ウェット・レッグ歴史的快進撃の理由とは? 世界中を魅了した「驚きのデビュー」を総括

 
初来日ツアーで見せた勢い、デビューアルバム大絶賛の理由

こうして数々の栄誉に浴したウェット・レッグは勢いをキープしたまま日本に上陸し、10カ月前にアナウンスされて瞬時にソールドアウトになっていた3公演――14日に大阪、15・17両日は東京――を敢行。このうち15日の公演を観たのだが、アルバムの収録曲をほぼ全曲プレイし、上昇気流に乗るアーティストならではの熱量と満場のオーディエンスの期待感が渦巻くバブルの中をハイなまま突っ走る、グラミー&ブリット両賞のウィニングランみたいな一夜となった。


2023年2月15日、東京・渋谷O-Eastにて(Photo by Kazumichi Kokei)

またどちらのアワードでも、同じくワイト島出身のバンド・メンバー――エリス・デュランド(ベース)、ヘンリー・ホルムズ(ドラムス)、ジョシュア・モバラキ(ギター/キーボード)――を含む5人でトロフィーを受け取っていたように(ヘンリーはグラミー賞で「感謝しなくちゃいけない人が大勢いるけど頭の中が真っ白で、ちびっちゃいそうだからもう無理」と、ジョシュアはブリット・アワードで「保守党くたばれ!」と言い放った、それぞれのスピーチも忘れがたい)、現時点のウェット・レッグはリアン&ヘスター+バッキング・バンドではなく、完全なる5ピースのユニットとして機能していることが、パフォーマンスから、佇まいから、ありありと伺えたことも指摘しておきたい。何しろこのラインナップでこなしたライブの数は、2022年だけで約150本。世界を舞台にしたアドベンチャーを心から楽しんでいる5人の連帯感も、バンドを前へ前へと駆り立てる原動力になっていることは想像に難くないし、すでにヘンリーはドラムで、ジョシュは共作やプロデュースで『Wet Leg』に参加しているが、今後の作品ではより彼らの貢献が増すんじゃないだろうか?


ブリット・アワード授賞式にて、左からエリス・デュランド、リアン・ティーズデイル、ジョシュア・モバラキ、ヘスター・チャンバース、ヘンリー・ホルムズ

少し先走ってしまったが、その『Wet Leg』のほうももう少し詳しく振り返っておこう。主にダン・キャリーがプロダクションを担当した同作の面白さは、ポストパンクにブリットポップ、グランジやガレージパンクが縦横に駆け巡るギター・ポップのシンプリシティ、そして、ライブでもコール&レスポンスでオーディエンスをぐいぐい巻き込んでいたキャッチネスにも、もちろんある。が、それらに勝るとも劣らない魅力を放っているのが、“もう28歳になるってのに相変わらずバカみたいに酔っぱらって”という「I Don’t Wanna Go Out」のフレーズに集約されている、バンドの結成当時にリアンとヘスターが抱いていた焦燥感や憂鬱感を映した歌詞だ。




ほかにも、恋愛の不毛なリアリティを歌う「Being In Love」、退屈なパーティーに飽き飽きしている「Angelica」と「I Don’t Wanna Go Out」、ケータイを眺めて過ごす時間の無駄を嘆く「Oh No」、未練がましい元カレに辛辣な言葉を浴びせる「Ur Mum」や「Wet Dream」で、思い通りにならない人生に溜息を吐き、怒りをぶつける彼女たち。「Too Late Now」でエンディングを迎える頃には、もう無邪気に好きなことをやっていられる歳じゃないのだとリアリティを受け入れてもいるのだが、重要なのは、ドライなユーモアでそんなビターな味を中和し、ラウドなギターで絶望を吹き飛ばすふたりの絶妙なバランス感であり、こうして遅ればせながら成功を手にした今、当分リアリティと向き合わずに済むモラトリアムを手に入れたようなもの。これもまさしく、「驚きの1年」の所以だ。

そう、ジャパン・ツアーを終えてからのウェット・レッグはオーストラリアでハリーと再び合流し、このあと夏にかけてヨーロッパに舞台を移して、夜な夜なのスタジアム公演が控えている。さらなるアドベンチャーを経てサマーソニックで日本に戻って来る時にはどう進化しているのか、楽しみに待ちたい。






ウェット:レッグ
『Wet Leg』 (新装盤)
発売中
国内盤特典:ボーナストラック2曲追加収録
解説・歌詞対訳封入、特典マグネット2種類付属
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13209

SUMMER SONIC 2023
2023年8月19日(土)、20日(日)
千葉 ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ / 大阪 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
公式サイト:https://www.summersonic.com/

 
 
 
 

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