ラトーとフロー・ミリ、互いを認め合うふたりのラッパー

「自分をコントロールする力が大切」(フロー・ミリ)

フロー・ミリ そうね。だって、みんな忙しいのは誰もがわかっているから。スケジュールの調整とかいろんなことがあるけど、この対談が実現できて本当にうれしい。物事には理由があるっていうように、これって奇跡だと思う。
 いつかラトーに訊いてみたいと思っていたんだけど、私がアーティストとしてのキャリアを歩みはじめたころは何もかもが猛スピードで進んでいった。昨日までは大学生だったのに、翌日には夢が叶いはじめたんだから。でも、新人アーティストとして他にもいろいろ経験したと思う。自分の周りの人たちが変わることによる心の傷もそうだし、世間やメディアの評価もそう。こうした問題については、あまり十分に議論されていない気がする。

ラトー それに加えて、どんなときも自分のメンタルヘルスを維持しつづけることも大切。私も若くしてデビューしたから、フローの言うことはよくわかる。私の場合は、自分の居場所がなくなったように思えたの。自分にとっての最善が何であるかを自分以外の人が知っているような気がした。自分より、他人のほうが自分のことをよくわかっていると思っていたの。だから、いろんな人の意見に耳を傾けていた。このテーマについてラップしたほうがいいとか、こういうファッションがいいとか、こういうふうに話したほうがいいとか、こういう歩き方がいいとか、いろんなことをアドバイスされた。でも、ある時点で「このままだと自分自身でいられなくなってしまう」って気づいたの。私は、みんなにありのままの自分を愛してほしかった――誰かがつくった自分ではなくて。
 いまは、ウザいくらい自分のキャリアは自分でコントロールしてる。チームのみんなは「もういい加減にして!」って思っているかもしれない。でも、何もかもが自分流じゃないと気が済まないの。だからある意味、私を操り人形にしようとした当初の計画が裏目に出てしまったのかも。


Photo by Diwang Valdez

フロー・ミリ 私もそう。物事が上手くいかないときは、それ以上悪化させたくないと思ってしまう。自分のキャリアを気にするあまり、ついついそう思ってしまうの。でも結局は、自分にとって何が最善かを判断するのは自分自身。何を心地よいと感じるかは、自分がわかっているから。どの曲がヒットするかも自分でわかる。だって、自分の足でここまで歩んできたんだから。どうして他人にあれこれ言われなければいけないの?って感じ。

ラトー フローにもそういう経験があるの? 私の場合は「この曲で行く」って決めても、他の人たちは首を縦に振ってくれない。この前も同じことがあった。

フロー・ミリ わかる。「私のファンはわかってくれるから大丈夫」って説得しようとしても、なかなか信じてもらえない。この曲をリリースしたら、ファンはこういう反応をするだろうなっていう予感みたいなものは、ラトーだって有名になる前から感じることがあったはず。レーベルと仕事をする場合も、相手が何を望んでいるかは制作段階からわかっている。「こういうことをしたら喜ばれるはず。だから、それをもっと増やしていこう」のように。ファンを信じる気持ちは、そういうものに裏打ちされているの。

ラトー たしかにそう。曲をリリースする前からファンの反応がわかる感覚。曲の一部を公開するときも「ファンのみんなは、この曲のこの部分に夢中になってくれるはず」ってわかるもの。自分のラップを誰よりも理解しているのは自分なんだっていう自覚もある。フローには、びっくりするほど多彩な才能があると思う。私にとってフローは正真正銘のスーパースター。史上最強のビッチになるための資質があると信じている。歌も上手いしね。曲のフロウの変化も大好き。
 そういえば昨日、まつ毛のエクステをやってもらっていたんだけど、同じくフローの大ファンの妹が「フローが(ビッグ・ボス・ヴェット)の「Snatched」のリミックスにフィーチャーされてる!」って言うの。すぐに再生してもらったんだけど、エクステ中だから目が開けられないわけ。だから映像を見ずに音だけ聴いたの。「あの娘、やってくれたわね!」って思った。曲を聴くたびに成長が感じられる。フローはすごく若いし、スター性もある。こんなに若いのに、凄まじい速さで成長している。フローはいつか必ずスーパースターになると信じてるわ。新曲や新しいヴァースもどんどんよくなっているし、自分の声で遊ぶこともできる――自分の声を楽器のように操れる。私も見習わないといけない。

フロー・ミリ そう言ってくれて本当にありがとう。私が子供のころから聴いていたアーティストもそうだった。そういうアーティストを聴き続けたことが私の力になった。最高のアーティストから学びなさいって誰に言われたかは忘れてしまったけど、本当にそのとおりだと思う。胸に刺さったというか、いまも心に刻まれている言葉なの。大切なのは、本当に優れたアーティストから学ぶこと。「あの人は、こんなことも、あんなことも成し遂げた」みたいに、そういう人たちの偉大さの秘訣を分析しないといけない。
 スター性について話してきたけど、私はラトーが大好きだっていうことを伝えたい。何よりもまず、ラトーは本当に美人。これは何よりも大事なこと。私にはスーパースターになるための資質があるって言ってくれたけど、ラトーにもその資質があると思う。

ラトー 自分をスターだと信じるのは、簡単なことじゃない。

フロー・ミリ ほんとそう。でもラトーを見ていると、自分自身を見ているような気がする。私は、自分と似た人に惹かれるの。共感できる人をリスペクトしている。アーティストとしても、私たちの生き方には多くの共通点があると思う。ラトーがラップをはじめたのは、たしか10歳だっけ? 私は11歳だった。同じ人生を歩んでいる気がする。でも、何もかもが目まぐるしいのも事実。だって大急ぎで大人にならないといけないんだから。ふざけている暇はまったくない。ラトーは素晴らしいパフォーマーだと思う。ラトーを見るたび、自分をコントロールしている姿に感心するの。だって自分をコントロールする力って、スーパースターにとって才能以上に大切な資質だから。




『777』
ラトー
Streamcut / RCA Records
配信中


『You Still Here, Ho?』
フロー・ミリ
RCA Records
配信中

from Rolling Stone US

Translated by Shoko Natori

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