタ・ジェイムズにかなり影響を受けていたようにね。
アリ:そうそう。彼女(エイミー)は60年代のフィル・スペクターのグループ、ザ・ロネッツとかにも影響を受けていたんじゃないかな。詳しいことはわからないけど。
ジェイコブ・ラスク(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.ライアン・ホープ(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.アリ・バロウジアン(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.—アメリカのシンガーで好きな人は?ジェイコブ:数えきれない。アレサ・フランクリンに、ティナ・ターナー。
ライアン:スプリームス。
アリ:ニーナ・シモン。
ジェイコブ:山ほどいるよね。ナット・キング・コール、フランク・シナトラもそう。彼らはジャズシンガーだと言われているけど、僕にとってはソウルでもある。
アリ:それからバーバラ・ストライサンド。僕らもさっき彼女の曲を歌ったんだ。オリジナルのバージョンでね。
—「The Way We Were」ですよね。アリ:ああ、いろんなバージョンで歌われ続けてるね。
Photo by Masato Yokoyama—『Angels & Queens』は二部構成の大作アルバムとなりましたが、どのような手応えを感じていますか?ジェイコブ:とても満足しているよ。制作にかなりの時間を費やしたし、僕らを知ってもらうのにぴったりな作品ができたんだ。これ以上のものは生まれないってくらい。かなり気に入っているよ。
アリ:ああ、誇りに思っている。
ジェイコブ:ここには僕らのハート、パーソナルな経験、家族とのストーリーが詰まっているんだ。
ライアン:それが『Angels & Queens』と名付けた理由でもある。このアルバムは、僕らに気づきを与え、サポートしてくれるエンジェルやクイーン(Angels & Queens)たちとのストーリーが元になってる。当時は気づかなかったけど、今では教訓になっている会話の数々とかね。だから、
アルバムのインサートやアートワークにも、『Angels & Queens』のモチーフとなった人々の写真を使っている。このアルバムは、とてもパーソナルでディープなものなんだ。完成までに5〜6年かかった。僕ら3人にとっての、リアルでディープなスナップショットだね。
—アルバムのリード曲「Glory」はライブアンセムの一つとして盛り上がっていましたね。この曲の背景を聞かせてください。ジェイコブ:(別の収録曲)
「One and Only」をレコーディングしたあと、2人は「最高だ、これは気に入った!」と言ってたんだよ。でも「Glory」ができたら、「やっぱり、こっちの方がいい」って言い出したんだ。
一同:(笑)
ジェイコブ:僕は俄然「One and Only」推しだから、断固として「いいや、それは違う」と言ってきたけど(笑)。
ライアン:「One and Only」は僕の仕事だな。
ジェイコブ:「One and Only」がベストだ、それ以上はない(笑)。そうそう、「Glory」についてだよね。僕の友達が 『Pバレー:ストリッパーの道』っていう、ストリップクラブのダンサーたちの生活を描いたテレビドラマに出演していて、その彼女とセックスワーカーの仕事現場を見学する機会があったんだ。その時に、セックスワーカーの実状を知ることになった。それから、ティナ・ターナーのドキュメンタリーを観たんだ(HBO制作の『TINA』だと思われる)。そのあとに曲を書きはじめた。”Let me tell you a story / Of a girl up in Glory”っていう歌詞は、ティナのことでもあるし、栄光(Glory)に輝くすべての女性たちのこと。一方で、彼女たちは、何度も傷つき、悲しんでいる。ドキュメンタリーの中で、ティナ・ターナーは「良い日々は、悪い日々の比にもならない」と言っていた。僕からすれば、彼女は、スイスの海沿いに家も持っているような成功者だ。そんな彼女でさえ、重々しいものを抱えながら生きていた。そういったことを知って、この曲に取り組んだんだ。栄光に満ち溢れ、誰からも愛されている女性でも、困難を抱えながら生きているってことをね。それで曲を書き始めて、サビ(の歌詞)が仕上がったとき……僕は怒り狂った。
一同:(笑)
ジェイコブ:あのときは2人を罵倒してしまったよ。「僕が間違ってると言いたいのか?」って。でも、後になって焦った。だって彼らは正しかったんだ。”I might be down right now but 〜”ってサビを歌い始めて、僕はこう思ったーー。
ライアン:「最高だ」って。
一同:(笑)
ジェイコブ:内心では「僕が間違っていたのか、くそっ!」と思った。僕はありったけの言葉で罵倒してしまったのに、彼らの選択は正しかったんだ。
—ティナは今年5月に亡くなりましたよね。ジェイコブ:うん。今のは彼女が亡くなる前の話だよ。
アリ:ティナはサウンド面でも、ソウルとロックンロールを融合したオリジナルのサウンドを作っていた。僕にとって、彼女は最初のロックスターだ。
ジェイコブ:彼女には、容赦のない炎のようなパワーがあった。
ライアン:ティナ・ターナーがミック・ジャガーにダンスを教えたっていう話を聞いたことがあるよ。
アリ:それはすごいね。当時、黒人女性でロックンロールをやる人はいなかった。そういうことも関係しているんじゃないかな。ロックシンガーはみんな彼女のファンだよね。デヴィッド・ボウイも尊敬してたし。