ザ・ビートルズ『リボルバー』が生まれ変わる スペシャル・エディションの全貌を徹底解説

アビイ・ロード・スタジオで楽曲「Paperback Writer」と「Rain」のMV撮影に臨むビートルズ、1966年5月19日撮影 (C) APPLE CORPS LTD.

 
ザ・ビートルズ(The Beatles)が1966年に発表した名盤『リボルバー』(Revolver)が、数々の未発表音源を加えたスペシャル・エディションとして10月28日にリリースされる。そのリリースに先駆けて、気になる中身をここで紹介しよう。

1966年の夏、ザ・ビートルズの『リボルバー』がリリースされた。時代の先をゆく作品で、今なお私たちは追い付けていない。マッシュルームカットの青年たちは、かつてのイメージを完全に脱ぎ捨てて、超高速で変異しようとしていた。ポール・マッカートニーは、アバンギャルドのアートと音楽を追求し、ジョン・レノンは『The Tibetan Book of the Dead』を愛読している。ジョージ・ハリスンはインドの弦楽器シタールの弾き方を学び、インドの神秘主義にのめり込んだ。リンゴ・スターはといえば、自宅の地下にパブを作った。世界中、そして彼ら自身にも衝撃を与える最高傑作を世に出す準備は万端だった。『リボルバー』は事あるごとに、ビートルズだけでなく全てのアーティストの作品までを含めて、史上最高のアルバムと評されている。

ただし作品の本当の姿は、まだ誰も耳にしていない。2022年、これまで私たちが聴いていたものとは全く異なる『リボルバー』が登場する。ビートルズが「ホーム」としていたロンドンの伝説的なアビイ・ロード・スタジオで、ローリングストーン誌は新生『リボルバー』の1曲1曲を、夏の数日間をかけて独占的に堪能した。ビートルズの魔法を実現したジョージ・マーティンの息子で、同じくプロデューサーのジャイルズ・マーティンが、当時のセッションの未発表アウトテイクや、最高に実験的なアルバムの新たなミックス・バージョンを聴かせてくれた。



サイケデリア、室内楽、インド音楽のラーガ(旋律)、メンフィス・ソウルを取り込み、自分たちを真っ白な状態にしてゼロから作り上げた作品だ。ジャイルズ・マーティン曰く、『リボルバー』は1曲聴くごとに「これぞビートルズが目指したかった方向だ」というのが見えた気になるという。「ところが毎回、こちらの理解が打ち砕かれてしまう。ビートルズは全員が同じゾーンにいて、新たな段階へと進んでいる。一方で4人にはそれぞれの個性があり、さまざまなスタイルで同じ波に乗ろうとしている。その集大成が、『リボルバー』だ。“お前は何を持ってきた? どんな感じか聴かせてみろよ。俺の方がもっと上を行けるぜ”という会話が聞こえてきそうだ」

『リボルバー』には新鮮なサプライズが詰まっている。例えば「Yellow Submarine」が、元々は最もエモーショナルな楽曲だったとは、誰も想像しないだろう。誰もが、リンゴ・スターに歌わせるために書いた子ども向けの曲だと思っているに違いない。しかしジョン・レノンの自宅で録ったデモは、プラスティック・オノ・バンド的な、哀愁漂うアコースティックのバラードだった。ジョンが奏でる寂しげなメロディーから、世界の子どもたちが好んで口ずさむリンゴのヒット曲へと書き換えられたのだ。『リボルバー』というアルバムの特徴が、ここに集約されている。ほんのわずかな曲のアイディアに数々の進化を加え、最終的に完璧なまでの曲として仕上げられるのは、ビートルズしかいない。


『リボルバー』スペシャル・エディション(5CDスーパー・デラックス)

『リボルバー』のスペシャル・エディションは10月28日にリリースされる。ここ数年、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(2017年)、『ザ・ビートルズ(White Album)』(2018年)、『アビイ・ロード』(2019年)、『レット・イット・ビー』にドキュメンタリー作品『ザ・ビートルズ:Get Back』(2021年)と、ビートルズを再認識させるデラックス・エディションが次々とリリースされている。そして『リボルバー』から、「Taxman」のステレオ&ドルビー・アトモス・ミックス・バージョンが9月7日に先行配信された。ピーター・ジャクソンのチームが『Get Back』向けに開発した「デミックス」音響テクノロジーを利用した、迫力あるサウンドに仕上がっている。



『リボルバー』のスペシャル・エディションには、オリジナル・アルバムのステレオ/モノ、ドルビー・アトモスの各バージョンに、セッションのアウトテイクを加えた全63曲が、CD5枚とLP4枚に収録される。さらに、『リボルバー』と同時期にリリースされたシングル「Paperback Writer / Rain」の別バージョンを両面にそれぞれ収録した7インチEPも付属する。また、100ページのハードカバー・ブックも付き、写真の他に、マッカートニー(“全体的に見て、悪くないアルバムだ”)、ジャイルズ・マーティン、ジャケット・デザインを担当したクラウス・フォアマン、ヒップホップのレジェンドであるクエストラヴ、ビートルズ研究家のケヴィン・ハウレットによるエッセイが盛り込まれている。一方のスタンダード・エディションは、オリジナルの14曲入りアルバムをCD/LP/デジタルの各バージョンで提供される。

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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