ザ・ビートルズ『リボルバー』が生まれ変わる スペシャル・エディションの全貌を徹底解説

 
「デミックス」の驚異的サウンド、アートワーク制作秘話

ジャイルズ・マーティンとサム・オケルによる新たなミックスは、「デミックス」テクノロジーのおかげで、過去のデラックス・エディションに勝る完成度となった。同テクノロジーは、ピーター・ジャクソンのウィングナット・フィルムズ・プロダクション所属のエミール・デ・ラ・レイ率いる音響チームによって開発された。元々は映画『Get Back』のために開発された技術で、オリジナルのフィルム映像に収録された不明瞭な音声から、メンバーそれぞれの声を分離させることができた。騒々しいカフェテリアで、ジョンとポールが、ジョージについて感情的に話し合うシーンを覚えているだろうか? 植木鉢に仕込まれたマイクで録音された音声からでも、2人の声がはっきりと聞き取れる。リンゴ・スターのドラムキットにも、同じ技術を採用した。驚くべきサウンドだ。

マーティンが解説する。「ピーター・ジャクソンのチームが実現した音に匹敵するものは、今までになかった。もったいないことに門外不出の技術だ。そのうち他人にも使わせるかもしれない。でもピーターはビートルズの大ファンだから、喜んで手を貸してくれた。ビートルズが今なお最先端テクノロジーを使っているというのは、ある意味画期的で嬉しいことだ。(ピーターの技術を)例えて言うなら、もらったケーキを持ち帰り、ケーキミックスの痕跡を全く残さない状態で、小麦粉、卵、砂糖といった元の材料の形に戻して、1時間後に戻ってくるようなものだ」

例えば「Taxman」は、ドラム、ベース、リズムギターを全て1トラックにレコーディングしたことで知られている。デミックス・テクノロジーのおかげで、リンゴのバスドラム、タム、ハイハットなど一つ一つを、別のトラックに分離できるようになった。もちろん、何かを加えたり改ざんしたりする訳ではない。しかし、4人のスタジオでの演奏や歌が、より細かく明瞭に聴こえるようになった。「For No One」のアコースティックギターから「Here, There, and Everywhere」の指を鳴らす音まで、ミックスの過程で埋もれてしまった音が、鮮やかによみがえる。


「Taxman」と「And Your Bird Can Sing」のオリジナル・テープが収められていた箱のラベル(© CALDERSTONE PRODUCTIONS LTD)

同梱のブックに掲載された、クエストラヴによるエッセイも素晴らしい。彼はファンク、ラップ、ソウルといったアフリカン・アメリカン音楽に使われるコール・アンド・レスポンスの中に、ビートルズを見出した。初めてビートルズのアルバムを聴いた時、スペシャル・エドやア・トライブ・コールド・クエストがサンプリングしていたビートに気付いた彼は、ビートルズとヒップポップの魅力的なつながりにのめり込んで行った。「Taxman」の全体的に流れるメッセージは「Fuck the Police」(N.W.A.)に通じるものがある、とクエストラヴは言う。



ビートルズのクリエイティブな精神は、『リボルバー』の細部に至るまで発揮されている。ジャケットのデザインは、バンドのハンブルク時代からの旧友クラウス・フォアマンが担当した。今回のアルバム同梱のブックには、彼のグラフィック・ノベル『birth of an icon: REVOLVER』の一部が引用されている。「彼らからは、具体的な指示が何もなかった」とミュンヘンにいるフォアマンが、ローリングストーン誌からの電話インタビューに答えてくれた。バンドからは、「クラウス、スタジオへ来て音楽を聴いて、思い付いたままを形にしてくれ」と依頼されたという。当然ながら、彼は戸惑った。「『ラバー・ソウル』は本当にすごいアルバムだった。ジャケットの写真も好きだった。でも“Tomorrow Never Knows”の、シンバルの音や速度を上げたトラックやバッキング・ギター、それに鳥の羽ばたくようなサウンドに、本当に引き込まれた。圧倒されてしまい、“いったいどんなジャケットにしたらいいんだ?”と考え込んだ。全く未知の世界へと、大きく一歩踏み出すしかなかった」

しかしフォアマンのジャケットは、見事に期待に応えた。彼はメンバーに「家のタンスの中にしまってある写真を持ってきてくれ。写りが良かろうが悪かろうが構わない。どんな写真でもOKだ」と頼んだ。フォアマンはまず、メンバーそれぞれの顔をスケッチしたイメージを配置した。さらに、ジョージの髪の間から覗くジョンの姿や、中世の騎士の格好をしたジョンが自分の耳の上に座る姿などを、細かく描き込んだ。特にフォアマン自身は、ジョンの顔のデザインが気に入っている。「ジョンのアーモンド型の目がいい。それから鼻の形も印象的で、目を引く。彼の鼻はとにかく素晴らしいんだ!」

新たにリリースされるアルバム『リボルバー』スペシャル・エディションから、8つの印象的なシーンを紹介しよう。

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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