クラウス・ノミの「異質さ」を再発見すべき理由 ボウイも魅了したLGBTQヒーローの歩み

 
現世にまで受け継がれてきた「異質な存在感」

今年2023年はそんなノミの没後40年。LGBTQの権利の獲得がようやく世界規模で叫ばれるようになってきた現在、もしこの人が生きていたら、長く活動を継続させていたら、その表現者としての異質な存在感がどれほど多くの人々の指針になったことだろう、とまこと悔しい気持ちでいっぱいになる。もちろん、10年程度のキャリア、デビューから僅か3年での逝去にも関わらず、その特異な存在感は年々高まるばかりで、もはや音楽という領域を超え、ファッション、アート、さらには日本においてはお笑い芸人・ハライチの岩井勇気がコントで「塩の魔人」に扮した時の衣装がノミのあのプラスチックのタキシードそっくりだったりと、本人不在の中、その影響が年々各所に広がっていっている。その全てがノミの本質的な思惑に沿ったものであるかはともかく、異質であればあるほど、極端に表現すればするほど、存在のその重要性がデフォルメして伝わる、という真理、いや、もうこれしかできなかったという屈強な意志の強さは確実に現世にまで刻まれたままできた。



今回、そんなクラウス・ノミの没後40年企画として、1stアルバム『オペラ・ロック』、2ndアルバム『シンプル・マン』(82年)、 79年のライブが聴ける『イン・コンサート』(86年)、ベスト・アルバム『アンコール~ベスト・オブ・クラウス・ノミ』(83年)という計4作のアナログ盤を収めたアナログ盤ボックス・セット『Nomi』が6月16日にリリースされる。また、それに先んじてそれぞれの作品が配信/サブスクリプション・サービスで4月28日に解禁されている(厳密にいうと配信に関しては一時的に下げられていたが改めてこのタイミングで配信に至った)。

4作品全てを紹介するのは紙幅の都合もあり割愛するが、特に聴いてもらいたいのは、やはり1stの『オペラ・ロック』だ。オペラの技術に裏打ちされたノミの声量の豊かさ、レンジの広い歌の領域を生かして昔ながらのポップ・ソングを再解釈したような作品で、あくまでノミの歌い手としての魅力をポップな側面から伝えようとする「Nomi Song」と「Total Eclipse」の2曲が突出していい。シンセサイザーを用いた音作りは、『スウィッチト・オン・バッハ』や映画『時計じかけのオレンジ』のサントラなどで知られる電子音楽家、ウェンディ(ウォルター)・カルロスに参照点を見ることもできるが、少々ディスコティークな「Wasting My Time」などはこの時期のZe周辺やそれこそアーサー・ラッセルの作品にも通じるところがある。そういえば、ノミはジェームス・チャンスとも交流があったという。

もちろん、スパークスのラッセル・メイルを思わせるノミのファルセットは白眉の一言で、前述のようにルー・クリスティ、レスリー・ゴーアなどポップスもカバー。一方、ヘンリー・パーセルの歌劇『アーサー王、またはブリテンの守護者』の独唱(アリア)のカバー「The Cold Song」や、こちらもデビュー前からとりあげていたサン=サーンスのオペラ『サムソンとデリラ』の「Samson and Delilah」(ライブ録音)はもはや水を得た魚のようにオペラとしての哀感がたっぷりだ。このあたり、まだ完全にオペラとポップスが融合しきれていない感じもして、逆にいえば、だからこそその奇妙な違和感が楽しめる1枚になっていると言ってもいい。ちなみに、この1stは80年に第二次世界大戦時のナチス・ドイツを描いた『The Long Island Four』を監督したスウェーデン生まれの映画監督、アンダース・グラフストロームに捧げられている(ノミもまたこの映画にナチスの役人という脇役で出演)。初期のノミのパフォーマンスを多く撮影していたアンダースは、この映画の完成から数ヶ月後に23歳という若さで自動車事故で亡くなっていた。




なお、今回のリイシューにおいて、『オペラ・ロック』『シンプル・マン』『イン・コンサート』の3作品は世界初のデジタル化、『アンコール~ベスト・オブ・クラウス・ノミ』は初の立体音響化(ドルビーアトモスと360リアル・オーディオ)となる。また、『シンプル・マン』に収録されているマレーネ・ディートリヒのカバー「Falling In Love Again」のMVが新たに公開されている他、映像も簡単に見られるようになった。映像といえば、2003年にはドキュメンタリー『ノミ・ソング』も制作されている(日本公開は2005年)。

当時は過激だったりストレンジだったが時間が経過するとともにそこまでではないように聞こえる……という音楽、作品は割と多い。だが、クラウス・ノミの作品は、何年経っても異質で極端で奇妙で不気味で、でも、どことなくユーモラスで愛らしさも顔を覗かせる、他には絶対にない唯一無二のものだ。それどころか、時間をおけばおくほど、どこに位置付けすればいいのかますますわからなくなる。生前、ノミはなにごとにもアウトサイダーである視点を持ち続けることをモットーとしていると語っていた。その上で、こんなセリフを残しているのである。

「Nothing is sacred to me. Who is making the rules anyhow?」(私にとって神聖なものなど何もない。一体誰がルールを作っているのか?)

没後40年の今年、このルールなき異質のアウトサイダーにぜひ向き合ってみてほしいと願う。






『オペラ・ロック(Klaus Nomi)』
再生・購入:https://KlausNomiJP.lnk.to/KNomiRS


『シンプル・マン』
再生・購入:https://KlausNomiJP.lnk.to/SManRS


『イン・コンサート』
再生・購入:https://KlausNomiJP.lnk.to/InCRS


『アンコール~ベスト・オブ・クラウス・ノミ(Nomi’s Best)』
再生・購入:https://KlausNomiJP.lnk.to/encoreRS


『Nomi』 (4枚組アナログレコード/BOX仕様)
2023年06月16日リリース

 
 
 
 

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