侵攻から1年、ウクライナで目撃した日常「この戦争に勝っても、いがみ合いは続く」

ロシアとウクライナの戦争が続く中、広場に展示されたロシアの走行車両や戦車の間を歩きまわる人々(MUSTAFA CIFTCI/ANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES)

戦争から1年、ウクライナ人は日常生活を夢見るが、頭のどこかで、もう二度と戻らないかもしれないとも感じている。ロシアの侵攻で国は荒廃し、生活は激変。市民たちは勝利を望むも、終わりなき紛争を恐れている。

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雪はここまで音を消すものなのか。ロシアがウクライナに侵攻して2日目、筆者がいたハルキウの街は穏やかに降り積もる雪に包まれていた。ホテルのバルコニーから、くぐもった砲弾の鈍い音が遠くから聞こえてきた。空襲警報がうなる音もかすかに聞こえる程度。しばらくは、ほぼ平穏な状態だった。

1年前のこの日、戦争が始まった。当時と同じように、昨晩キーウにも雪が降り積もった。大粒の雪の結晶がゆっくりと、凍結した歩道の上に落ちていく。1年前と同じ静寂。ハルキウで最初に避難生活を送った時よりも静かだった。空襲警報も、爆撃音もなし。だがこの国は今も戦争のさなかにいる。戒厳令で、11時以降は外出禁止。街の周辺には防空システム。電気や水や暖房がいつ止まってもいいように、誰もが備えている。

これが最近のキーウの日常だ。この1年、ウクライナ各地ではある種の安定が現れ、首都は同じ週にアメリカのジョー・バイデン大統領が危険を冒して極秘訪問できるほど安全だ。そして戦争から1年の節目を迎えた今、ロシアが新たにミサイル攻撃やドローン攻撃を計画し、ウクライナを混乱に陥れ、精神的勝利をあげようとしているとアメリカとウクライナの政府当局は警戒している。午後も遅い時間になってきたが、キーウは今のところ平穏だ。仮にロシアの攻撃があるとしても、まだ形にはなっていない。

調査官がブチャとイルピン郊外でおぞましい処刑と拷問の証拠を発見してから数カ月経った昨年6月上旬、筆者は首都を訪れた。キーウは生活を取り戻し始めたばかりだった。東部では戦争が激化し、ロシアはセヴェロドネツクやリシチャンスクといった都市に大量砲撃を加えていた。それでもバーは営業を再開し、レストランには新鮮な食材が届いていた。近隣や遠方での避難生活から戻ってきた家族連れが、街に姿を見せ始めていた。ハルキウの難民センターに避難していた時に出会ったグラフィックデザイナーのサーシャも、昨年秋にイヴァーノ・フランキーウシクの仮住まいを離れ、キーウに新しく借りたアパートに引っ越してきた。「そう、家を借りたんだ。良ければうちに泊まってもいいよ」と、10月に彼からメッセージを受け取った。「キーウは最高だよ」。

Akiko Kato

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