ラトーとフロー・ミリ、互いを認め合うふたりのラッパー

左からラトー、フロー・ミリ(Photo by Diwang Valdez)

フロー・ミリは、たった数年前のことをいまもはっきり覚えている。その当時、ファンや音楽評論家をはじめ、音楽界全体が気鋭の若手女性ラッパーであるフロー・ミリとラトーをライバルとみなし、ふたりの敵対関係をあおろうとしたのだ。だが実際には、ふたりはこうして声を大にして互いを称え合っている。

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フロー・ミリが2022年にリリースしたアルバム『You Still Here, Ho?』が大好きなラトーは、アルバムに収録されなかったお気に入りの曲をぜひリリースしてほしいとフロー・ミリにせがむ。その一方でフロー・ミリは、ラトーが昨年リリースした「Big Energy」がヒットする前の「カーリーヘア時代」を懐かしみながら、自分と同世代の若手女性ラッパーが活躍する姿に刺激を受けたと回想する。誰が見てもわかるように、ふたりは深い愛情で結ばれている。

「私たちは最強のビッチ」(ラトー)

フロー・ミリ ラトーと対談ができるなんて、最高にうれしい。私たちが互いを愛し、応援し合っていることをみんなに知ってもらう機会だと思う。だって、私たちにはそうしたパワーが必要だから。まずはお礼から。私のことをいつも応援してくれてありがとう。

ラトー 気づいていると思うけど、私がフローについて言うことはお世辞なんかじゃない。インタビューで「お気に入りの同世代の女性アーティストは?」と訊かれるたびに「フロー・ミリ」って答えているの。フローはとても才能豊かなアーティストだと思う。ラップの世界に新しい何かをもたらしてくれた。まさに山羊座特有のエネルギーって感じ。だって、私たちはふたりとも最強のビッチだから。



フロー・ミリ 私もラトーのことを心から称えたい。ラトーは、本当にすごいことを成し遂げてきた。自分はこんなことを達成したんだって堂々と言える人はとても貴重。12歳くらいのころからラトーを見てきたけど――、

ラトー 12歳から!? やめてよ、なんか一気に歳を取った気分。

フロー・ミリ 本当だって! 子供のころにラップグループを組んでいたんだけど、そのときに親友のインディアって子から「ラトー知ってる? かなりヤバい」って勧められたのがきっかけだった。私の記憶が正しければ、あのころのラトーは、フワフワのカーリーヘアがトレードマークだった。みんなでラトーの動画を観ながら、成長していく姿を見守っていた。若手女性ラッパーがラップ愛を表現して、ラップにすべてを捧げている姿はとても新鮮だった。だって最近のラップは、本物らしさに欠ける気がするから。

ラトー たしかにそう。私は、フローや自分がパフォーマンスを披露することで、ドミノ倒しのように影響が波及していくのが好き。

フロー・ミリ 私たちの仕事は、インスピレーションを与えることだと思う。音楽界が私たちのことを執拗にあおってはライバルに仕立て上げようとした時期のことを覚えているけど、そうした流れに逆らうことで私たちはアーティストとしての力をつけてきた気がする。実際は、「ラトーは私にとって姉のような存在だから、ラトーを応援している自分の姿をみんなに見せつけてやる」って思うわけ。ここまで言ってしまったら、もうライバルとか言う人もいなくなるでしょう?
 でも、これってすごく大切なことだと思う。音楽界で活躍したいと思う若手女性アーティストにとっては特にそう。だって、一人ひとりのバックグラウンドは多種多様だから。BET(註:音楽、ファッション、エンターテインメント、アフリカ系アメリカ人のニュースに特化したオンラインメディア)のインタビューを読んで「ラトーはフロー・ミリのことを応援しているんだ!」ってみんながいつも気づいてくれるわけじゃないしね。時には、互いを認め合っていることを示すのも大切だと思う。

ラトー 心がくじけそうになることは誰にでもあるはず。だからこそ、他の誰か――同世代の人でも、自分よりもっと有名な人でもいいんだけど――からちょっとした応援の言葉をもらえるだけでやる気が湧いてくる。カーディ・Bが自分を褒めてくれたときのことは、いまでも忘れない。

フロー・ミリ そのときは、どんな気分だった?

ラトー 本当に衝撃的だったし、いまでも信じられない。フローが言ったように、私はずっと昔から曲や動画をつくってきたから、そうした努力がやっと報われた気がした。でも、ダイレクトメールで直接コメントが送られてくる経験は、フローにもあるんじゃない? 新しい作品をリリースした直後は特にそうだと思う。そのたびに「あなたが私の曲を聴いてくれたなんて、知らなかった!」ってびっくりする。

フロー・ミリ そのとおり! 私もいつもそんな感じ。そんなときは、アーティストとしての自分の才能を誇りに思える。だってリスナーには見えないけど、制作の裏側ではいろんなことが起きているから。リスナーには、ハッピーな完成形しか見えない。そこにどれだけ多くの努力や血、汗が注がれたかは見えないの。

ラトー そうそう。だから『777』(2022年)というアルバムをリリースしたときは、クリアランス(註:サンプリングなどをする際の原盤権の権利処理)に苦労した。レコーディングまでに曲のヴァースが担当者の手に渡るようにものすごく努力したの。本当はアルバムに入れたかったのに諦めなければいけない曲もあった――そのアーティストとのコラボレーションはとてもクールだったから余計に残念だけど。どうやら、相手側のレーベルがサンプリングの許可取りをしていなかったみたい。そうなってしまうと、どれだけコラボレーション相手と「私たちはレーベルの枠を超えたパーソナルな関係で結ばれてます」みたいな感じになっていてもダメ。こういうくだらないトラブルって本当にどうかしてる。



フロー・ミリ トラブルの原因の十中八九がアーティスト本人じゃないってことには、本当にうんざりさせられる。でも、実際は何が原因かなんて、私たちには絶対にわからない。これについては、また別の機会に話し合わないとね。私もそのせいでいくつかの曲をアルバムに収録できなかったから。

ラトー そうなの? ちょっと詳しく教えてよ! 制作の舞台裏で何が起きていたかを話してほしいな。あまりにドロドロなのはまずいけど。

フロー・ミリ いいわよ。私も、ラトーのようにクリアランスとかいろんなトラブルを経験した。自分が本当に使いたい音源の著作権処理を誰もやってくれないこともあった。あれこれ口出ししてくるわりには、全然進めてくれないというか。

ラトー 口出しね……。

フロー・ミリ 本当にいろんなことを言ってくるの。正直に言うけど、私はまだその曲のリリースを諦めていない。いまもリリースに向けて絶賛奮闘中。

ラトー 場合によっては、誰かが許可を渋っているとか、自分のヴァースを誰かに使用されないようにしているとか、そういう厄介な問題でさえないのよね。レーベル側に問題がある場合もあれば、レーベル側のリリースの都合とかもあるのかもしれない。

Translated by Shoko Natori

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