The 1975のマシュー・ヒーリーが見つけた「希望」 アートの可能性とバンドの未来を語る

彼は2020年にTwitterのアカウントを閉鎖した理由について、文化戦争についての見解を示すことはあっても、それに加担する気はなかったからだとしている(「僕は政治的な何かの代弁者になる気はないんだ」)。YouTubeとオンライン学習は今でも頻繁に利用しているものの、スマートフォンとソーシャルメディアは基本的に厄介で面倒なものだと捉えている。屋外の日本庭園にふと目をやった時にマシューが口にした言葉からは、彼の本音が垣間見えた。「ここにはオオガラスがやってくるんだ。その足にメッセージをくくりつけて、相手のところまで届けられたらいいのにな」

マシューのようなアーティストは度々キャンセルカルチャーの標的になるが、たとえ限定的であったとしても、炎上の影響を正確に把握することは難しい(Twitterを去っても、彼が世界一有名なカルトバンドのフロントマンであり、今年最大級の話題作の共同クリエイターであるという事実は変わらない)。目に見える形でキャリアに影響を及ぼすことはなくとも、些細な諍いの積み重ねはストレスと不安を増大させていく。プチ炎上の回数ではトップクラスであろう彼は現在、ネット上で見せしめにされた若いミュージシャンたちの後見人のような存在となっている。「彼らにとって、僕は文字通りのビッグ・ブラザーなんだ。(ジョージ・)オーウェルの小説に出てくるやつじゃなくてね」と彼は話す。「キャンセルされた誰かにとって、僕のスマホは駆け込み寺のようなもんなんだよ」。『Being Funny〜』にはキャンセルカルチャーに関するトピックが見られるが、そのいくつかは非意図的なものであり、マシューは後になって気付いたという。「キャンセルされることについてのラインが3つあると思うんだけど、今頃になって『クソ、キャンセルなんて別にどうだっていいのに』って歯痒く思ってるんだ。悩んでるように思われそうだけど、あれは単に笑えるからなんだよ」と彼は話す。


Matty wears blazer by Louis Vuitton, vintage jumper by Helmut Lang, vintage shirt by Prada and vintage tie, Matty’s own (Photo by Samuel Bradley / Styling by Patricia Villirillo)

大きな権力を持つ人々による露骨なモラル違反でさえ見過ごされがちな今、有名人によるそれはますます軽視されがちだ。オンラインの世界には悪者が必要だとマシューが考えるのは、我々はみなオーディエンスの前で繰り広げられるドラマの主役であり、主役はほぼ常に正義の味方だからだ。

「去年悪事を働いたやつを1人挙げろって言われても、僕はたぶん答えることができない。みんな気にも留めていないんだから」とマシューは話す。「それがどんなに酷いモラル違反であっても、みんな本当にどうだっていいんだよ。僕たちはみんな、自分なりの正義を演じることにしか興味がないんだ」。彼が例として挙げたのは、新曲で使われていたフレーズが身体障害者差別にあたるとして批判され、対応を迫られたリゾのケースだ。「『Babe, you OK?』(普段と様子が異なる状況をネタにするミーム)を思い出すよ。普段は無関心な世間が、あの一件に限って深刻に問題視するはずがないんだ。あり得ない。一般的な人々がそういうことを気にかけるだけの器を備えてるなんて、正直考えられないよ」。筆者は「Babe, you OK?」のミームの喩えに共感し笑ったが、彼の発言は悪意あるユーザーによって文脈から切り離して取り上げられるかもしれない。それでも、彼はおそらく正しいのだろう。

人々が本当に気にかけているもの、それは愛だとマシューは主張する。それは各自の人生に不可欠な存在であり、そういった相手との交流から生まれる感情の起伏であり、毎晩自分の帰りを待ってくれている大切な誰かなのだと。

Translated by Masaaki Yoshida

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