ビョーク来日公演を総括 過去に例のないシアトリカルな非日常空間

音と色彩と光を司るクイーン

そして開演時間になると、まずは日本から『cornucopia』に参加した、男女混声の合唱団サマディが登場。ミニ・オープニング・アクトとして、大胆なアレンジを施した『さくらさくら』や八木節を聞かせ、いよいよ本編が始まる。オープニング曲は『Utopia』への入り口だったシングル曲「The Gate」だ。この夜は、noir kei ninomiyaのドレスとヘア・アーティストの河野富広が手掛けたヘッドピースで日本の才能をオマージュしていたビョークを取り巻くのは、『Utopia Tour』の時と変わらず、アルバムでも起用した7人編成のアイスランドの女性フルート・アンサンブルViibra、ハープ奏者のケイティ・バックリー(アイスランド・シンフォニー・オーケストラの首席チェリストでもある)、エレクトロクスを一手に引き受けるほか多数の楽器を弾きこなす、やはり同郷のベルガー・ソリソン(『Fossora』でエンジニアを務めた)、『Biophilia Live』以降毎回ツアーに参加しているオーストリア出身のハングドラム奏者/名パーカッショニストのマヌ・デラーゴという、4組のミュージシャン。曲によってサマディも歌声を添え、「Atopos」では共作者であるガバ・モーダス・オペランダイのカシミンが、トモコイズミによるレインボー・カラーの衣装で姿を見せた。


Photo by Santiago Felipe


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Photo by Santiago Felipe


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またステージ上には、『Fossora』のヴィジュアル・インスピレーションでもあるキノコを象ったプラットフォームを、高低差をつけて配置。ゆらゆら揺らいでいる可動式のロープ状のカーテンも相俟って奥行きのある空間が作り出され、そのカーテンやステージの左右のスペースも用いて映像をダイナミックに投影する。植物や人間の体をモチーフにした艶めかしい映像は音楽と完全にシンクロして躍動し、シンクロと言えば、Viibraの面々はダンサーも兼任。踊りながらフルートを奏でる様子はユートピアの精さながらで、「Pagan Poetry」や「Isobel」といった旧作からの曲も彼女たちのフルートとダンスによってセンシュアルに生まれ変わっていた。他方の「Body Memory」では、ビョークを包み込むようにして環状につないだ4本のフルートを4人が同時に演奏するという演出で驚かせたが、マヌのほうも、各曲にリズムのアイデンティティを与えるようにして古今東西の様々なパーカッション楽器をプレイ。「Blissing Me」では巨大な水槽の中にカラバッシュ(瓢箪で作ったマリの伝統楽器)を浮かべて、それらを打ち鳴らしたり、水をすくってはこぼしてサウンド・テクスチュアを構築したり、環状フルート共々、『Biophilia Live』 の時と同様にビスポーク楽器でもオーディエンスを楽しませる。


Photo by Santiago Felipe


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Photo by Santiago Felipe

そんな中でビョークは、音とムーヴメントと色彩と光を司るクイーンのごとく君臨し、自然との共生、家父長制の罪、全能の愛といった『Utopia』の多岐にわたるテーマを歌で束ねていく。『Medúlla』からの「Show Me Forgiveness」など、曲によってはステージの左奥に設置された繭型のリヴァーブ・チェンバー(彼女の細かなリクエストに則って作られたビスポーク装置で、国際的なエンジニアリング・コンサルティング会社のアラップと共同で開発)に入って歌い、限りなくナチュラルなリヴァーブ効果は、どこかプライベートな空間から漏れ聞こえる声に耳を傾けているような錯覚に陥らせる。

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