ゲスの極み乙女、NFTアート販売の真意とは? 川谷絵音ら登壇トークイベントをレポ

 


海外からも反響、「Maru」が問いかけた音楽とNFTの関係性

ここからトークのテーマは今回のプロジェクトのために作られた楽曲「Gut Feeling」の話へ。

川谷:最近の邦楽はどんどんガラパゴス化して、転調や構造の複雑さに美徳を感じる音楽が増えていて。ゲスも初期からジャズやプログレとかを混ぜて複雑な曲を作っていたんですけど、今回は(NFTプロジェクトを通じて)世界中の人に聴いてもらいたい気持ちがあったので、シンプルに作ろうと思いました。あと、ステムに分けるっていうことだったので(川谷、休日課長、ほな・いこか、ちゃんMARIの4つのパートに分かれている)、音数が多いと誰が何をやってるかわからなくなるから、音数を減らすことも意識しました。ゲスにとってはかなり異色な曲になりましたね。そのあたりは、岩瀬さんに僕らの曲「ドーパミン」で海外のチームがめっちゃ踊ってる映像を見せてもらったのもすごく大きくて。海外と日本だと音楽の聴き方が違って、日本人は歌を聴くけど、海外はリズムで聴いてる。そこにヒントがあったりもしました。

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ここで岩瀬から「今までは音楽を作ったらできるだけたくさんの人に聴いてもらいたいっていうのが基本の考え方だったと思うんですけど、今回は少なくとも当面の間はNFTでしか聴けない。せっかく作った曲なのに、一部の人しか聴けないっていうのは、作られる方としてはどういう感覚なんですか?」という質問が。

川谷:僕もまだよくわかってない部分はあるんですけど、全部の曲を全員に聴いてもらいたいとは思ってないのかもしれないです。今はサブスクで配信したら誰でも聴けるわけですけど、「僕らのあの曲が好きな人はたぶんこの曲を好きじゃないだろうけど、こういう人たちにも聴いてほしいからこの曲を作った」みたいなことも結構あるので、今回みたいに最初から対象を狭めて考えるっていうのも、可能性としてはありなのかもしれないと思いました。

その後に増井が、スヌープ・ドッグやザ・ウィークエンドなどによる海外の音楽NFTの事例を紹介。そこからトークは、今回のメインテーマである「NFTか? リアルか?」へと移っていく。

川谷:CDからサブスクと言いつつ、その一方ではカセットテープやアナログの売り上げが伸びてたりもするし、写真も「やっぱりフィルムがいい」ってなったり、時代は回ってると思うんですよね。人間には所有欲があって、フィギュアを集めるのもそうだし、僕もアナログをたくさん持ってて、かさばりはするけど、モノとして持っておきたい。それは僕が古い人間だからで、これからの時代はもう「NFTで持ってればいいよ、アナログなんて邪魔じゃん」ってなってるかもしれないけど、やっぱり時代は繰り返すから、NFTとアナログっていう一見矛盾したものが同時に伸びたりもするだろうし、そのときの気分によってどっちがいいかも変わったりするはずで。なので、NFTをバーンしたらアナログがもらえるっていうのは、その矛盾を突く面白いアイデアだなって。僕からするとこれでNFTを持っておきたいと思う人はめっちゃ新人類な気がするんですけど、だからこそ興味があったっていうのもありますね。


「Maru」公式ホームページより

増井によると、今回NFTをバーンしてアナログに変えたのは購入者全体の3割ほどだったという。個人的には「思ったより少ない」と感じたが、その裏側を岩瀬が説明してくれた。

岩瀬:私もそうなんですけど、「Maru」のNFTを2個以上持ってらっしゃる方もいて。いいとこ取りというか、1個はNFTのまま持っていて、1個はアナログにするっていう方もいたんじゃないかと思います。Discordでみなさんの意見を聞いてると、「そんなの選べない! ひどい!」っていう意見もないわけではなかったですけど、無料で全員にプレゼントだと面白くないというか(笑)。今回はすごく興味深い試みになったんじゃないかと思います。

ここで増井から岩瀬に「NFTを一般に普及させるうえで、目の前にあるハードルは?」という質問が。

岩瀬:みなさんサブスクにお金を払うことには慣れてきたけど、デジタルなものを買う・所有するという感覚はまだ持っていないので、その感覚がもっと一般的になる必要があります。サブスクは圧倒的な価値やメリットがあったから普及したわけで、リアルともサブスクとも違う、「NFTでしかできない」というものをもっと工夫して作っていけば、そこの常識が変わる転換点もやってくるのかなって。大事なのは認知と習慣で、今回のプロジェクトも一通り全部理解したら、ファンの方にとってすごく豊かな経験になると思うんです。それこそ今回も、川谷さんを交えてリスニングパーティーをやったり(8月に開催)、今はNFTを買ったみなさんに参加してもらいながら「Gut Feeling」のミュージックビデオを製作したりもしている。NFTはまだ難しい印象をもたれていて、何をやってるかわからない人も多かったと思うんですけど、そこをきちんと伝えていくことが大事だと思います。



増井から今回のプロジェクトがワーナーミュージックのアジア/インターナショナルのトップから評価されていることが告げられるも、川谷は「まだ実感がない」と話し、今後のNFTの展開についても、「また違う形でやれたら面白いとは思う」と冷静な返答。ここに川谷絵音という人のミュージシャンシップが垣間見えると同時に、本来的なイノベーションの種を感じる。

川谷:僕は自分が面白いと思ったらやるっていうだけで、(今回のプロジェクトも)あんまりビジネスとして捉えてない部分もあるし、そういうのは他の人にお任せしてるというか。バームクーヘンも、ベストアルバムを一曲にしたのも面白いと思ったからやっただけで、「何かを率いていこう」みたいな気持ちはないんです。ビジネスやテクノロジーの専門家でもないから、専門の人に「これをやったら面白い」と言われて、僕自身もそう思ったらやるくらいの感じなんですよね。ビジネスの話をする人のなかには、音楽を軽視して、ガワの話だけをする人もいるけど、僕は普通にいい曲を作りたいだけなので、そこを度外視するのはおかしな話で。NFTについては僕自身未だにわかってない部分も多いし、今回のプロジェクトもまだ途中なので、いろいろ理解した上で、またいいアイデアが出てきたらやりたいと思います。

最後に、実際にNFTを購入した参加者からの質疑応答が行われると、「ゲスの極み乙女のファンがそれほど盛り上がってない印象を受ける」「いくつ売れたら成功だと考えているのか?」といった率直な感想や質問が挙がる。すると増井から、今回のプロジェクトは国内のファンだけではなく、「人種・国境関係なく、川谷さんの音楽がどこまでリーチできるのか」というアプローチでもあり、知見を得るためにあえて多めの個数(1,203点、川谷の誕生日=12月3日に由来)を販売した結果、購入者全体の3割が北米からという結果が出たことが語られて、約1時間のトークセッションが終了した。

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