SUGIZOが語る、90年代のUKシーンから受けた影響、「歌うこと」を捨てて手に入れた自由

ジュノ・リアクターを通して学んだこと

―DISC 2に入ると、アンビエント色が強くなってきます。メジャーな部分はXとLUNA SEAに任せてるとは言え、アンビエントに対してのオーディエンスの反応はどうだったんですか?

クラブ側からの反応がすごく良かったんです。クラブミュージック側の取材をたくさん受けるようになったりとか、そういう場所にどんどん出るようになった時期でもありました。ダンスミュージックのシーンはポップフィールドに比べてすごくニッチなので、パイが大きくはないし、ビジネスという意味では大きく様変わりはするんですけど、本当に自分の表現したいものであったし、自分のルーツでもあったので。この時期すごく大きなこととしては、実は一番忙しかったのがジュノ・リアクターで、LUNA SEAよりもXよりも稼働時間はジュノが長かったんです。つまり、世界中のダンスシーンで、武者修行の演奏を超一流のヤツらとやっていたわけです。そこで自分に吸収された音楽的な素養は半端なく大きかったですし、相当磨かれてきました。その傾向がモロに出ているのが特にDISC2です。どんどん作品が生まれて、その度リリースをしていた。あと大きいのが、「MESSIAH」からフィジカルでCDを出すことをやめたんですね。「MESSIAH」以降は完全にデジタルに移行したので、自由度は増えました。



―デジタルのリリースだと録ったらすぐ出せますもんね。

そこからのリリースが途端にスピードアップしたのも、そういう理由からですね。

―そこまで振り切ってくると、LUNA SEAやX JAPANとの両立は難しくはならないんですか? ハレーションは起きないんですか?

意外と両立できたんですよね。当時僕が意識していた存在が、実はピンク・フロイドです。状況やレベルは当然違いますけど、仮にLUNA SEAがピンク・フロイドだとすると、僕のソロはギルモアのソロな感じです。結局ピンク・フロイドが、一連のサイケデリックトランスにものすごく影響を与えているんですよね。あの辺の多くは、ピンク・フロイドの遺伝子なんですよ。その遺伝子が与えられてエレクトロニクス化したものが僕のソロの形態だとすると、その源流である生バンドによるサイケデリックミュージックがピンク・フロイド。ずっと僕のソロってそういうイメージでやってました。あとはキング・クリムゾンの影響も大きかったです。クリムゾンの存在がバンドだとして、ロバート・フリップのソロはアンビエントや電子音楽の方向に行ったり、ブライアン・イーノとやっていたわけです。そういうイメージで自分の立ち位置を解釈するようにしていました。そうすると自分の中で辻褄が合ったんですよね。

―そう言われるとすごくわかりやすいです。一方DISC 3になると、1曲目が「LIFE ON MARS?」なんですが、テーマが宇宙とか地球とかに移行していて、もっと大きな視座に立った曲が続きます。ちなみに、「LIFE ON MARS?」のリリースは06年で、気候変動がクローズアップされる大きなきっかけとなったパリ協定が署名された時と重なります。こうした気候変動問題がきっかけで、地球とか宇宙というテーマを扱うようになったのですか? それとも別の要因があったのですか?

後者ですね。いわゆる気候変動やサステナブルな社会構築に関しては、それまでもずっとやって来ているので、自分にとってそこから大きく何か変わったわけじゃないんです。単純に「LIFE ON MARS?」は、2016年の1月にボウイが亡くなってしまったことが自分にとってはすごく大きくて。数カ月体調を崩したぐらいです。自分の音楽活動にもう一度専念する前に、ボウイに対してのトリビュートをやりたいという、すごく個人的な気持ちで「LIFE ON MARS?」をやったんですね。



―なるほど。

あと、いつも言うんですが、DISC 3でいえば「Lux Aeterna」みたいな曲をシングルで切るなんて狂気の沙汰です。こういう音楽の節操のなさはあらゆる環境に抗わずにやってきたらこうなってしまっただけなんです。あるいは、DISC 3の4曲目の「めぐりあい」以降の4曲はタイアップありきなんですね。



―ガンダムですよね?

はい。ガンダム曲が4曲あります。その後は『ジビエート』というアニメの曲が2曲。なので、これはむしろ自分主導ではなくて、状況によってこういうものを作る必要があったということです。

―元々はビジネス的なところが始まった曲たちもあるわけですが、曲が並んでみると気候変動問題とのリンクを感じ、どこか必然を感じます。

結果的に曲を並べて見ると、おっしゃるように全てが必然に感じますね。シングル30曲を本当に時系列でただ並べただけなんです。

―順番は変えてないんですね?

変えてないんです。だからたまたまなんです。で、最後が「昨日見た夢〜平和の誓い〜2020 」っていうのが自分的にはグッとくるな。最後に「昨日見た夢」がアンコールのようにくっついたおかげで、ずっと恥ずかしすぎて世に出したくなかった初期の歌ものを許せたような気がしています。意外と「昨日見た夢」の存在が大きかったですね。

―「昨日見た夢」の戦争終結を夢見る歌詞は今のウクライナ戦争とリンクします。

実は「昨日見た夢」だけは、厳密に言うと発売したシングルではなくて、2020年の終戦75年の日に、オフィシャルYouTubeで公開したものなんですね。それが最後にふさわしいなと思ったんです。いわゆる、みんなが入手できる状態ではなかった曲ので、これを機にちゃんと音源化しようと思いました。

―ウクライナ戦争の真っ只中で、この曲が正式に音源化されたことはとても大きな意味を持つと思います。

いつも言ってますが、この歌が生まれて70年以上経つんです。ご存じの通り、この歌は、アメリカのフォークシンガー、エド・マッカーディが1950年に発表したプロテストソングで、サイモン&ガーファンクルが1964年のデビューアルバムでカバーしたことでも有名な曲です。で、70年以上経ってもまだこの意味が必要になってしまう世の中って、想像以上に激動の時代になってしまったなって思います。そういう残念な気持ちでいっぱいですね。

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