クリープハイプが語る、無意識に感じ取った世の中のムード、CDが必要だと思った理由

-なるほど。では、全5曲について1曲ずつ楽曲のバックグラウンドを聞かせていただけますか? 発表順に、まずは「愛のネタバレ」。

尾崎:曲作りがスムーズにいかなかったので、迷いながらいろんな曲を作っていたんです。その中で1曲、弾き語りしながら作っているとき、これかなと思える曲があったのですが、スタジオで合わせてみたらうまくハマらなくて。たまにそういうことがあるんです。それが久しぶりに来たと思いながら、さらにいっぱい作っていったら、どんな曲がいいのかよけいにわからなくなってしまったんです。その中で「愛のネタバレ」のAメロができて、ようやくどうにかなりそうだと思えました。改めて振り返ってみると、久しぶりに迷ったという印象があります。そこからどうにか少しずつ磨いていって、最終的に納得できる曲になりましたが、弾き語りでできたイメージのまま気持ちよくレコーディングを終えていたここ数年の曲作りとは感覚がかなり違いました。

-なぜ、このタイミングで迷ったのでしょうか?

尾崎:しばらく曲を作っていなかったからだと思います。2021年12月にリリースした前作のアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』で最後に作った曲から1年ぐらい、敢えて曲を作らないようにしていたんです。曲作りはずっとやってきたので、それでも作れてしまうだろうと思っていたのですが、意外とできなくて。でも、それは狙い通りでもありました。これまでなかなか実行できなかったけれど、自分の中で、曲を作らないでいるというのは大事なテーマだと思っていたので。世の中に対して、そんなに活動が止まっているようには見えない、アルバムリリース直後というタイミングであえて曲を作らずにいたんです。

-それはクセで曲を作ってしまうことを避けるために?

尾崎:それもありますが、曲を作りたいとか、でも作れないとか、そういった曲作りを始めた頃の感覚をもう1回取り戻したかったんです。でも、やっぱり曲が作れないというのは、そんなにいいものではなかった。悔しいし、できない時は苦しい。でも、この感覚を求めていたんだと、どこかで思いながらやっていました。



-そんなふうに迷いながら、苦労しながらできた「愛のネタバレ」をバンドでアレンジする時には、どういうイメージの下、どんなふうにアプローチしていったのでしょうか?

小川:サビが穏やかと言うか、高い音域で、声を張って歌う曲ではないので、最初はギターで派手にアレンジしたら邪魔してしまうだろうと考えて、歌や曲の温度感に寄り添いながらアプローチしていきました。今回、いつもだったら時間が掛かる歌メロの裏のフレーズは、すぐに形になったのですが、逆にいつもすぐにイメージできるギター・ソロにてこずったこともあって、今までの曲とは違う感覚がありました。この曲は絶妙な温度感があるんです。感情を歌っているやさしいメロディから、どうフレーズを引き継ぐかというところで、最初はそのままやさしい感じでフレーズを作ってみたのですが、冗長に感じられたんです。結局、尾崎と何度もやり取りする中で、「わかりやすくないメロディがいいかもね」という言葉がヒントになって、今のフレーズができたのですが、そういう抽象的な言葉からフレーズが作れたのは、また一歩成長できたと言うか、新たな感覚がありました。

―絶妙な温度感という言葉が出ましたが、尾崎さんはどんな曲を作ろうとしていたのですか?

尾崎:最近は曲を作るとき、大体Aメロ、Bメロ、サビがあって、そこに当てるメロディの動きが何となく決まってきていたんです。演奏もそう。歌の変化に合わせて動きはするけれど、それがいつも同じというのは、バンドとして大丈夫なのかなと気になっていたんです。それで、歌はそんなに動かないけれど演奏はうるさいとか、お互いに譲りあってシンクロするのではなく敢えてぶつかってみるとか、ずれてみるとか、今までやっていなかったことをやりたかった。なので、歌メロを作る時もそんなに高いところに行かずに我慢して、でも演奏は思いっきり声を張っていた時と同じというところを目指していました。

―リズム隊のおふたりはどんなアプローチを?

小泉拓(Dr):声を張らない中での熱い演奏というところで、シンプルだけど、弱く叩くわけでもなく、力強いんだけど、曲を殺すほどじゃないという絶妙な匙加減を探っていきました。

長谷川カオナシ(Ba):私もフレーズが動き回るのは、まず違うと思って、ベースはできるだけ黙っているべきだと考えました。ただ、同じ黙っているのでも、細い文化系の男ではなく、筋肉質の強そうな男が黙っているというイメージを意識して、普段はやらないピック弾きのダウン・ピッキングで8分音符を刻むというアプローチをして、そういう尖り感を出しました。

Rolling Stone Japan 編集部

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