ジェイムス・ブレイクが語るダンスフロア回帰の真相、AIと音楽産業にまつわる深刻な懸念

ソニックマニアの展望、AIやTikTokにまつわる懸念

―来日が目前に迫っています。ソニックマニアや大阪単独公演でのライブはどのような内容を期待していいですか?

ジェイムス:全てが混ざったものになるだろうね。まだ新作からの曲はやらないけど、「Hummingbird」といった最近のものから、昔のものまで全部を網羅した内容になる。特に最初の2作からの曲はたくさんやるよ。特に2作目。それに、新作のヒントになるような演出もある。アルバムに影響を与えたダンスミュージックを披露するつもりなんだ。まあ、ベストなセットリストを期待していてほしいね。




―あなたは2020年に『Covers』というカバーEPをリリースしていますし、最近のライブでもカバー曲をよく披露しています。あなたにとってカバーをやることはどんな意味がありますか?

ジェイムス:まず、何も自分で書く必要がないのは助かる(笑)。曲作りに何年もかけずに済んだ曲が歌えるのは楽でいい。あと、自分が大好きな曲を歌える喜びがある。その作品の物語の一部に自分もなれる、っていう。一生愛し続けてきた曲をステージで歌うことができるのが何よりも嬉しいね。


『Covers』にはフランク・オーシャン、ビリー・アイリッシュ、スティーヴィー・ワンダー、ジョイ・ディヴィジョンなどのカバーを収録

―ソニックマニアには、フライング・ロータス、サンダーキャット、オウテカ、ムラ・マサ、シャイガール、グライムス、ア・トライブ・コールド・クエストのアリなども出演します。タイミングが合えば観てみたいアーティストはいますか?

ジェイムス:正直、今挙げてもらったアーティストはほとんど観てみたい。サンダーキャット、グライムス。凄くいいライナップだよね。素晴らしいアーティストと同じステージに立つことができて光栄だよ。みんな知性を感じるミュージシャンばかりだし。素晴らしい発想を持った人たちだと思う。



―昨今の音楽を取り巻く状況についても幾つか訊かせてください。昨年あなたは、AIによってデザインされた安眠アプリ「Endel」とのコラボで、サウンドスケープ作品『Wind Down』をリリースしましたよね。AIと音楽の可能性についてはどう考えていますか?


ジェイムス:まず僕自身は音楽制作にAIは使ってない。今作で僕が使っているのは、生成技術であって、似て非なるものだからね。人工知能を使って独自の音楽を作るのではなく、僕自身がプログラミングを行なっている。もしかしたら、初期段階のものとも言えるのかもしれないけど、プログラミングをしたものから音楽を生成しているわけで、僕の想像をはるかに超えるものができるようなAIの領域にはまだまだ達していないね。



―現時点ではそうだとしても、AIの今後の可能性についてはどう考えていますか?

ジェイムス:AIに対する僕の姿勢は、創造的観点からは興味をそそられるけど、職業的観点からは脅威だと思ってる。なぜなら、配信で経験したのと同じような問題が起こり得るから。つまり、AIを推進している会社とレコード会社が手を組むことで、彼らは金銭的に潤うかもしれないけど、アーティストは何も得にならない。配信で起きたことがまさにそれ。だから、その点は心配だね。可能性として何が起こるかというと、AIアプリを使って、すぐに配信サービスにアップロードできる音楽を瞬時に生み出すことができるようになるわけで、配信サービスには著作権で保護されていない音楽が溢れることになる。つまり、配信サービスの利益が増し、アーティストの音楽が徐々に排除されてしまうことになる。

―現実的に十分起こり得る問題ですね。

ジェイムス:あと、「その人っぽさ」がAIの生成に使われるなら、その分の印税をアーティスト本人はきちんと受け取るべきだと思う。グライムスも言ってたよね、「私とAIの曲を作りたいなら、それは構わないけど、利益はシェアして」って。彼女は間違っていないと思う。ただ、全てのアーティストが配当を得られるわけじゃない。なぜなら、ゆくゆくそれが横行すると、その中で誰に似せて使ったかをトラッキングするのは不可能になるから。アーティストにきちんと印税が払われないと、収集がつかなくなってしまうことが懸念される。音楽で食べていくのは、今でもただでさえ厳しいのに、今後さらに厳しくなってしまう。そこが心配だね。

