フジロック総括 完全復活した「いつものフジロック」と変化していくフェスのあり方

3日目・7月30日(日)

【Lizzo】

GREEN STAGE大トリは、今を象徴するアーティスト、リゾ。冒頭から、「JAPAN!」ではなく「ニッポン!」と言うのが何だかリゾっぽい。ダンサーたちと一緒にリゾが満開の笑顔で歌い踊る姿はエンパワメントそのもの。「私が輝けばみんなも輝く 生まれた時からこう」と歌う「Juice」ではもちろん「ヤヤイー」の大合唱が巻き起こった。広大なGREEN STAGEエリアをオーディエンスが埋め尽くす光景が目に入り、リゾも嬉しそうだ。「私はリゾです!」と日本語で自己紹介した後、早速「ビッチ!」というシャウトが飛び出す。

ミッシー・エリオットからリゾへの愛とリスペクトのメッセージが流れた「Tempo」からの、カーディ・BのFacetime動画が写し出された「Rumors」という流れも最高だった。「右の人も左の人もスペシャル! 私もあなたもスペシャル! 全員に捧げます!」と言って、「Special」へ。数万人が一斉に「You‘re Special!」と歌うと、本当に全員がスペシャルだと思えたし、これこそが音楽の力なのだと感じた。そして、こんな曲間で何度も「ニッボン大好き!」と愛を伝えてくれるのだから、ますます惹かれてしまう。レインボーフラッグが振られた「I’m Every Woman」、黒人女性やLGBTQへの支持を表明してからの「Everybody’s Gay」という流れも素晴らしかった。

後半、ピンクのリボンに包まれたような衣装に着替えたリゾ。リゾのセーラームーン姿のイラストが入っているタオルを持っているファンやメッセージボードを持ったファンを見つけ、その場でサインを入れていた。リゾが莫大な愛とエネルギーを送っているからこそ、オーディエンスも莫大な愛とエネルギーを返すのだ。もちろんその愛は数々の苦難を乗り越えて得たものだということを我々は知っている。




【BAD HOP】

5月に開催されたPOP YOURSで解散を発表したBAD HOP。最初で最後のフジロック当日に、バンドメンバーとして、RIZEから金子ノブアキ(Dr)とKenKen(Ba)、the HIATUSからmasasucks(Gt)と伊澤一葉(Key)が参加するというニュースが発表された。猛者たちを迎えてのBAD HOP初のバンドセットはどんなステージになるのだろうか?と期待を膨らませていると、漆黒のステージから勢い良く炎が上がり、いきなりの「Kawasaki Drift」。ビジョンには「WARNING」の文字。バンドの音もラップも重すぎて痺れる。苗場で「川崎区で有名になりたきゃ 人殺すかラッパーになるかだ」というラインを聞く日が来るとは思わなかった。このタイミングで初のフジロック出演で初のバンドセットを持ってきて、自らのヒップホップを大幅に更新したBAD HOP。「High Land」や「Ocean View」「Foreign」といった聞き慣れた楽曲も、メタリックでドス黒いアンサンブルが渦巻く楽曲へと変容していた。ゴールテープを切る瞬間まで、こうやってシーンを揺らし続けるのだろう。YZERRは「自分たちは保育園から一緒のメンバーも多くいる幼馴染同士で、レーベルに所属せずに活動している」といったことを丁寧に自己紹介した後、「日本でヒップホップをもっともっとデカくするために本気で頑張ってます!」と言い放った。

T-Pablowが「解散を発表したタイミングでこのステージに出られるのは神様からのプレゼント。ずっと川崎という港町で夢を見てきました。今日は娘たちも来てます!」と言って娘の名前を呼んだ後、「Bayside Dream」を披露。解散するからといって、BAD HOPの夢が終わったわけではない。このフジロックのステージが終わってからも、そしておそらくドームクラスの会場で行われるであろう解散ライブが終わってからも、BAD HOPの前代未聞の偉業は後続に夢を与え続けるのだろう。








この投稿をInstagramで見る

BAD HOP(@badhop_official)がシェアした投稿





【Balming Tiger】

自らを「多国籍オルタナティブK-POPバンド」と名乗るBalming Tigerは、5MCが顔のイラストが書かれた箱型の被り物をして登場。ヴィジョンには「Balming Tigerの新しくなった公演」という日本語のメッセージが表示されており、ワクワク感を高める。「今から始まります」と表示された後、おどろおどろしい民族音楽が流れ、5MCが一斉にかぶりものを外し、ジャンプしながらキレのいいラップを披露。これは楽しい。白いツナギを着てキメポーズを見せる5MCはまるでヒーロー戦隊のようだ。「フジロック、ワッツアップ!」とシャウトすると、地鳴りのような歓声がRED MARQUEEに轟いた。

メンバーの一人はどうやら足を怪我していて松葉杖姿だったが、松葉杖をスティックのように高々とかざしたり、ギターを弾く真似をしたり、元気いっぱいだった。フリースタイルダンスを披露したり、お揃いの振りを踊ったり、5人で円を作りぐるぐると回ったり、コール&レスポンスをレクチャーしたりと、RED MARQUEEのオーディエンスをどんどん盛り上げていく。

原曲ではBTSのRMをフィーチャーした「SEXY NUKIM」では、ドスの効いたラップを軸に、MC3人がフロントで横並びになり、中毒性のあるダンスを披露。3人の内、2人は上半身裸。1曲ごとに、そのモダンでエンタメなセンスが爆発していて目が離せない。終盤にはモッシュピットを何度も作り出し、ライブ後のRED MARQUEEには「ヤバい!」や「楽しかった!」という声があちこちで上がっていた。









いつものフジロックであり、変化したフジロック。開催前に「力を入れる」と運営側が発言していたトイレについては、数も増え、スタッフがこまめに状態をチェックをし、例年より行列は少なく感じた。飲食店については、優先購入ができるパスを利用しているオーディエンスを見かけることが少なかったこともあり、かなりの行列ができていた。専用ビューイングエリアの利用者もあまり多くなかったように見えたが、専用休憩スペースは多くの人が利用しているタイミングがあった。「FUJI ROCK PLUS」は導入1年目ということもあり、まだ知名度が低いのかもしれないし、フジの客層のニーズとギャップがあるのかもしれない。今年の状況を踏まえ、来年は改善される可能性もあるだろう。

復活したTHE PALACE OF WONDERはキャンプサイトの入口と入場ゲートの間へと場所が変わり、飲食やグッズ売り場を内包した大きなエリアになっていて、昼間も深夜も盛況だった。

今回のフジロックで何より喜ぼしかったのは、アーティストたちの素晴らしいパフォーマンスに対し、何も気にすることなく声援が上がり、大合唱が起きたことだ。GREEN STAGEのラストチューンとなったリゾの「About Domn Time」だって、みんなで大合唱したからこそ得られたとてつもない感動があった。自然に囲まれたフジロックでの解放感と一体感は何ものにも代えがたい。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE