Tani Yuuki、Ado、BE:FIRST…Spotifyランキングで振り返る2022年の音楽トレンド

 
ボーイズグループの躍進、異なる文化圏の音楽を聴く意味

ー〈国内で最もシェアされた楽曲〉ではBE:FIRST、JO1、INIというボーイズグループ3組が上位10曲を独占しています。

芦澤:2022年のキーワードとして「ファンダム」も挙げられると思います。様々なオーディション番組から新たなグループが輩出され、それぞれが幅広い世代に応援されるアーティストとなった。応援といえば、以前はライブや握手会などフィジカルの交流がメインでしたが、コロナ禍以降はYouTubeも含めたストリーミングへとフィールドが移行していったわけですよね。これはK-POP以降の考え方だと思いますが、例えば再生回数を伸ばしたりチャートの順位を押し上げたりするために、ファンが同じ曲を繰り返し聴いたりシェアしたり、能動的に楽曲を聴くということが顕著に起きた年であり、その動きを代表するのがBE:FIRST、JO1、INIだったのかなと。

柴:ボーイズグループのカルチャー自体が変化したと思います。世代というよりは、構造が変わった一年だったという感じがしますね。BE:FIRSTについて言えば、「ボーイズグループとそのファンダム」という閉鎖的になりがちなカルチャーが、楽曲の力やフェスの出演などによって、ソーシャルで応援する「推しとファンの関係」だけではないところにも開かれてきている気がします。

芦澤:そうですね。人為的ではなく、純粋に応援している結果が今回のランキングにも表れていると思います。




ー先ほども話に出た「Liner Voice+」で、SKY-HIがインタビュアーを務めて、BE:FIRSTのメンバーがアルバム『BE:1』を全曲解説していたのも興味深かったです。ちなみに「Liner Voice+」は、〈国内で最も人気のMusic + Talkコンテンツ〉のランキング1位でした。

芦澤:近年、単曲配信を積み重ねた結果がアルバムとしてリリースされるケースも多く、フィジカルの時代と比べてアルバムのコンセプトが伝わりづらくなっている印象があって。もちろん作品に込めた思いはあるはずですから、アーティスト自身の言葉で伝えるコンテンツをめざして立ち上げた企画です。今年でいうと宇多田ヒカルは、ご本人の言葉で作品を語る機会がレアなこともあって今回ご依頼させていただいたのですが、日本語と英語の両バージョン制作を前提に承諾をいただきました。どちらも多くの方々に聴いていただいています。ご自身の発言のバリューがすごくあるなと感じました。




ー柴さんはEve『廻人』の回でインタビュアーを務めていましたが、「Liner Voice+」にはどんな印象を抱いていますか?

柴:僕はSpotifyのことを、非常にメディア的なプラットフォームだと思っています。つまり、プレイリストやレコメンドなどを通じて同じようなシーンやテイストを発見できる横軸の側面と、それこそ「Liner Voice+」のような、アーティストや楽曲について深く知ることのできる縦軸の側面がある。例えば『すずめの戸締まり』のプレイリストでは、音楽を通じて映画というコンテンツを深く知ることができる。もちろん音楽と音声が一つの軸にはあるんですけど、そこから色々なカルチャーの繋がりを知り、歴史やバックグラウンドの深堀りが楽しめるサービスだと思っています。

芦澤:深掘りといえば、Spotifyのエディター陣が注目の新曲をまとめたニューリリース系プレイリスト「New Music Wednesday」と連動する形で、楽曲の情報やコンテクスト、アーティストが込めた思いをMusic+Talkのボイスコンテンツとして毎週提供しているのですが、こちらも支持を集めてきています。



ー「New Music Wednesday」では海外の注目ナンバーも紹介されていますが、今年のSpotifyグローバルランキングについてはいかがでしょうか?

柴:〈世界で最も再生されたアーティスト〉3年連続1位のバッド・バニーがやはり際立っていますよね。彼のアルバム『Un Verano Sin Ti』は今年を代表する1枚だと思います。それから、ハリー・スタイルズも今年を象徴する人ですよね。




芦澤:「As It Was」は4月のリリース当初から日本も含めて、長期にわたり圧倒的に再生されてきたので1位というのも納得ですよね。かたやバッド・バニーが上位にくるのは、日本にいると身近に感じにくいところかもしれませんが、ストリーミングは言語やカルチャーを超えていくものである、ということが如実に伝わる結果だと思います。日本では洋楽といえば英語の楽曲、アメリカやイギリスがメインのように思われがちですが、ラテン圏の楽曲がこれだけ世界で聴かれていることを改めて実感させられます。


バッド・バニーは〈世界で最も再生されたアルバム〉1位、〈世界で最も再生された楽曲〉4位と5位


ハリー・スタイルズは「As It Was」が〈世界で最も再生された楽曲〉1位、『Harry’s House』が〈世界で最も再生されたアルバム〉2位

柴:そういう意味では、日本のメディアの方が閉鎖的とも言えそうですよね。数年前からのシティポップブームや「死ぬのがいいわ」が国境を超えて広がる現象は取り沙汰される一方で、あまり馴染みのない言語のヒット曲に対してはまだまだ閉じている。あとはバッド・バニーのようにアニメへのリスペクトを公言するアーティストがラテンも含めて世界中にいるのに、日本側がラブコールに気づいていない。そういうのは非常にもったいないですよね。

メディアと音楽業界に対して特に思うのが、日本のカルチャーをどうやって海外に届けるのか、海外からどんなふうに見られているのかはすごく気にしているのに、海外のポップカルチャーの現状についてはあまり情報が行き渡っていない。この偏りについても問題提起しておきたいですね。

芦澤:その話でいうと、個人的には「世界デビュー」という言葉に違和感があるんですよね。昔は海外のレコード会社と契約しない限り、楽曲をグローバルに届けるのは難しかったと思います。でも、今はストリーミングサービスで楽曲を配信している時点で「世界デビュー」しているはずなんですよ。そもそも何をもって「世界デビュー」とするのかが曖昧になってきているなかで、メディアや業界が用いる言葉の定義にもズレが生じてきているように感じます。

柴:2020年、2021年はコロナ禍の影響もあり、カルチャーが内向きになるのは仕方がなかったと思うんです。でも今年は、海外アーティストの来日公演が復活した年でもありました。そんなタイミングだからこそ、日本から外へ行くことばかりではなくて、異なる文化圏、言語圏の音楽に貪欲になっていくーーリスナーというよりはメディアが貪欲になる必要があるのではないかと思っています。


Photo by Mitsuru Nishimura

 
 
 
 

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