交際経験がない「傍観者」コナン・グレイの失恋ソングが熱狂的に支持される理由

 
『Superache』が示す、作家としての成長

リリシストとして「残酷なほど正直」と評されるコナンだが『Superache』制作はつらかったという。自己紹介的な1stとは異なり、確立した自己を示さなければいけなかったし、ツアーが中断したコロナ禍は色々考えすぎてしまっていた。「Family Line」にて過酷な家庭環境まで歌った当人いわく、封印していた記憶に立ち返るソングライティングは「墓を掘り返すようなもの」だった。そして、彼は成長した。ローリングストーン誌のインタビューでは「ずっと恋人ができない理由は、自分自身にあるとわかった」とまで語っている。

テーマとなったのは、いわば「感情の喪中」。リアルタイムの悲劇ではなく、あとをひくかたちで長引く心傷についての音楽だ。作品としては、生々しい感情表現はそのままに、俯瞰的かつユーモアも身に着けている。

オープナー「Movie」では“現実の恋愛は映画と全然ちがう”と嘆く。これは「10代のころと違って、もう自分はそういうフェイクな完璧を求めていない」とわかったからこそ書いた曲だ。

“まるで小説みたい 脇役は結局ひとりぼっちになるんだから
僕は君の人生に脚注を残しておくよ 君は僕を追い出してしまえばいい”
(「Footnote」)



アルバムの主題を象徴する重要曲「Footnote」も、恋愛映画をテーマにしている。映画版『高慢と偏見』を観て号泣して書いたこの曲では「愛は『高慢と偏見』のようにはいかない」と悟る。同作の原作は有名小説なだけあり、「脚注」を意味するタイトルも、コナンらしいかたちで文芸的な意味を孕んでいる。

「愛した人が自叙伝を書いたとしたら、自分の存在は、ページの下部にある、小さな脚注でしかない……大半の音楽で描かれる愛は、巨大な存在で、騒々しい。でも、この曲は静かな気づきなんだ」――コナン・グレイ(Apple Music

次なる「Memories」も恋愛映画モチーフ。“いつまでも君の思い出に刻まれたい。ずっとそばにいて”といった定番セリフをコナンなりに解体し「どうか僕の思い出から去ってくれ」と願うバラードだ。映画への憧れから脱し、自己流の再構築に至る──このアルバム構成だけで、人間として、そして作家としての成長が伝わるだろう。




孤独を分かち合うファンへの恩返し

“すでに見つけたんだね 恋しいと思える人を
僕が出口に立ち尽くしている間に
僕は今も出口に突っ立ったまま”
(「The Exit」)

終幕「The Exit」は、周囲の人々が進んでいっているなか悲嘆に暮れてとどまっている自分、という立場で書かれた曲だ。アルバムとしては、さみしい終わり方かもしれない。しかし、コナン自身は、孤独を感じないようだ。小さな町からトップアーティストへと駆け上がった彼は、自らの音楽を愛してくれるファンの存在を知ったことで「なんでも強烈に感じてしまう」人間が自分ひとりではないと知ることができたのだ。だからこそ、コナンがこのアルバムで願うのは、ある面でファンへの恩返しだ。

「このアルバムで、少しでも孤独を感じてる人が減ればいいな。それこそ、僕が音楽を始めた理由だから。孤独な子どもで、他人とわかりあえる気がしなかった。生きているということは、混乱すること。頭が狂うかってくらい複雑な感情のままでいてもいいんだ」――コナン・グレイ(Apple Music)

『Superache』は、苦悩と孤独を抱えるリスナーを救っていくだろう。ただ、コナン・グレイの音楽は、最初から「こんな風に悩んでいるのは君だけじゃない」と伝えてきたはずだ。かつて孤独な少年をスターにした前出「Idle Town」のYouTubeトップコメントには、おそらくはファンになりたてのユーザーによる、こんな熱情がつづられている。「誰にも理解されないだろうけど、私は本当に、本気で、彼と友達になりたい」。


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コナン・グレイ
『Superache』
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視聴・購入:https://umj.lnk.to/ConanGray_Superache

日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/conan-gray/

 
 
 
 

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