レナード・コーエン「ハレルヤ」はなぜ名曲に? ラリー・クラインが語る吟遊詩人の普遍性

 

ラリー・クライン(Photo by Alan Shaffer)

不安な時代だからこそ求められている「祈り」

―「もしもあなたが望むなら」(If It Be Your Will)は、オリジナルではコーエンとジェニファー・ウォーンズとのデュエットで歌っていた名曲の一つですが、メイヴィス・ステイプルズも、まるで彼女自身の言葉をつづっているかのような歌声で、聴く者の心を揺さぶります。これは正しく、現代がいま必要としている祈りのように聞こえてきます。

クライン:そうだね、彼女の歌も、ぼくは大好きでね。彼女なら何も言わなくても、自分の曲であるかのように、曲を理解してくれると思った。何の説明も必要としない、彼女自身の曲にしてくれるとね。実際に、見事に歌ってくれた。まさに、しっくり来る、という感じだ」。




―あなたがこのアルバムを通じて、コーエンの作品を通じていま我々に伝えたかったものは何だったんでしょうか、そして完成されたもので伝えられたと思いますか。

クライン:うん、伝わったと、そうであって欲しいと願っているよ。ソングライターの曲や作品をカバーする場合、それを行う上での唯一の意義は、人々がそれをそれまでとは違う方法で、もう一度聴聴くことができるようにすることだと思う。改めて曲を聴き直したり、歌詞が違って聴こえたり、前とは違う部分に心を打たれたり。それとね、人って、曲をアルバム単位で記憶しているものだ。アルバムがその時代の中でどういう意義を持っていたか、その部分から見てしまう。だから、同じ曲を別の形で、新しい文脈の中に置きかえて聴いてみると、全く新しい意味や、より深い意味に気付かされることもある。というか、そうであって欲しいというのが、今回ぼくが目指したことだ。今回に限らず、どんなトリビュートでも、そしてアーティストと名曲をカバーするときも、考えるのはその点だ。もしかしたらリスナーが忘れてしまっていることを思い出させることができたなら、という思いさ。

―コーエンがオリジナルの形で曲を発表したときに表現しようとしたこと以上に、ひょっとすると、このアルバムが現代にもたらす意味というか、価値は大きいかもしれない。そんな気がしませんか。

クライン:それはとても嬉しいね。そう汲んでくれてありがたいよ。そうあるべきだと思うからね。例えば、このアルバムは、ビル・フリゼールの「電線の鳥」(Bird on The Wire)というインストゥルメンタル・ナンバーで終わるんだけど、そもそもあの曲は讃美歌、もしくは祈りのようだと常々思ってきたんだ。それで、アルバムを祈りのような曲で閉められたら、と思っていたから、敢えてインストゥルメンタルにしたんだが、ビル・フリゼールはそれを見事にやってのけてくれたよ。

―あのインストゥルメンタルでの終わり方に、あなたのこのアルバムへの創意と勇気を感じました。確かに、いま、世界をみまわしても、各国々の国内をみまわしても、もっと身近な周囲をみまわしても、あまり良いとは言えない時代ですからね。

クライン:同感だね。世界で起きていること、それに伴ってぼくらの中で起きていることを表現する上で、音楽がいまほど必要とされている時代はないと思うよ。







『ヒア・イット・イズ:トリビュート・トゥ・レナード・コーエン』
Here It Is: A Tribute To Leonard Cohen
発売中
日本盤SHM-CD 税込価格:¥2,860
再生・購入:https://lnk.to/HereItIs_ATributetoLeonardCohenPR

収録曲
01. Steer Your Way / スティア・ユア・ウェイ- ft.ノラ・ジョーンズ (2016年『ユー・ウォント・イット・ダーカー』収録)
02. Here It Is / ヒア・イット・イズ – ft.ピーター・ガブリエル (2001年『テン・ニュー・ソングス』収録)
03. Suzanne / スザンヌ- ft.グレゴリー・ポーター (1967年『レナード・コーエンの唄』収録)
04. Hallelujah / ハレルヤ- ft.サラ・マクラクラン (1984年『哀しみのダンス』収録)
05. Avalanche / 雪崩- ft.イマニュエル・ウィルキンス (1971年『愛と憎しみの歌』収録)
06. Hey, That’s No Way to Say Goodbye / そんなふうにさよならを言ってはいけない – ft.ルシアーナ・ソウザ
(1967年『レナード・コーエンの唄』収録)
07. Coming Back to You / あなたの胸に- ft.ジェイムス・テイラー (1984年『哀しみのダンス』収録)
08. You Want It Darker / ユー・ウォント・イット・ダーカー – ft.イギー・ポップ (2016年『ユー・ウォント・イット・ダーカー』収録)
09. If It Be Your Will / もしもあなたが望むなら- ft.メイヴィス・ステイプルズ (1984年『哀しみのダンス』収録)
10. Seems So Long Ago, Nancy / ナンシー – ft.デヴィッド・グレイ (1968年『ひとり、部屋に歌う』収録)
11. Famous Blue Raincoat / フェイマス・ブルー・レインコート -ft.ナサニエル・レイトリフ (1971年『愛と憎しみの歌』収録)
12. Bird on The Wire / 電線の鳥- ft.ビル・フリゼール (1968年『ひとり、部屋に歌う』収録)

 
 
 
 

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