―ハリウッドでは今、AIの利用を巡って脚本家や俳優がストライキをしていますが、アーティストには彼らのような組合がないですからね。

ジェイムス:その通り。僕たちには代理人がいるわけじゃない。レコード会社とマネージャーがいるだけで、僕たちの権利を守るためにマネージャーが頑張ってくれることを願うけど、アーティスト次第だから。もう一つの懸念点は、ゴミみたいな音楽がシーンに溢れてしまうこと。これはもう既に起きてしまっているよね。



―あなたがビヨンセやフランク・オーシャンのアルバムに参加したように、2010年代はアメリカのメインストリームを舞台に様々なジャンルや国籍のアーティストたちのクロスオーバーが起こった時代でした。2020年代はラテン音楽やK-POPやアフロビーツの台頭が象徴するように、ポップのグローバル化が進行しています。あなたは現在のメインストリームのポップミュージックの動きをどのように捉えていますか?

ジェイムス:いろんな文化が溶け合っているという点で、創造性の部分では凄く面白いことが起きていると思う。インターネットのおかげで、離れていても伝わるようになって、様々なカルチャーが注目されるようになったのは素晴らしい。と同時に、今の音楽の多くが鈍感化して無感情になっていると思う。音楽配信による残念な副作用だね。単純に供給過多になってるんだ。新しい音楽に対する需要も高過ぎて、常にいいものが生まれるのは不可能だよ。その結果、大半がインスピレーションを感じられないものになってしまっている。しょうがないんだけどね、それが資本主義だから。

―いい音楽を見つけるのが以前より難しくなったと感じていますか?

ジェイムス:配信が音楽を聴く上での主要プラットフォームになってしまった以上、その中で競うために音楽を作らないといけなくなったことに加え、TikTokのせいで人々の集中力が実質なくなってしまったことで、作る側の人間にとっては、自分が作り得る最高の音楽を作ることが難しくなってしまったね。残されたのは、ツギハギのような音楽ばかりだ。音楽で食べていかなきゃいけないわけだから。売れるという目的を果たすためだけに作ったものばかりだよ。今でも素晴らしい音楽はたくさん存在するし、素晴らしいアーティストもたくさん活動している。昔のほうがよかったと言っているわけじゃない。ただ、今は世に出ている音楽の数が膨大で。毎日100万曲が新しくSpotifyにアップロードされてるんだから。とにかく多すぎるよ。全部聴ける人間なんていないし、需要があるから供給しているに過ぎない。人々の集中力の欠如は深刻な問題だね。

―いま話してもらったのが、音楽を取り巻く構造的な変化のマイナスの側面だとすれば、プラスの側面としては何が挙げられますか?

ジェイムス:プラスの面で言うと、自分たちの音楽を聴いてもらえる間口が広がったこと。インターネットの今のような発展がなければ、聴く機会がなかったかもしれない人たちが大勢いたと思うから。TikTokのようなプラットフォームを通して、素晴らしい音楽と出会えるようになった。僕自身、TikTokがなければ知ることもなかっただろう、素晴らしいパフォーマーたちの存在を知ることができたし。ただ、TikTokで見つけたパフォーマーたちっていうのは、たいていの場合、配信ビジネスにまだ乗っかっていない人たちで、彼らが配信サービスに曲を載せて、その世界で競うのに何が必要かを知ってしまった途端、作る音楽に悪い影響が出てしまうケースがほとんどだね。そういう矛盾が現状あるのは確かなんだ。でも、僕はいつだっていい音楽を探していて、それを見つけられている限りハッピーだよ。

―今日はどうもありがとうございました。日本でのライブ、本当に楽しみにしています。

ジェイムス:僕も待ちきれないよ。もの凄く楽しみにしている。

―日本は凄く暑いんで、覚悟しておいてくださいね(笑)。

ジェイムス:OK(笑)、覚悟しておくよ。どうもありがとう(笑)。




SONICMANIA
8月18日(金)幕張メッセ
公式サイト:https://www.summersonic.com/sonicmania/

SUMMER SONIC EXTRA
ジェイムス・ブレイク大阪公演
2023年8月16日(水)Zepp Osaka Bayside
詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/james-blake-ssextra/


ジェイムス・ブレイク
『Playing Robots Into Heaven』
2023年9月8日リリース

Translated by Yuriko Banno

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