土岐麻子×TENDRE対談 お互いのシンパシーとビルボードライブへの想い

土岐麻子、TENDRE(Photo by Kazushi Toyota)

 
⼟岐⿇⼦が4月25日に横浜、27日に大阪、5月3日に東京でビルボードライブ公演「Toki Asako Special Live “Break Out, Sing Out!”」を開催。横浜公演にはTENDREがゲストとして出演する。洗練された音楽センスをもつ2人に、出会いから意気投合までのエピソード、公演の展望とヴェニューへの思い入れを語ってもらった。


2人の出会いと「不思議な縁」

―そもそもお二人の交流は、どんなきっかけで始まったのですか?

土岐:最初は坂本真綾さんの現場でしたよね?

TENDRE:はい。真綾さんに作曲と編曲のオファーをいただいて。それが「ひとくちいかが?」という楽曲なのですが(2021年のアルバム『Duets』収録)、土岐さんは作詞だけでなく、真綾さんとのデュエットもされていましたよね。



土岐:友人同士の他愛もないお喋りをテーマにした楽曲で。コロナ禍のためTENDREさんとはZoomとメールのやり取りだけだったけど、すごくいい曲に仕上がって。とてもいいムードで制作ができたので、ぜひ私の楽曲でもお願いしたいなと思ったんです。

TENDRE:土岐さんのアルバム『Twilight』(2021年)に入っている「眠れぬ羊」という曲でコラボレーションさせていただきました。僕は土岐さんのボーカルを、それこそCymbalsの時から愛聴していましたから、憧れの存在というか。でも実際にお会いしたら、すごく気さくに接してくださって。歌の柔らかさから伝わる人柄そのままの人なんだなと思いました。

土岐:嬉しい! 実は「眠れぬ羊」のレコーディングをする前にも一度イベントで会っているんですよね。そのときに初めてTENDREさんのステージを見たんです。もともと音源は好きで聴いていたんですけど、ライブとすごくいい形で連動しているというか、TENDREさんの緻密な頭の中を、そのままステージでも再現しているなって。

TENDRE:あははは。

土岐:ライブになると、歌い方が結構変わる人っているじゃないですか。私はどちらかというとそっちのタイプなんですけど、TENDREさんはあえて熱くなり過ぎないよう理性的に歌っている気がしました。そういうシンガーが好きだというのもあるし、もともとプレイヤーだったということを後から知って「なるほど」と思いましたね。



―コラボをしていて印象に残っているエピソードはありますか?

土岐:そういえば「眠れぬ羊」のレコーディングの時にお聞きしたかったんですけど、私のメインの歌を録った後に、たくさんコーラスを重ねてくれたじゃないですか。「僕、自分でディレクションします!」と言ってブースに入って、エンジニアと一緒にものすごく手際良く声を重ねていっている様子に驚いたんですよ。あらかじめどんなハーモニーにしようとか、声色はこんな感じにしようとか、ある程度決めてあるんですか?

TENDRE:その場でパッと浮かんだアイデアをそのまま試してみることが多い気がしますね。確かその時は「毛布みたいなコーラスを入れます」みたいなことを、土岐さんに言ったのを覚えています。

土岐:そうそう、言ってた!(笑)

TENDRE:土岐さんの歌が入ったトラックをスタジオで聴いたときに、「この曲は、温かくて柔らかい男声コーラスでメロディを包み込もう」と閃いたんです。温かくて柔らかく、包み込むものといえば「毛布」だなと(笑)。自分の楽曲でも、思いつきでどんどんコーラスを重ねることが多いんですが、他の人の曲で自分の思いつきを試すなんて、そんな贅沢な機会はまずないから張り切ってしまいましたね。心の中でニヤニヤしながら重ねた記憶があります。

土岐:あのときTENDREさんは、全ての作業に確信を持って、全く迷わずにどんどん進めている気がして。その集中力もすごいと思ったし、そういう人だからこそライブでもあんなに落ち着いているというか、自分の音に「迷い」がないのだなと、今お話を聞いて納得しましたね。あと、曲のイメージについてやりとりをしているときに、抽象的な表現を使っていたじゃないですか。それもすごく印象に残っています。私はどちらかといえば、専門的な音楽用語より抽象的な表現を使うことが多いので、すごくやりやすかった。

―それは、例えばどんな表現ですか?

土岐:アルバムのタイトルに付けた「トワイライト」は、夕方と朝の両方に訪れますが、この曲は「ひとしきり賑やかな夜を友人たちと過ごした後の帰り道をイメージしよう」と。寂しくもあるような、ちょっとホッとする気持ちもあるような、体は疲れているけど、どこか心地よい感覚。「そういう幸せな帰り道みたいな曲がいいですよね」って話し合ったんです。それがすごく印象に残っているし、イメージも共有しやすく楽しかったんですよ。特に歌詞についてはまずイメージがあって、それを言葉に置き換えてからロジカルに詰めていく方がうまくいく気がしますね。

TENDRE:自分がどういうシチュエーションで聴きたいかをイメージしたかったのもあるし、聴き手に対しても「こういう気分になりたいときに聴いてもらいたいな」という提案でもあって。いずれにせよ、土岐さんとのコラボの時は「日常のなかのどの瞬間を切り取るか?」みたいな話を具体的にできたからこそ、情景が浮かびやすい楽曲になったのかなと思っています。


Photo by Kazushi Toyota

―土岐さんは最近のインタビューで、「年下の世代の方とのコラボから学ぶ機会が増えている」とお話されていましたが、TENDREさんとのコラボを通じて得たものは?

土岐:うーん、どうだろう。若い人とコラボをすると、「あ、こういうやり方をするんだ」とルールの違いに驚くことがあるんですけど、TENDREさんはそういうのがなかったかも。世代間の違いを感じるよりも、シンパシーを覚える部分も多くて。ミュージシャンシップの感覚が近い方なのだなと思いましたね。

TENDRE:きっとそれは、僕の両親が音楽をやっていたのも大きいかもしれないです。新しいことを取り入れていくのも好きなんですけど、自分のルーツみたいなところも大切にしてきているので、これまでにも世代が上のミュージシャンとコラボをしてきたことは何度かありますが、その時もあまり世代間ギャップみたいなものは感じなかった気がします。

土岐:知り合ってから知ったことなんですけど、私の父(サックス奏者の土岐英史)とTENDREさんのお父さま(ベーシストの河原秀夫)も、ミュージシャンとして交流があったみたいなんですよね。父は一昨年他界したのですが、去年追悼ライブで、TENDREさんのお父さまがベースを弾いてくださって、それを母親が教えてくれたんですよ。

TENDRE:なんだか不思議な縁ですよね。

Hair and Make-up = Natsue Maura 衣装提供:sawa takai(土岐麻子)ロケ地協力:MAnature

 
 
 
 

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