ウェット・レッグ歴史的快進撃の理由とは? 世界中を魅了した「驚きのデビュー」を総括

グラミー賞を獲得したウェット・レッグ

 
全英チャート1位に輝いたデビュー・アルバム『Wet Leg』の発表からもうすぐ1年になるが、ウェット・レッグの勢いはむしろ加速する一方だ。2023年のグラミー賞とブリット・アワードでいずれも2部門を受賞する快挙を達成し、全公演ソールドアウトとなった2月の初来日ツアーを経て、今夏のサマーソニック出演も発表されたばかり。今からでも知っておきたいバンドの歩みを、ライターの新谷洋子に解説してもらった。

「これ、超ウケる! ありがとうございます。私たち、いったいここで何してるんだっけ? よく分からないけど、来ちゃいました。でもこの1年は本当に驚きの1年で、このバンドを始めたこともサプライズだったし、ツアーをしていることもそうだし。素晴らしいクルーの存在抜きには、成し遂げられなかったことです」。

これはさる2月6日に開催されたグラミー賞授賞式にて、シングル「Chaise Longue」で最優秀オルタナティブ・ミュージック・パフォーマンス賞に輝いた際、ウェット・レッグのリアン・ティーズデイルが口にした言葉だ。そこには思いがけない展開への率直な戸惑いが窺えると共に、彼女たちのここまでの歩みも凝縮されているように思う。



全てが始まったのは2019年――あるいは、10代のリアンとヘスター・チャンバース(共にボーカル/ギター)が出会った2010年頃まで遡るべきなのかもしれない。イングランド南岸に浮かぶワイト島のカレッジで一緒に音楽を学んでいた時からの友達だったふたりは、それぞれに音楽活動を行なっていたものの、20代半ばに差し掛かってやや行き詰まりを感じていた。そんな時にヘスターがリアンのソロ・プロジェクトのサポート・プレイヤーを務めたことを機に、2019年に軽い気持ちで新バンドをスタート。翌年のパンデミックに伴うロックダウンも好機と捉えてじっくり曲作りを行ない、早い段階で誕生した曲のひとつ「Chaise Longue」をマニック・ストリート・プリーチャーズの育ての親として知られる敏腕マーティン・ホールが耳にしてすっかり惚れ込み、マネージャーを買って出たのである。



それから間もなくしてDominoと契約し、パンデミックの規制が緩和されると共にライブ活動に本格化に取り組んだふたりは、インヘイラーからチャーチズにシェイム、アイドルズ、フローレンス・アンド・マシーン……となかなか魅力的な面々の前座を務める傍ら、自ら監督したMVを添えて「Chaise Longue」でデビューしたのが、2021年6月のこと。たちまち近年他に例がないバズを醸し、同年末には初の全米ツアーに出かけて、年が明けるとBBCサウンド・オブ2022の2位にランクイン(1位はピンクパンサレス)。4月に発表したアルバム『Wet Leg』は、同じ日に新作をリリースしたジャック・ホワイト(3位)やファーザー・ジョン・ミスティ(2位)をおさえて全英チャートでナンバーワンを獲得しただけでなく、この週の2~5位の作品のセールス合計を上回る枚数を売り上げたという。ワイト島と言えば大型フェスティバルの開催地として世界的に知られてはいるものの、出身アーティストがブレイクを果たすのは、レベル42以来ではないだろうか?

昨年はそのワイト島フェスティバルやグラストンベリーの大舞台にも立ち、イギー・ポップやデイヴ・グロールからオバマ元米大統領(恒例のお気に入り曲のプレイリストに「Angelica」をセレクト)まで著名なファンを獲得。『Wet Leg』がマーキュリー・プライズにノミネートされたりと話題に事欠かなかったが、ご存知の通り今年に入ってふたりの周辺はいっそう騒がしさを増している。

1月末にハリー・スタイルズのオープニング・アクトとしてロサンゼルスで3公演をこなしたのち、冒頭で触れたグラミー賞では、最優秀オルタナティヴ・ミュージック・パフォーマンス賞と最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞も受賞。翌週2月11日にはブリット・アワードが開催され、最優秀新人賞に加えて、The 1975やアークティック・モンキーズも候補に挙がっていたグループ・オブ・ジ・イヤー賞に輝き、英国のフォークダンスをフィーチャーしたシュールなパフォーマンス(クリエイティブ・ディレクター以下オール女性スタッフで作り上げた)も注目を集めたものだ。


 
 
 
 

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