ザ・ビートルズ『リボルバー』が生まれ変わる スペシャル・エディションの全貌を徹底解説

 
『リボルバー』に見る、ビートルズの自信と成長

4人は気付いていなかっただろうが、『リボルバー』には、ビートルズの自信がみなぎっている。また、彼らのライバル意識も絶頂にあった。1996年6月、まだ新曲「Tomorrow Never Knows」が世に出る前にポールは、NME誌のインタビューで、「僕としては(I, for one)、“どこかで聴いたことのある曲だ”と言われることにうんざりしていた。だから俺たちは、今回のアルバムを作ったのさ」と語った(“僕としては”という表現にポールらしさが出ている)。4人の友情は、不思議なほどに深まっていた。彼らに特有の波長があり、周囲の人々が入り込めないほどだった。しかし彼らの実験的なチャレンジ精神は、周囲にも伝わっていた。当時18歳だったエンジニアのジェフ・エメリックは、リンゴのバスドラムにセーターを詰め込んでサウンドを変えた。またプロデューサーのジョージ・マーティンは、今日は「Taxman」、明日は「Eleanor Rigby」、またこの日は「Love You To」というように、スタジオでのレコーディング・スケジュールを1日単位で設定した。

『リボルバー』の音楽全般において、4人の成長が見られる。ジャイルズ・マーティンは言う。「ポールと一緒にアルバムの曲をチェックしている時に、彼が“4人の個性がコラボした作品だ”と言った。ビートルマニアも驚きだ。かつてザ・クラッシュの連中は、“にわかビートルマニアは卒倒した”と表現した。『リボルバー』におけるビートルズは、もはや4頭の獣ではない。それぞれが異なるスタイルを持ちながらも、彼らが何をしようがビートルズはビートルズだった。ビートルズ以外の世界など、考えもしなかった。彼らの中に女性がいなくても、まるで4人は恋人同士のように親密だった。一緒にベッドに入り、ずっとそのまま眠っていたいと願っている。ツアーを終えた彼らは、素晴らしいレコードを作ることに専念したいと考えていた」


アビイ・ロード・スタジオで『リボルバー』をレコーディング中のザ・ビートルズ、1966年撮影(© APPLE CORPS LTD.)

マーティンは、映画『Get Back』の時期から4人のムードが急激に変わったと考えている。「『Get Back』を仕上げた後で、『リボルバー』のアウトテイクを聴いた。“本当に楽しい”と思った。『Get Back』でのビートルズは、懸命に新鮮な空気を求めてもがいている。一方で『リボルバー』の彼らは完全に自然体で、意欲も全く途切れることがない。崩壊後のビジョンなど全く見えない。喧嘩別れして再び仲直りするのは、まだ先の話で、まだ誰もバンドを去っていない時期だった」

アウトテイクでは、曲のタイトルが浮かばずにいつまでも考え込んでいるジョージ・ハリスンについて、他のメンバーが言い争う様子が聴ける。「それでも、この時の言い争いはフレンドリーだった。数年後の口論とは違った」とマーティンは言う。「りんご(Apple)はまだ、腐っていなかった」

また、ビートルズがツアーの日々に終止符を打った時期でもあった。「ツアーのフラストレーションが、どれほど『リボルバー』に反映されていると思う?」とマーティンは問いかける。「彼らは熱狂するビートルマニアから逃れ、“できるだけ遠くにある別の世界を探しに行こう”と言って、スタジオに籠もった。だからジョンは、“Tomorrow Never Knows”を山頂で歌いたい、などと言い出したのさ。ステージからできるだけ離れた遠い場所に行きたかったんだろうね」

4人はやっつけ仕事のコンサートにうんざりしていた。ステージ上では、自分たちの新しい音楽を探求する余地などなかった。1966年夏に行った彼らの最後となる米国ツアーは、混乱と抗議活動に苦しめられた(メンフィスのコンサート会場周辺で行われたクー・クラックス・クランによる集会には、8000人が集まった)。一連の出来事が、メンバーをアビイ・ロード・スタジオへと向かわせるきっかけになった、とマーティンは考えている。「スタジオこそが彼らの避難場所だった」と彼は言う。「ビートルマニアのテンションがますます過激になり、1966年に起きたあらゆる事件のせいだったと思う。彼らはいわば、炭酸飲料(pop)のボトルに入ったポップ・バンドだ。彼らは、外部の世界によって振り回された。炭酸が泡立って、キャップが吹き飛びそうな状態だ。外の世界はカオスだった。彼らには逃げ場が必要だった。ここ(アビイ・ロード・スタジオ)の外側は、彼らにとって脅威になっていたのだと思う。スタジオこそが、彼らがゆっくり過ごせる聖域だったのだ。彼らは『サージェント・ペパーズ』には、『リボルバー』の2倍の時間をかけてレコーディングした」

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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