ジェイムス・ブレイクが語るダンスフロア回帰の真相、AIと音楽産業にまつわる深刻な懸念

神聖なフィーリング、クラブカルチャーへの情熱

―アルバム後半は徐々に落ち着いたトーンに変わっていきます。特に印象的だったのは、シンプルなピアノのループをバックに歌われる「If You Can Hear Me」でした。まだ歌詞を受け取っていないのでちゃんと聴き取れていないのですが、この曲は父親に語り掛けるような内容ですよね? 

ジェイムス:そうだよ。

―このタイミングで父親のことを歌おうと思った理由を教えてください。

ジェイムス:実は面白い背景があって、この曲を書くきっかけになったのが、映画『アド・アストラ』(2019年)用に曲を書いてくれと言われたことだったんだ。映画を見せてもらって、それ向けに曲を幾つか書いたんだけど、結果的に映画にはクラシック寄りの音楽が使われることになって。で、僕としてはそのときに作った曲を他の作品に流用することにして、これもそのひとつというわけ。

―ああ、なるほど。『アド・アストラ』は父と息子の物語ですもんね。

ジェイムス:元々映画用に書いたのはドミニク・メイカー(マウント・キンビー)と一緒に作ったピアノのループで、歌はずっと後になってから書いたものではあるんだけど。映画の中で、宇宙の遥か遠くで孤立している主人公が初めて父親とコミュニケーションをとるシーン用だったんだ。主人公は二度と再会できない父親に何年かぶりに通信できてメッセージを送る。なんて美しいシーンだろうと思った。個人的に父親と息子は特別なつながりがあると思っていて、そういう関係性を描いたシーンはいつだって感動的だと感じる。だからこの曲の歌も、それに感化されて、自分の父親との経験と重ねて書いたんだ。



―歌詞の面では、『Assume Form』(2019年)は感動的なラブレターのようなアルバムであり、『Friends That Break Your Heart』はロマンティックなリレーションシップ以外の人間関係について歌ったアルバムでした。今回のアルバムは全体として何について歌った作品だと言えますか?

ジェイムス:今作は、歌詞の内容よりも音の制作過程こそが曲と曲を繋ぐものではあるんだけど、僕が歌っている歌に関して言えば、それをつなげるものは、第一人称で歌っているのはラブソングだったり、愛する人を支えたいという思いだったりで、僕のこの数年間の実体験をもとにしている。ただ、アルバム全体に一貫した歌詞のテーマがあるわけじゃないんだ。

―では、新作がダンスフロア向けのサウンドになったことは歌詞の内容にも影響を与えましたか?

ジェイムス:そうだね。ダンスミュージックを作る際は、歌詞の内容も変わってくる。ダンスフロア向けには、違う歌詞の感覚が求められる。大きなサウンドシステムから流れる爆音でも、共感できるテーマじゃなきゃいけない。変に入り組んだ内容だと伝わらない。もちろん、深読みすれば隠されたメッセージが実はあるものもあるだろう。でも実際の歌詞は、シンプルで、効果的に、すぐにわかるものじゃなきゃいけない。ダンスフロア向けの曲の歌詞を書く時は、そういうことも念頭に入れておかないといけないんだ。

―アルバム最後の「Playing Robots Into Heaven」は、どこか物悲しく、教会音楽のような神聖さも感じさせるインストです。この曲名をアルバムタイトルに冠した理由を教えてください。

ジェイムス:この曲「Playing Robots Into Heaven」は、今作向けに書いた曲で、最初に満足できた曲だったんだ。モジュラーシンセを使って最初に試みた実験から生まれたもので。実は自分のインスタにこの曲ができたときの動画を投稿しているんだ。2、3年前の話だけど、そのときに書いた写真のキャプションが「天国にロボットを送る演奏をするオルガン奏者(原文:The organist who plays robots into heaven.)」だった。この曲のサウンドを聴いて、そう感じたから。それから2年経って、アルバムをまとめる段階になったとき、いろんな曲が出来上がっていたけど、「これこそがアルバム名だ」と確信したんだよね。アルバムの制作過程が、様々な機械を使って、スピリチュアルなフィーリングを生み出すことだったから、ピンと来たんだ。



―最近はLAやロンドンでCMYKというクラブイベントを主催していますよね。いま新たにクラブイベントを始めようと思った理由を教えてください。

ジェイムス:昔、1-800 Dinosaurというクラブナイトをやってたことがあって、それ以来、またクラブイベントをやりたいとずっと思っていたんだ。クラブイベントを主催することで、コミュニティができる感覚になる。同じ顔ぶれが集まり、いろんな人と出会い、オーディエンスが自然とできる。何年もやっていなかったから、またやりたいと思って。それと、今回のアルバムとも関係していて、アルバムの曲を試しに聴かせる定期的な場がほしいなと思ったんだ。言うならば、CMYKのお客さんが今作のA&R的存在だね。

@jamesblake



―クラブミュージックのシーンで、いまあなたが注目している動き、もしくはアーティストはいますか?

ジェイムス:ブラジルのクラブミュージックが今一番面白い。イキイキしていて、楽しい、という点でね。当然、これまでの一世を風靡してきたダンスミュージックのジャンルはどれもドラッグと密接なつながりがあったわけで。それは世の常だから。ハウスもそうだったし、テクノやドラムンベースやジャングルにしたってそう。文脈から生まれるものだと思っている。最高のダンスミュージックというのは、文脈があって、一つのコミュニティから生まれる。それに世界が注目して、みんながその素晴らしい音楽を人づてに知るようになるわけで。

Translated by Yuriko Banno

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE