―1970年代のロンドンの風景が浮かんできました。イギリスの経済が悪くなった時の、パンクスやモッズの人々が起こした行動がすごくリンクしてくる、とにかく勇気が湧いたアルバムでした。いっちゃん的に実際にコロナ禍の影響が出だしたのはいつぐらいですか?
2019年が20周年だったんです。周年終わったタイミングで一旦休んだりする選択肢もあったけど、休まず何ならこのまま乗っていこうってことで、ライヴも予定してて。限定シングルを作って、それを引っ提げてツアーを回ろうとしていて。それを春にやる予定だったんだけど、全部ダメになってしまったんです。その打撃が結構デカかった。実際に影響を感じたのは、2月に中村貴子ちゃんが主催する“貴ちゃんナイト”っていうのに、LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERSとACIDMANの大木(伸夫)が弾き語りで出て、その後2月20日に「LOW IQ 01 DRUMMERS SESSION」っていうドラマーを集めたイベントがあってそれが最後だったと思う。そのライヴは、チケットがソールドしたのに来ない人もいて、その時点で影響出てるなって感じてた。3月はもうライヴができなかったので。
―そこからは予定を変更して、基本的にはステイホームしながら曲作りとギターをしこたま弾くような生活に?
うん。ギターも弾くし、ベースも弾くし。スタジオに入れなかったじゃない? 久々にリハに入ったのが、配信のために……あ、違う。リハ入ってないわ。ぶっつけ本番でそのまま配信をやったんですよ。その時に「でかい音って新鮮!」と思って。それまで耳がおかしくなるぐらいまで音上げてツアーを回っていて当たり前だったのが、4ヶ月経つと耳が新鮮になってるんですよね。その時の音の出方はちょっと衝撃で。バンドっていいなって、こういう音っていいなって思いましたね。今まで感じられなかったことを感じることができましたよね。
―みんな一年ぐらいはまともにライヴができなかったですよね。
ほとんどゼロに近かったよね。
―もともとCDが売れない時代になり、ミュージシャンはライヴで凌いでいたわけで。そのライヴができない状況になった時はどうしてたんですか?
みんな苦肉の策でやりだしたと思うんだけど、配信だよね。配信ってさ、正直、実力が出ちゃうわけだよね。生だと細かいところを直せないし、会場で聴いてもらうと多少の荒さも一緒にのってればそれも良しってなるけど。ファンの人からしても、画面を通してしまうとどこか冷静になって観ちゃうところがあると思うけど、それでも配信って嬉しかったと思うんです。
あとライヴができないと、バンドマンは無職になっちゃうから。だから、配信で仕事をしなきゃいけないっていう。当時いろんなバンドマンと話したけど、やっぱり配信が苦手な人っているわけ。客が見えてこない、気持ちが上がらないって。俺はカメラの向こうで人が見てくれてるって思ったら、スイッチが入るから。配信はいろいろやらせてもらいましたね。
―配信は苦ではなかった?
そうですね。配信のお陰で助けられた。中止になったライヴの分のマイナスを配信で返せたりしましたし。最初は弾き語りだったんだけど、みんな観てくれたし。みんなもちょっと飢えてたんじゃない?
―確かに。
リアルタイムっていうのはデカいですよね。
―しかもあの時って“今日◯〇人感染した”とか、日々刻々と状況が変化する中で暮らしていたから、その日の気分の音楽とか、ドキュメンタリーみたいな感じで音楽に接することに、すごく飢えてたんじゃないかなと思います。
それこそ俺だってアマゾンプライムとかを見るようになったし。テレビを見たら見たで、毎日ネガティブな情報しか流れてないから。目を背けたくなるよね。飲食ばっかり取り上げられて、ミュージシャンは?って思ったもん。ミュージシャンってそういう扱いなんだって。「先生方! 音楽、聴かないでくださいね」!って思ったもん。お偉いさんたちは音楽からパワーをもらったことはないんですか?って。クラシックでもなんでもいいよ。音楽って、エンタテイメントって、そんな扱いなのかなっていう悔しさも実際ありましたけどね。
―そうですね。その一方でこうやって素晴らしいアルバムをリリースしてくれるということが希望にです。ちなみに、一曲目のど頭の悲しげなギターはいっちゃんが弾いてるんですか?
僕です。
―最後の曲「Roll With It」も曲終わりにちょっとギターが残るじゃないですか。あれも?
そうです。
―じゃあこのアルバムで耳に残るギターはいっちゃんが弾いてるんですか?
全部僕です。
―最初の曲「Out in Bloom」のど頭のコードって何ですか?
ドロップD。つまりマイナーから始まってるんだよね。基本はCからの曲なんですけど。
―では最後の曲「Roll With It」の終わりのコードは?
ドロップDです。一曲目の「Out in Bloom」は最後のほうにできた曲なんです。本当は最後の「Roll With It」が一曲目になる予定だったの。ちょっと幕開けっぽい感じでいいなって思っていたら、「Out in Bloom」ができた時に、一曲目はこっちだ!ってなって。じゃあ逆にエンディングで締めようと思って。
―なるほどね。1曲目とラストの曲がすごい繋がってる感じがしたんですよ。
そう。最後の「Roll With It」でまたスタートする!
―だから、コードが一緒なのかな?って思って。
繋がりっぽく感じるよね。実はCとDなので違うんだけど。
自分で言うのもなんですけど、ソロなので、いつも自分の好きなことをやってるじゃないですか。それってバラエティーに富んでっていう言い方もできると思うんだけど。今回の「バラエティーに富んで」は、エモさもあるけど、ちゃんと明るい笑いもありみたいな、そういう感じにできました。とりあえず、曲ができた瞬間にフルカワユタカに送ったら、「名盤誕生ですね」って言ってくれて。ホリエアッちゃんも「大名盤」って。みんな名盤って言ってくれるんですよ。
―その言葉がふさわしいです。
例えばさ、アルバム出した時に、「原点回帰」とかそういう言葉で言われたりすることって多いでしょ。作る側も、「ファーストアルバムの時の気持ちで作りました」みたいなことってよく言うじゃない? 今回はそういう感じではないんですよ。今までになかったもの、違う意味で一つステージが上がった。そういう名盤。だいたいどこのバンドもファーストアルバムって名盤じゃない? 傑作とか、大傑作とか、名盤っていうのは、やっぱりピンチから生まれたことなのかなって思うよ。
―確かに。
あと、今回のアルバムは13曲だけど、ユタカに「今、こんなに曲入れないですよ。だいたい10曲ぐらいですよ。なんなら6曲ぐらいでアルバムって言っちゃう人いますよ」、「そうなの? 昔で言ったらこれ2枚組じゃん」って話をしてて。だから『ロンドン・コーリング』です(笑)。