Tani Yuuki、Ado、BE:FIRST…Spotifyランキングで振り返る2022年の音楽トレンド

 
藤井 風「死ぬのがいいわ」のバズがもたらすもの

ー芦澤さんのお話にもあったように、例年はアニメ関連曲が席巻してきた〈海外で最も再生された国内アーティストの楽曲〉ですが、今年は藤井 風「死ぬのがいいわ」が1位となりました。

芦澤:これもまた今年を代表する現象の一つだと思います。もともとは7月頃から、タイのTikTokで「死ぬのがいいわ」を使った動画が広まり始め、タイのバイラルチャートで突如1位を記録したんです。そこからインドネシア、フィリピンといった東南アジア圏へと波及し、瞬く間に世界中へと広まっていきました。もともと2年前にリリースされた1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』の収録曲で、シングル曲でもなければアニメ主題歌でもなく、日本語で歌われている曲が世界中でバズを起こしたというのは前代未聞ですし、非常に驚きました。




柴:TikTokでの使われ方を見てみると、最初は日本のポップカルチャーに親しみのあるタイ在住のユーザーが、アニメや実写のキャラクターの「推し活」動画として投稿していたんですよね。しかも、歌詞の意味をきちんと理解したうえで使っている。サウンドやメロディの面白さだけでなく、歌詞がバイラルの発火点になるというのは、日本語の曲では本当になかったことですよね。

芦澤:「死ぬのがいいわ」の投稿動画のなかにはアニメーションを使ったものも多く、最初は日本のポップカルチャー好きのコミュニティで広がったと思うのですが、楽曲の持つ力、アーティストのポテンシャル、才能の素晴らしさによって、その枠を軽々と超えていった。


藤井 風「死ぬのがいいわ」はSpotifyのバイラルチャートの対象74地域すべてでランクインを果たし、23の国と地域で1位を獲得。そのほか、「きらり」が〈国内で最も再生された楽曲〉9位、『LOVE ALL SERVE ALL』が〈国内で最も再生されたアルバム〉で6位にランクイン。

柴:芦澤さんのおっしゃる通りで、バイラルについて言うと、最初に話題のスパイクが起こってからどう燃え広がらせるかという点において、曲の良さとアーティストの実力みたいなものが現象を左右すると思っていて。まさに藤井 風は、誰もが認めるセンスと実力、ミュージシャンシップの持ち主であったため、今回の現象が作用したのかなと。日本の20代のなかでも抜きん出たアーティスト性を持つ人物が、偶然とはいえこういった形で世界に発見されたことによって、これまでとは異なる方法でJ-POPとグローバルポップの架け橋になっている感じがします。

芦澤:昭和っぽいメロディの楽曲なのに、ビート自体は現行のトラップ風。Yaffleのプロデュース力も大きいと思いますが、時空を超えた感じがあるというか。新鮮にもノスタルジックにも感じられる。通常はバズってバイラルした場合、比較的短期間のうちに次の曲へと波が移り変わっていくのですが、「死ぬのがいいわ」は7月に起きたバズが落ちるどころか右肩上がりになっていて、ついには国内アーティストとして初めて月間リスナー数1000万人に到達。まだまだ伸びそうな勢いです。


Spotifyアプリより(写真は2022年12月23日時点)

柴:藤井 風の場合は、バズが起こっても一発屋になるとは誰も思っていませんよね。これからも素晴らしい曲を作り続けるとみんな確信している。実際、10月には「grace」という曲をリリースしていて。ミュージックビデオはインド撮影で、YouTubeを見るとインドの方々が「自分たちの文化をこんなに美しく表現してくれて感謝します」とコメントしている。他の曲でも、そこに込められた意味や、彼のスピリチュアルな側面も含めたメッセージ性が、日本語で歌っているのに国境を超えて伝わっている。

芦澤:ボーダーを超えるということを戦略的に取り組むのではなく、自然体のまま体現しているアーティストだと思います。だからこそ、今回のようなきっかけがあったときに真価が発揮された。どこまで行くのか本当に楽しみです。

 
 
 
 

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