痛みを通して共感が生まれる「エモラップ」、人気の理由 米

エモラップの闇、オピオイド使用の神格化

2019年にガーディアン紙とのインタビューに応じたジュース・ワールドは、エモラップで表現される苦悶がどこから来るのか、という質問にこう答えた。「誰もが痛みを抱えている。憂い、依存、心痛。これらはすべて人間の特性だ」。 2019年の研究によれば、Z世代やミレニアル世代は一般的に、前の世代よりもずっと不安を感じているという。「アメリカ社会の将来に対する絶望や先行き不透明感、とくにパンデミックでは孤立や孤独も広がっています。そうした多くのことから、かつてない全く新しい形でエモラップや悲哀が出てきたのです」とステイプル監督。

だがファンや批評家は、エモラップの影響について全く異なる見方をしている。

リル・ピープやジュース・ワールドといった有名ラッパーがドラッグの過剰摂取で死亡したのを受け、エモラップには薬物使用の背景があると批判する声もある。中には、エモラップが破滅的な習慣や自殺願望を煽っていると考える人もいる。ニューヨーク州警察と麻薬取締局(DEA)が2018年に合同捜査を行った際も、エモラップの歌詞がフェンタニールやザナックスを「美化」し、オピオイド中毒の蔓延に直接影響を及ぼしているとの非難が持ち上がった。「今回の捜査では、エモラップの闇やオピオイド使用の神格化に踏み込んだ」と、DEAのジェームズ・J・ハント主任特別捜査官も発言している。



エモラップと10代の薬物使用増加との関係性については議論の余地がある。だがファンが口を揃えて言うのは、痛みを通じて人々に共感を生むエモラップの力だ。たとえそれが、楽曲の流れている間だけだとしても。

「今の若者は不安の度合いや鬱病、ソーシャルメディアへの依存が急増している世界で育っています」とステイプル監督は言う。「それと同時に、オピオイド中毒の蔓延、銃暴力の多発、学校内で処方薬が出回っているなどの問題もあります。こうした問題が絡み合うなかで、いっぺんに答えを出したのがいわばエモラップなのです」

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from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

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