アニマルズ・アズ・リーダーズ、メタル〜現代ジャズを横断する超絶技巧バンドを徹底解説

アニマルズ・アズ・リーダーズ

トシン・アバシ率いるアニマルズ・アズ・リーダーズ(Animals As Leaders)が、最新アルバム『Parrhesia』を携えての来日ツアーを4月11日(火)大阪・BIGCAT、12日(水)名古屋CLUB QUATTRO、13日(木)東京・Spotify O-EASTにて開催する。『現代メタルガイドブック』監修の和田信一郎(s.h.i.)にバンドの魅力を解説してもらった。



アニマルズ・アズ・リーダーズ(以下AAL)が6年ぶりに来日する。AALはジェント(djent)と呼ばれるスタイルの発展に貢献したバンドで、こうした立ち位置もあってかメタル領域の外で語られる機会が少ないのだが、その音楽性は一言でいえば「プログレッシブ・メタルコアと現代ジャズの交差点、その系譜における最高の達成」で、様々なジャンルの音楽ファンに聴かれるべき美しさと豊かさを湛えている。メシュガーやペリフェリーが好きな方はもちろん、スクエアプッシャーやティグラン・ハマシアン、ジェイコブ・コリアーやIchika Nitoのファンにも強くアピールするはず。折角のこの機会、できる限り多くの人に体験してほしいと思う。

AALはナイジェリア系アメリカ人であるトシン・アバシのソロプロジェクトとして結成され、2009年に発表された1stアルバム『Animals As Leaders』が大きな話題を呼んだ。この作品をプロデュースしたミーシャ・マンソーはペリフェリーの中心人物で、2010年リリースの1stアルバム『Periphery』はジェントを最初に確立した歴史的名盤とされている。

「ジェント」はメシュガーのフレドリック・トーデンダルが2000年代初期に作った言葉とされ、このバンドの独特のリズム構成(複雑なアクセント移動を繰り返すが、長期的に見れば4拍子系の4倍数小節周期に綺麗に収まる)および重く鋭いギター(8弦が使われることが多い)の刻みを指す格好の言い回しとして、先述のミーシャなどがインターネット上の掲示板で繰り返し語ることで広まった。そうした固有のサウンドにメタルコア由来の跳ねる躍動感を加えたのが音楽ジャンルとしてのジェントで、つんのめるような引っ掛かりとノリの良さを兼ね備えたこのスタイルは、簡略化された形でポップミュージック(一部の邦ロックなども)に採用されるほど普及している。


『Animals As Leaders』収録の「Cafo」、Spotifyなどでバンドの最多再生回数を記録している人気曲




このジェントの形成に大きく貢献したのがAALで、圧倒的に高度なアレンジを超キャッチーに聴かせる音楽性は、2009年当時のシーンの常識を大幅に塗り替え各方面に衝撃を与えた。大部分が奇数拍子からなる変則展開を滑らかにグルーヴさせるリズム処理もさることながら、イングヴェイ・マルムスティーンやジョン・ペトルーシ(ドリーム・シアター)に連なるクラシック音楽寄りの要素と、スティーヴ・ヴァイやアラン・ホールズワース、メシュガーなどに連なるジャズ寄りの要素を融合したメロディ〜コード感覚には異形の美しさがあり、極めて複雑なのに理屈抜きの親しみやすさがある。8弦ギター主体のベースレス編成も特徴的で、低音までしっかり出ているのに帯域としての低域は控えめで風通しが良いプロダクションは、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーに影響を受けたというIDM的な電子音響と非常に相性が良い。

こうした要素からなるAALの音楽は、作編曲・演奏の両面で簡単には真似できない高みにあり、10年以上経った今でも新鮮に聴ける輝きを維持している。Fire-Toolzのようなハイパーポップ以降の音楽に通じる面も多く、そうした観点からも評価されるべき音楽だと思う。



その上で、AALが凄いのはむしろ2ndアルバム『Weightless』(2011年)以降の飛躍だろう。打ち込みのソロプロジェクトから3人編成の生バンド(8弦ギター×2、ドラムス)となり、複雑なアレンジを人力でこなすようになったことに加え、作編曲面での進化が凄まじい。

先述のように、トシンの元々の影響源はメタル領域に関わりの深いギタリストが主だったのだが、この頃になるとアダム・ロジャースやカート・ローゼンウィンケルといった現代ジャズの名手からも貪欲に学ぶようになっていく。そうした探究が最高の形で結実したのが2014年の3rdアルバム『The Joy of Motion』で、ジミー・ヘリングやアイザイア・シャーキー(ディアンジェロのバンドメンバーとしても来日経験あり)をはじめとしたカントリー〜ソウルミュージック方面の影響も取り込みつつ、唯一無二の音楽性をさらに更新。本作ではリズム構成も大幅に整理され(メシュガーの変則4拍子に接近)、複雑さと親しみやすさの両立具合が大きく増している。最初に聴く一枚を選ぶならこれ……と言いたいところだが、各種ストリーミングサービスでは本作だけ配信されていないのが残念(代わりに選ぶなら1stか最新作である5thをお薦めしたい)。CDやLPを手にとる機会があったらぜひ聴いてみてほしい。


『The Joy of Motion』収録の「Physical Education」

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